先日、東京二期会のR.シュトラウス/サロメを観に行きましたが、そのサロメを副題に冠した素晴らしい美術展が開催されていました。ギュスターヴ・モロー展です!

 

 

ギュスターヴ・モローは大好きな画家。フランス象徴主義を代表する画家で、「パリの真ん中に閉じこもった神秘家」と呼ばれ、自らは「夢を集める職人」と名乗っていました。今回はパリのギュスターヴ・モロー美術館から、選りすぐりの作品が来日したものです。

 

私は2006年にパリに行った時にギュスターヴ・モロー美術館を観に行きました。ギュスターヴ・モローの名画が壁いっぱいにビッシリ掲げられていて壮観でした!迷うことなく、パリで一番お勧めの美術館です。その一部の作品を再度観ることができるのはありがたい限り。特に印象に残ったのは以下の絵画です。

 

 

 

(写真)ギュスターヴ・モロー/一角獣

※ギュスターヴ・モロー展で購入した絵葉書より

 

この絵は以前からパリのタピストリーの一角獣の絵に似てるな~と思っていましたが、やはり解説に「(モローは)パリのクリュニー中世美術館のタピストリー『貴婦人と一角獣』を参照した」と説明がありました。処女だけが捕獲でき、触れるものは何でも浄化する力を秘めた角をもつ、想像上の動物である一角獣。キリスト教では聖母マリアの処女性と関連づけられてきたそうです。観れば観るほど美しい絵ですが、清らかなイメージだけではない何かも感じます。

 

 

 

 

(写真)ギュスターヴ・モロー/エウロペの誘惑(上)とレダ(下)

 

ゼウスが変装して美女3名を誘拐する物語はギリシャ神話の中でも有名ですが、そのうち、エウロペとレダを主題とした絵です。この2枚の絵を含むコーナーでは以下の解説がありました。う~ん、いろいろと考えさせられる絵です。

 

◯最高神ゼウスに誘惑され、数奇な運命に見舞われたエウロペやレダ、セメレといった女たちまでもが、恍惚としてその誘いを受け入れ、艶やかな肉体を顕わにしている。

◯「女というのは、その本質において、未知と神秘に夢中で、背徳的悪魔的な誘惑の姿をまとってあらわれる悪に心を奪われる無意識的存在なのである」(ギュスターヴ・モローの言葉)

 

 

 

(写真)ギュスターヴ・モロー/デリラ

 

サン=サーンスのオペラでも有名な、サムソンとデリラの主題の絵です。ヨーロッパの美術館でよく見かける主題ですが、他の絵にはだいたいサムソン、特に髪を切られたサムソンが描かれますが、この絵はデリラだけ、というのがユニーク。サムソンの目線という解説がありましたが、艶めかしくエキゾチックなデリラに惹き込まれそうですね。これではいかに英雄のサムソンでも、その魅力に抗うことはできないでしょう。エリーナ・ガランチャさんの膨よかで妖艶な歌声が聴こえて来そうです。

 

(参考)2018.11.18 サン=サーンス/サムソンとデリラ(METライブビューイング)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12420221369.html

 

 

 

(写真)ギュスターヴ・モロー/出現

 

有名なサロメとヨカナーンの絵です。サロメはほぼヌードですが、オペラのような官能性や陶酔性は感じません。緊張関係にあり、あたかもこれから対決をするような雰囲気すら感じられる絵。背景は簡潔な線画になっていて、2人だけが浮き彫りになっているように観えました。この絵の周りには、同じくサロメを主題とした絵や習作などが沢山あって、周到に用意された絵、という印象を持ちました。

 

解説には、モローがサロメを主題とした背景には、ドラクロワやピュヴィス・ド・シャヴァンヌらによる同主題の作品や、フローベールが1862年に発表した古代カルタゴを舞台とする小説「サランボー」からの影響が指摘される、とありました。サランボーは、神秘思想と夢想的情熱に酔いしれる女性として、「ファム・ファタール(宿命の女)」という概念に多大な影響を与えたと言われているそうです。

 

(参考)2019.6.5 R.シュトラウス/サロメ(東京二期会)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12476061294.html

 

 

 

ところで、ギュスターヴ・モローにはアレクサンドリーヌ・デュルーという恋人がいました。モローが「この上なく心優しい愛情と尊い忠誠の証を私に与えてくれた」と大切に思っていたアレクサンドリーヌ。しかし、モローより先にこの世を去ってしまい、モローは大いに悲しみに暮れたと言います。

 

そこで、モローは自宅を改装し、2階の寝室を家族や親しい友人を記念する空間にするとともに、2階の居間を愛しきアレクサンドリーヌに捧げる空間に仕立てました。アレクサンドリーヌの思い出の部屋を設けたのです。

 

これはコルンゴルトのオペラ「死の都」で、主人公のパウルが亡き愛妻マリーの思い出の部屋を作ったのと同じではないですか!実際にパリのギュスターヴ・モロー美術館の2階にありますが、その部屋の写真や解説を見て、これは死の都と同じ!と強く印象に残りました。ギュスターヴ・モローの象徴的・幻想的な絵の雰囲気も含め、もしかすると、そのうちパウルをギュスターヴ・モローに読み替える演出も出てくるかも知れませんね。あるいは既にあるのかも?

 

(参考)2018.1.7 コルンゴルト/死の都(ドレスデン国立歌劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12358947447.html

 

 

 

ギュスターヴ・モローの数々の素晴らしい絵に大いに魅了されましたが、この美術展の解説の締めには、以下の言葉がありました。

 

「モローにとってのファム・ファタールとは何だったのか。それはおそらく単に男を滅ぼす悪女を意味しなかった。女性というものがもつ多面性と、その絶大なる影響のもとで、愛し、苦しみ、夢み、創造したひとりの画家を、逃れようもなく描き続ける運命へと導いた、見えざる力ではなかったろうか。」

 

何と素晴らしい解説!これには大いに頷きました!私がギュスターヴ・モローの絵、そしてギュスターヴ・モローの描いた女性たちに惹かれる理由が分かるような気がします。

 

 

冒頭で書いたように、パリのギュスターヴ・モロー美術館は過去に観に行ったことがあります。今回の企画展は観に行かなくてもいいかな?とも一時は思いましたが、実際に観てみると、パリの時には気付かなかった発見がいくつもありました。やはり何度でも観てみるものですね。何事も経験です。

 

 

(写真)道幅が限られて斜めからのショットとなりましたが、2006年に行ったパリのギュスターヴ・モロー美術館

 

 

 

ところで、私がこのタイミングでギュスターヴ・モロー展を観に来たのには理由がありました。その理由とは?次の記事で!