先週の素晴らしかったハイドン&モーツァルトのコンサートに続き、鈴木雅明さんがN響に客演するコンサートを聴きに行きました。今回は武満徹とスウェーデンの作曲家のプログラムです。

 

 

NHK交響楽団10月公演

(東京芸術劇場コンサートホール)

 

指揮:鈴木 雅明

サクソフォーン:須川 展也

 

武満徹/デイ・シグナル 

武満徹/ガーデン・レイン 

武満徹/ナイト・シグナル

ラーション/サクソフォーン協奏曲

ベルワルド/交響曲第4番変ホ長調「ナイーヴ」

 

 

 

まずは武満徹の3曲です。全て金管、ブラスのアンサンブルによる作品。デイ・シグナルはメシアンに似ている、あるいはマイルドなヤナーチェク/シンフォニエッタという印象を持ちますが、注意深く聴くと、やはり武満徹の音楽を感じます。

 

ガーデン・レイン。1曲目は左右に分かれて演奏したN響のブラスのみなさんが、指揮者の周りに集まって演奏します。この動きはまるで生を受けて、この世に降り立った人々のよう。そして、途中で金管のみなさんが銘々バラバラに不協和音を吹くシーンがとても印象的。

 

この曲はオーストラリアの少女による「時間は生命の木の葉で、私はその庭師。時間が順々に散っていく、ゆっくりと」という内容の詩にインスパイアされて書かれた曲ですが、まるで人々の実りある人生が終わる瞬間のように、木の葉が落ちていくイメージを持ちました。

 

ナイト・シグナルでは、再びブラスは左右に分かれます。2曲目に私が感じたような人生の終わりを天国から温かく見守り、さらなる輪廻すら連想させるような、精神的なスケールの大きさを感じる音楽!

 

そして、最後の方の音楽にはかなりの既聴感が?何の曲だろう?と、しばし考えましたが、すぐにアルバン・ベルク/ヴァイオリン協奏曲のラストということを思い出しました。大好きな曲かつ曲想的にシンクロするものがあり、大いに感動しました!

 

 

武満徹の3曲はそれぞれ3分、5分、3分の短い曲ですが、曲想を十分膨らませることができ、かなり聴き応えがありました。そもそも、1曲目と3曲目は「シグナルズ・フロム・ヘヴン」というセットの曲であり、(もしかすると他に実施例があるのかも知れませんが)それを前後に置いて、ガーデン・レインを挟む、というプログラミング自体が秀逸!

 

2006年のザルツブルク音楽祭では、モーツァルト/バスティアンとバスティエンヌを、何とモーツァルト/劇場支配人の前半と後半で挟んで人形劇で上演してしまったという、超行けてる公演を観て、ザルツブルク音楽祭ってめちゃめちゃ凄い!と感動しましたが、N響の武満徹にもプログラミングの妙を大いに感じました。

 

 

 

続いてスウェーデンの作曲家ラーシュ・エーリク・ラーション(1908-1986)。プログラムでは(私の苦手な)新古典主義風の音楽、とあり、ドキドキしましたが(笑)、第1楽章は和声がプロコフィエフに似ていてとても親しみやすい。そして聴き進めると…、この第1楽章は、ほとんどプロコフィエフ/交響曲第5番の第2楽章にそっくり!(笑)

 

プロコフィエフではクラリネットが印象的ですが、それをサクソフォーンが受け持つ感じで、よくシンクロします。さらには短調のニヒルな音楽が続いた後、カデンツァの前の導入が思いっきり長調になったのには、ただ微笑むしかありません(笑) 。そして、須川展也さんのカデンツァが超絶技巧で見事!

 

第2楽章。第1楽章と打って変わって、まるで今年7月に残念ながらお亡くなりになったエンニオ・モリコーネさんの映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のような、懐かしく切ない音楽!フランツ、この映画には青春の思い出が詰まっているので、かなり沁みました…。湧き上がる感動。途中で主題をヴィオラからフーガのように弦楽器でリレーしていき、その後にピィツィカートになる展開にも痺れました。

 

第3楽章。これまた第2楽章と打って変わって、軽快な音楽。短いカデンツァの後、ユニークな終わり方も素晴らしい!ラーションのサクソフォーン協奏曲、とても素敵な曲なので、ぜひコンサートのプログラムとして定着してほしいものです。

 

 

 

最後はベルワルド。スウェーデンの作曲家‘フランツ’・アドルフ・ベルワルド(1796-1868)は、一昨年にヘルベルト・ブロムシュテット/N響で交響曲第3番ハ長調「風変わりな交響曲」を楽しんだのが記憶に新しいところです。今日の4番はどうでしょうか?

 

(参考)2018.4.14 ヘルベルト・ブロムシュテット/N響のベルワルド&ベルリオーズ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12368699339.html

※このコンサートの演目はベルワルドとベルリオーズですが、「ベルワルドとベルリオーズがベートーベンの音楽をどう継承・発展させたのか」に着目して聴いて、大いに唸らされた慧眼のコンサートでした。やはりベートーベンって偉大。

 

 

第1楽章。この曲は予習をした段階では、そこまでは面白さを感じない、どちらかと言うと平板なイメージを持ってしまった曲でしたが、鈴木雅明さんとN響の活き活きとした演奏で聴くと、イメージがよ~く浮かび上がってきます。

 

明るい曲想は、まるでチャーミングな愛妻がせわしなく家事や育児をしている情景のような、あるいは、やんちゃな子供たちがあっちこっちに動いてイタズラをしているような情景を思わせます。ベルワルドがこの曲を「天真爛漫な」という意味で「ナイーヴ」と呼んだことと、よく結び付くように思いました。

 

作曲したのは、シューマンの交響曲の時代に重なりますが、もっと前の時代の曲に聴こえてきて、途中、フルートと金管が音を重ねて進む場面は、さながらベルリオーズを思わせるものがありました。

 

第2楽章。冒頭はまるでリムスキー・コルサコフ/シェエラザードの「若い王子と王女」が始まるのか?と思ってしまいそうなロマンティックな主題!(笑) 幸福感に満ちた音楽を聴きながら、北欧の幸せな家庭の光景を連想します。

 

これにもとても既視感を感じて、一体何だろうと思ったら、今年1月に東京都美術館で観た「ハマスホイとデンマーク絵画展」での、デンマークの幸せな家庭の情景を描いた絵画でした。

 

(写真)ヴィゴ・ヨハンスン/きよしこの夜。ただし、この絵画はどちらかと言うと、より賑やかな第4楽章のイメージかも?(笑)

 

 

ハマスホイはスウェーデンではなくデンマークの画家ではありますが、デンマーク人が大切にする価値観ヒュゲ(くつろいだ、心地よい雰囲気)の精神は、この短調が登場せず、決して劇的ではないものの、素朴な味わいの幸福感に満ちた曲に通底するものを感じます。

 

そして、シンプルにして豊かな北欧デザインにもつながりますし、「節約、それでいて豊か」というキーワードから、ブラームスを通じてベートーベンにもつながります。第2楽章を聴きながら、いろいろなことを感じましたが、イメージをよく膨らませていただける、鈴木雅明さんとN響による見事な演奏は、本当に素晴らしい。

 

(参考)2020.1.21 ハマスホイとデンマーク絵画展(東京都美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12568767513.html

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12596428874.html

 

 

第3楽章は第2楽章からアタッカで始まり、軽快な音楽が心地良い。第4楽章。この楽章は明るく賑やかな音楽が続き、どことなくハイドンの交響曲を思わせます。ただし、途中でシューマンを感じさせる和声も出てきて、変化を楽しめます。

 

最後の方は、とても賑やかな曲想になりますが、まるで孫たちがワイワイやっているのを目にして、おじいちゃんが喜びの余りに「ワハハハハハハ!」と笑っているかのよう(笑)。リズミカルな音楽を切れ良く演奏するN響はさすがの一言。そして曲想を見事に伝える鈴木雅明さんの指揮は返す返すも凄い!ハイドンとモーツァルトに続いて、今日も大いに唸りました!

 

 

 

鈴木雅明さんと須藤展也さんとN響のコンサート、とても面白く楽しめたコンサートでした!実は、鈴木雅明さんがN響に客演するこの10月の3つのコンサートの中で、この日のプログラムは、先週のハイドン&モーツァルト、来週のシューベルト2連発のコンサートに比べてしまうと、そこまでは期待していなかったコンサートでした。

 

しかし、実際に聴いてみると、イメージがどんどん膨らんで、いろいろなことを考えさせられて発見もあって、おまけに長~い感想記事まで付いてきて(笑)、つくづく聴きに行って良かったと思える、卓越したコンサートでした!やはりライヴの力って凄い!ライヴこそ、生きた音楽を体感できる!改めて思い知らされました。

 

 

 

さあ、次はいよいよ楽しみなシューベルト2連発です!交響曲第2番と第4番はどちらも大好きな曲。2008年のユベール・スダーン/東響のシューベルト・チクルスの感動よ再び!もはや名演の予感しかせず、楽しみで楽しみでなりません!