今年1~3月にかけて東京都美術館で開催された「北欧のフェルメール」とも呼ばれるヴィルヘルム・ハマスホイの企画展。非常に好みの画家だったので、初日にさっそく観に行って以下の記事にしました。

 

(参考)2020.1.21 ハマスホイとデンマーク絵画展(東京都美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12568767513.html

 

 

その際に、「今回ご紹介した絵以外にも、ハマスホイ以外の画家の素晴らしい作品が沢山あって、それらの感想も既にまとめていますが、ブログへのアップは再度観に行った時にと思います。」と書きました。しかし、新型コロナウイルスのために会期の途中で観覧中止となり、結局、そのまま終了となってしまいました…。

 

 

 

結局2回目を観に行くことは叶いませんでしたが、まだ1回観れただけ、私は恵まれている方だと思います。ご覧になれなかった方々へのご紹介も含め、以下にご案内します。

 

 

 

 

(写真)ピーダ・イルステズ/ピアノに向かう少女

※ハマスホイ展で購入した絵葉書より

 

この絵は一見して魅了された絵でした!真摯に譜面を見てピアノを弾く少女。幼稚園か小学校低学年くらいでしょうか?床に届かない足がちょこんとして可愛い!鍵盤は今のものより短いですね。壁に掛かっている絵は赤ちゃんを抱く母親と父親。そこからの少女の成長を示しているようです。

 

ピーダ・イルステズはハマスホイの愛妻イーダのお兄さん。図録の解説には、「(イルステズは)ハマスホイの室内画には決して登場しない子供をしばしば描き、その愛らしい姿によって、画面は洗練された美的感覚と家庭的な温かみが融合した、独特の雰囲気を漂わせている」とありましたが、正にその通りだと思いました。

 

 

 

(写真)ピーダ・イルステズ/編物をする少女

 

先ほどピアノを弾いていた少女が、今度は編み物をしている光景です。この世にこんなに愛らしい光景が他にあるのでしょうか?編み物をしている構図ですが、ヨハネス・フェルメールの「窓辺で手紙を読む少女」を連想させるものを感じました。

 

 

 

(写真)ヴィゴ・ヨハンスン/きよしこの夜

 

一見して、とてもほっこりする絵。子供たちがよろけたり、のけぞったりしているのがリアル。楽しさや勢いを感じる絵です。家族や友人が手を取り合い、歌ったり踊ったりしながらツリーの周りを回るのは、今も続くデンマークの伝統的な風習なんだそうです。

 

デンマーク人が大切にする価値観「ヒュゲ」(くつろいだ、心地よい雰囲気)をこの上なく温かく、そして美しく描き出したイメージとして親しまれている作品、ということでした。

 

 

なお、上記の3作品は、「19世紀末のデンマーク絵画」のコーナーにありましたが、そのコーナーには以下の解説がありました。

 

 

1880年代以降のコペンハーゲンでは、画家の自宅の室内を主題とする絵画が人気を博した。温かみのある家庭的な場面が数多く描かれ、そうした「幸福な家庭生活」のイメージを通じて、「親密さ」がデンマーク絵画の特徴のひとつとなった。

 

 

 

 

(写真)ミケール・アンガ/スケーインの北の野原で花を摘む少女と子供たち

 

何という幸せな光景!タンポポの咲く見渡す限りの野原。広くて、でも少し寂しげな北欧の空。解説には、ミケール・アンガは困難な状況に挑む漁師たちを描いた大作で知られるが、こうしたスケーインの穏やかな面も描いている、とありました。

 

 

なお、この作品は「スケーイン派と北欧の光」のコーナーにありましたが、そのコーナーには以下の解説がありました。

 

 

1840年代以降、画家たちはユラン半島へ足を延ばすようになる。そこは首都に住む画家たちにとって、未開の地も同然であった。1870年代初頭、半島北端の漁師町スケーインが「発見」される。

 

1870年代にこの地を訪れた画家たちは、独特の厳しい自然環境で、その中で繰り広げられる漁師たちの日々の労働に魅了された。物質文明に汚されていない「プリミティヴなデンマーク」で暮らす人々のヒロイックな姿は、芸術における優れて国民的な主題と捉えられた。

 

 

上の作品の他にも、同じミケール・アンガによる「ボートを漕ぎ出す漁師たち」、オスカル・ビュルクによる「スケーインの海に漕ぎ出すボート」など、ブリテンのオペラ/ピーター・グライムズさながらの、漁師たちの非常にダイナミックな絵にも大いに魅了されました。

 

 

私はデンマークにはちょうど10年前となる2010年のGWに一度行ったことがあります。ハマスホイが暮らして作品の多くを残したコペンハーゲン、作曲家カール・ニールセンや童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンになじみのあるオーデンセ、世界遺産の立派な大聖堂のあるまちロスキレなどを巡りました。

 

これらのまちはシェラン島、フュン島にありますが、スケーインのあるユトランド半島(ドイツと陸続き)にはまだ行ったことがありません。次にデンマークを訪れる機会があった時は、アクアヴィット(北欧のスピリッツ・お酒)で有名なオールボーとともに、上記の絵の舞台、スケーインにもぜひ行ってみたいと思いました。

 

 

 

 

(写真)ヴィルヘルム・ハマスホイ/チェロ奏者、ヘンリュ・ブラムスンの肖像

 

さて、前回記事に続いて、ハマスホイの作品をご紹介します。こちらはのちにデンマーク王立管弦楽団のチェロ奏者となったヘンリュ・ブラムスンの絵ですが、まるでチェロを奏でていないかのような静かな絵です。

 

チェロの重厚な佇まいが素晴らしく、非常に深い音色が聴かれそうですが、他のハマスホイの室内画と同じように、音の聴こえてくるイメージがあまり湧かない、とても不思議な絵、という印象を持ちました。

 

 

 

(写真)ヴィルヘルム・ハマスホイ/ロンドン、モンタギュー・ストリート

 

ロンドンのまちを描いた全く見事な絵です。この風景には何となく既視感が?図録で確認したら、左側に立つ建物は大英博物館、ということなので納得でした。

 

ハマスホイは外国旅行中に訪れた街の風景を描くことはほとんどしなかったそうですが、この作品は貴重ですね。ハマスホイ研究の第一人者ポウル・ヴァズは本作のことを、「画家の最も美しい絵画の一つ」と記しているそうです。

 

 

 

(写真)ヴィルヘルム・ハマスホイ/室内

 

さあ、最後は前回の記事でも多くご紹介した、ハマスホイの愛妻イーダの絵で締めましょう。ハマスホイとイーダは1897年10月から翌年5月までロンドンに滞在。その仮住まいを描いたものです。上記のようにロンドンのまちを描いた非常に立派な風景画もある一方、異国のロンドンであっても、室内とイーダを描くところがハマスホイらしくて好きです。

 

 

 

ハマスホイ展、前回の記事でも絶讃しましたが、正に珠玉の美術展でした!私が10年前にデンマークを旅したきっかけは、(もちろん)6曲の素晴らしい交響曲を残した作曲家カール・ニールセンの祖国だから、ですが、今回のハマスホイ展で知った「ヒュゲ」の考え方も含め、デンマークは何か決定的に親しみを覚える国となりました。

 

 

美術や音楽などの芸術が契機となって、その作品が作られた国に興味を持ち、実際に訪れる。そして作品の背景を体感し、鑑賞するための糧を得る。その後、再びその国の芸術作品と出逢い、大いなる共感を持って堪能し、さらにその国への思いを馳せる。これほど幸せな流れ、好循環はないように思います。

 

 

 

 

 

(おまけ)そしてデンマークと言えば、美味しいスモーブロー(上)とデニッシュ。スモーブローは有名なチボリ公園の中のレストランでいただきましたが、パンが隠れて見えないほど、具がてんこ盛りで出てきて驚きました!カールスバーグも進みました(笑)。