オッコ・カムさんと新日フィルの素晴らしいサッリネン・ニールセン・シベリウスの北欧プロの後、その流れで、夜のヘルベルト・ブロムシュテットさんとN響のコンサート、スウェーデンの作曲家ベルワルドの交響曲を聴きに行きました。

 

 

NHK交響楽団第1882回定期演奏会Apro.

(NHKホール)

 

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

 

ベルワルド/交響曲第3番ハ長調「風変わりな交響曲」

(ブロムシュテット校訂版)

ベルリオーズ/幻想交響曲

 

 

前半はそのベルワルド。フランツ・アドルフ・ベルワルド(1796~1868)。主に19世紀前半に活躍したスウェーデンの作曲家です。交響曲を4曲書いていますが、生前はなかなか評価されず、ようやく作曲家として認められたのは最晩年、という不遇の作曲家です。

 

この日のプログラムは、なぜにベルワルドとベルリオーズ?と思われるかも知れませんが、今月ベートーベンをメインに据えたプログラムを振るブロムシュテットさんが、ベートーベンに強く影響を受けた作曲家として、ベルワルドとベルリオーズの2人を採り上げたものです(以下の動画参照)。

 

(参考)ブロムシュテットさんがベルワルドの魅力を語る動画

https://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=711 (8分)

※NHK交響楽団の公式サイトより。右のカレンダーの下の動画です。

 

つまり今日のコンサートのポイントは、「ベルワルドとベルリオーズがベートーベンの音楽をどう継承・発展させたのか」、ここが大きなポイントのようです。私もそこに着目して聴くことにしました。

 

 

ベルワルド/交響曲第3番の第1楽章。朝が開けるような、ほのぼのとした冒頭。その後、いろいろな展開を見せて、途中の転調も印象的、最後は明るくはっきり終わります。ブロムシュテットさんはメリハリのついた指揮。ここぞというところでは、楽器をかなり強調して鳴らしている印象です。

 

第2楽章。ここの楽章の冒頭はベートーベンの交響曲には見られない調性が聴かれて魅了されます。ブルックナーでおなじみの弦のトレモロを入れるのも、この時代ではユニークかも。トレモロに被せて、弦の独特の響きの刻みが何度も入るのも印象的です。第2楽章後半は軽快な音楽になりました。

 

第3楽章。ここは冒頭から勢いがあって、劇的な音楽。最後は、ベートーベンのエグモント序曲のラストを思わせるような、晴れやかな音楽で終わりました!初めて聴いたベルワルド、「風変わりな交響曲」の標題通り、かなりユニークな音楽でした!

 

 

後半はベルリオーズ/幻想交響曲。この曲を聴くのは本当に久しぶり。都内のコンサートではよく採り上げられていますが、そこまで好きな曲でもないのと(ベルリオーズは「ファウストの劫罰」が圧倒的に好き)、2010年にサー・コリン・デーヴィス/ロンドン交響楽団で聴いた演奏が素晴らしかったので、そこまで他の演奏をいろいろ聴いてみようと思う曲ではないからです。8年ぶりに聴く機会となりました。

 

第1楽章が始まり、しばらく聴き進めると、非常にカッチリとした、隙間のない、真面目な、充実の響きの演奏。悪く言えば、洒脱さや遊び、色彩感のあまり感じられない、ある意味フランスの作曲家っぽくない演奏です。イメージとしては、カール・ベームが振った幻想交響曲、といった印象。

 

どうしてこんなにカッチリとした演奏にするんだろう?ある意味、目新しくはあるけど、ベルリオーズの魅力が半分くらいしか出ていないのではないか?など思いながら聴いていましたが、そのうち、前述の動画のこともあり、一つの考えに至りました。

 

これは、ブロムシュテットさんが、敢えてベートーベンの音楽との違いを実感できるように、あたかもベートーベンの音楽と同じようなスタイルで振っているのではないか?と。

 

つまり、ベルリオーズ/幻想交響曲ではなく、あたかも、ベートーベン/交響曲第10番、あるいは、ベルリオーズ/交響曲第1番というような姿で提示し、ベートーベンの9つの交響曲との違いをよく認識できるように、余計な味付けを加えない、比較のしやすい演奏ではないかと思いました。

 

そう考えると、自ずと今日は聴き方が変わってきます。プログラムの解説にもあったように、楽器の選択(第2楽章のハープ、第3楽章のイングリッシュ・ホルンなど)や使い方(第4楽章のテューバの裏打ち)、頻出するベートーベンには聴かれない和声、旋律重視でなく音の明滅の多用、第5楽章の悪魔的な音色によるイメージ、その他この他、なかなか言葉で表現するのが難しいニュアンス的なものも含め、ベートーベンには聴かれない、非常に斬新な音楽をベルリオーズが書いていることが、この演奏からでもよく分かります。

 

そういう感じで聴いていくと、ベルリオーズの独自性と同時に、前半に聴いたベルワルドの演奏もあざやかによみがえり、ベルワルドもベートーベンと比較して、かなりユニークな音楽を書いていることが、改めて実感できます。

 

正直、私はもっといろいろと味付けをして、ベルリオーズの巧みな管弦楽法を強調した、洒脱な演奏の方が好きですが、ある意味、飾り付けを排除した生身の幻想交響曲は、よりベートーベンとの違いを同じ土俵で比較することができ、とても貴重な機会でした。

 

 

ブロムシュテットさんとN響のベルワルドとベルリオーズ、4月のプラグラム全体を見渡した、かなりコンセプチュアルな演奏、という印象を持ちましたが、とても楽しめました!最初はどうしてこの組み合わせ?と思いましたが、ブロムシュテットさんがおっしゃっていた「ベルワルドはベートーベンの晩年の様式を発展させる頭脳を持っていた」という言葉をよく実感できました。そして、ベルリオーズはやはり天才でした!

 

この素晴らしい2人の作曲家をインスパイアしたベートーベン。来週、どんな形でブロムシュテットさんが振るのか、そして最後のコンサートとなるマリア・ジョアン・ピリスさんはどんな演奏になるのか、今からとても楽しみです!

 
 

 

(写真)ベルワルドの名前が冠せられたベルワルドホール(ストックホルム)。ベルワルドはスウェーデンを代表する偉大な作曲家です。

 

 

 

(追伸)14日(土)はサッリネン・ニールセン・シベリウス・ベルワルドを聴いた、ということで北欧祭!終演後は友人とスウェーデン料理を食べに行って、デンマークとフィンランドのビール、スウェーデンとデンマークのアクアヴィット(北欧の蒸留酒)を楽しんできました。こういうのはトコトン楽しまなきゃですね!

 

ところで、北欧祭の翌日15日(日)はロッシーニ祭!ヒロイン誕生!伝説を目撃!とめちゃめちゃ充実のロッシーニ祭となりました!次回とその次の回の記事でご紹介します!