先月5月の常任指揮者就任の3つのコンサートが素晴らしかったセバスティアン・ヴァイグレさん。今日は得意のオペラを振る公演を観に行きました。R.シュトラウスのサロメです!

 

 

東京二期会オペラ劇場

【ハンブルク州立歌劇場との共同制作】

R.シュトラウス/サロメ

 

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

演出:ヴィリー・デッカー

演出補:シュテファン・ハインリッヒス

舞台美術:ヴォルフガング・グスマン

照明:ハンス・トェルステデ

舞台監督:幸泉 浩司

 

ヘロデ:今尾 滋

ヘロディアス:池田 香織

サロメ:森谷 真理

ヨカナーン:大沼 徹

ナラボート:大槻 孝志

ヘロディアスの小姓:杉山 由紀

ユダヤ人1:大野 光彦

ユダヤ人2:新海 康仁

ユダヤ人3:高柳 圭

ユダヤ人4:加茂下 稔

ユダヤ人5:松井 永太郎

ナザレ人1:勝村 大城

ナザレ人2&奴隷:市川 浩平

兵士1:大川 博

兵士2:湯澤 直幹

カッパドキア人:岩田 健志

 

死刑執行人:仲川 和哉

エジプト人&召使:須藤章太、山田 貢央

カッパドキア人:石川 修平

 

管弦楽:読売日本交響楽団

 

 

 

私は本記事の最後に書いたように、R.シュトラウスの山荘のあるガルミッシュ・パルテンキルヒェンに行ってみたくらいにR.シュトラウスの音楽が大好き。しかし、なぜかサロメの音楽にはあまりピンと来ず…。同じ時期の音楽だと、「いかにサロメ姫が美しかったことか」と言われ、初演が酷評されてしまったエレクトラの方が断然好きだったりします。

 

なので、これまでサロメを観たのは20年くらい前に2回だけ。昨年のザルツブルク音楽祭のサロメはチケットが当たらなくて早々に諦め、逆にパウル・アブラハム/ハワイの花という珠玉のオペレッタに出逢えて、却って外れてラッキーだったと思ったくらい。久しぶりに観るサロメ、果たしてどうでしょうか?

 

 

 

幕が開きました。青白い長い階段の象徴的な舞台。途中に階段が割れて地につながるのはヨカナーンの幽閉されている地下牢への入口でしょうか?

 

サロメ登場。高音のヴァイオリンとグロッケンシュピールの妖しい音楽は、4月に観たクリムト展の金箔を使ったクリムトの絵を連想させます。久しぶりに聴いたサロメの音楽、ユダヤ人やローマ人に言及する場面でも分かりやすい動機が付いていて、何だ(笑)、非常に聴きやすい音楽ですね。

 

(参考)2019.4.23 クリムト展 ウィーンと日本1900(東京都美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12456428390.html

 

 

聴き進めていくと、セバスティアン・ヴァイグレさんと読響の伴奏が素晴らしい!動機やその場面の特徴的な楽器をかなり強奏させて、メリハリの非常に付いた演奏。これを聴くだけでも物語の進行が手に取るように分かる、堂に入った極めて説得力のある指揮と演奏です。

 

ヨカナーン登場の場面の音楽も大きく聴かせます!この辺りはアルプス交響曲に似た響きを感じますね。サロメがヨカナーンを讃える歌の節回しで、途中速いパッセージになる瞬間に魅了されました。

 

ヨカナーンがサロメにキリストに跪くように歌う場面では、2人が十字架のポーズで重なり合う感動のシーン!しかし、最後にヨカナーンはサロメに呪いの言葉を投げかけます。大沼徹さん、タップリ歌って痺れる瞬間!存在感のある素晴らしいヨカナーンでした。

 

その後のオケの後奏では、ヨカナーンがナラボートを成仏させる演技が付きました!さらに呪われたサロメが自殺しそうになるのを、ヨカナーンが眼力だけで諌めるシーン!見応えのあるシーンの連続に大いに唸りました!さすがはただでは済まさないヴィリー・デッカーさんの演出です!

 

ヘロデはサロメにいろいろ注文しますが、サロメは拒否。「お前が少しかじった果物を食べたい」と!ヘロデ、変態ですね!(笑) それだけナラボートもヘロデも狂わせるほどサロメが美しいということか。冬のNY旅行で観た魅力的なサロメの絵を思い出しました。今尾滋さんのヘロデは見事なキャラクターテノール、小物感がよく出ていました。

 

(写真)Henri Regnault/Salome

※メトロポリタン美術館で購入した絵葉書より

 

 

5人のユダヤ人たちがあーでもない、こーでもないと議論する場面。まるでR.シュトラウス/ばらの騎士のヴァルザッキの音楽の原型のよう。5人の息もピッタリ、お見事でした。

 

ヨカナーンの言葉に侮辱されたと憤るヘロディアス。ヘロデに止めさせるように言っても、ヘロデは「お前のこととは言ってない」と。確かに!(笑) それだけヘロディアスが罪の意識に苛まれていることが伺い知れます。

 

7つのヴェールの踊りのシーンは、歌手が踊るのか?はたまた音楽だけで想像させるのか?など演出の見せどころのシーンですが、今回はサロメとヘロデの演技が付きました!ほとんどワーグナー/ラインの黄金のアルベリヒを思わせるくらいにサロメに翻弄されるヘロデ。

 

途中で音楽にピッタリ合った二人の奇妙な踊りも印象的。最後はサロメがヘロデを銀のお盆に乗せて血の洗礼を施そうとするようなシーンに。大変見応えのあるシーンでした!

 

踊りの褒美としてヨカナーンの首を所望するサロメの一本調子で命令口調の歌い口がいい。そしていよいよお盆に乗ったヨカナーンの首が登場!もの凄い強奏を入れるオケ!何てことだ~!と散り散りになり恐れおののくユダヤ人たち。非常にスペクタクルなシーン!

 

そして恍惚になって喜びの歌を歌うサロメ!ただし性的な倒錯というよりは、純愛を感じました。そしてヘロデの「あの女を殺せ!」の後、何と!サロメは自らナイフを突き立てて死を選び、ヨカナーンの首にすがって幕となりました!

 

実は途中のサロメの演技から推察して、そうくるのかな?と予想はしていましたが、実際にそれを目にすると、音楽も相まって大いなる感動!

 

 

 

いや~、素晴らしいサロメでした!とにかく、セバスティアン・ヴァイグレさんと読響が素晴らし過ぎる!メリハリや強奏がふんだんに入り、堂に入った骨太のサロメ。おそらく国内のオケで聴く最上のR.シュトラウスの演奏では!

 

以前のばらの騎士も見事でしたが、今回のサロメはより一層抑揚が付いて、それがピタピタッと決まって本当に素晴らしい。楽器の鳴りっぷりの良さに何度も痺れ、サロメが比較的苦手な私でも大いに楽しめました。歌手の方々もみな好演でしたね。

 

 

そして、カーテンコールでは、生ヴィリー・デッカーさんきた~!大いなる感動!この方の演出は決してオーソドックスではなく、ひねりを効かせつつ、なるほど!と唸らせるもの。個人的には2007年にウィーン国立歌劇場で観たコルンゴルト/死の都がめちゃめちゃ素晴らしかった思い出があります。

 

今回のサロメの演出も、月に由来する青白いシンプルな舞台の中で、物語の進行や人間関係は人物や演技に任せ、退廃感や官能性は音楽に委ねた、とてもよく考えられた舞台。その中で様々な趣向を凝らした演技でサロメの新たな魅力をよ~く出していて、ラストの終結も全くもって見事でした。

 

いやはや演出家の卓越した洞察力には本当に唸ります。サロメの森谷真理さんともカーテンコールで大いに健闘を讃え合っていて、会心のサロメだったと思います。ものの見事な素晴らしい演出でした!

 

 

 

(追伸)今回の公演のプログラムは、フローベール「ヘロディアス」とワイルド「サロメ」、クラーナハ・カラヴァッジョ・モノーの3つのサロメの絵画などの記事もあって、大変読み応えがありましたが、私が特に魅了されたのはR.シュトラウスの山荘のあるガルミッシュ・パルテンキルヒェンの記事です。

 

R.シュトラウスの山荘は一般公開されていないので、私が行った時にも周りから眺めたのみでしたが(それはそれで感動)、今回の記事では、中の様子が分り、特にR.シュトラウスのオペラの第1作「グントラム」が失敗したことにちなんで設けられた「グントラムの墓」の写真も載っていました!

 

「グントラム」はCDで何度も聴きましたが、非常にロマンティックで素晴らしいオペラです。ワーグナーに似ていると言われていて、確かにニュルンベルクのマイスタージンガーを思わせる場面もありますが、一体それの何が悪いのか?いつの日か観てみたいオペラの筆頭格。今回の素晴らしいサロメの演奏を受けて、ぜひセバスティアン・ヴァイグレさんと読響で観てみたいものです。

 

(参考)2014.8.12 ガルミッシュ・パルテンキルヘン観光(R.シュトラウス名所巡り)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-11914513069.html