日本・オーストリア友好150周年のハイライトの一つ、クリムト展が始まったので、さっそく東京都美術館に観に行きました。
グスタフ・クリムトはこれまでウィーンを中心に世界の各地でいろいろな作品を観てきました。今月13日にはプレ・コンサートで天羽明恵さんによるウィーンの音楽のソプラノ・リサイタルも聴きたので、個人的に大いに盛り上がって、初日にさっそく観に行ったものです。
(参考)2019.4.13 「クリムト展」プレ・コンサートvol.3(東京・春・音楽祭)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12454128597.html
いや~、クリムトの人生や家族、絵画の様式、日本美術との関係など、クリムトの作品を幅広く取り扱った素晴らしい美術展、大いに魅了されました!特に印象に残った絵は以下の通りです。
(写真)グスタフ・クリムト/ヘレーネ・クリムトの肖像
※購入した絵葉書より
この絵は始めの方にありましたが、これまでクリムトの絵として観たことがない雰囲気の絵で、観た瞬間にとても魅了されました。
解説には、クリムトの弟エルンストの娘ヘレーネの肖像。弟の亡き後、クリムトは彼女の後見人となった。当時6歳という年齢のわりに大人びた顔立ちの少女、とありました。
とても6歳の少女とは思えない、清楚さと女性らしさが同居した、不思議な魅力に溢れた絵でした。
(写真)グスタフ・クリムト/赤子(ゆりかご)
クリムト独特の、人物に襦袢のようなものが幾重にも重なる絵。解説には、歌川豊国を始めとする日本の錦絵の影響がある、とありました。
子供の尊さや偉大さを表していると思われるとともに、子供がこれから世の中に出て行くに当たって与えられるだろう数々の助け・支援を暗示しているような、とても印象的な絵です。
(写真)グスタフ・クリムト/アッター湖畔のカンマー城Ⅲ
クリムトの風景画です。クリムトは大都市ウィーンでは風景画を決して描かなかった。気遣いを要する都会での人物画の制作とのバランスをとるための必要不可欠な時間だったのかもしれない、と解説にありました。とても説得力があるように思いました。
私はこの絵に描かれたアッター湖とカンマー城を見に行ったことがあります。カンマー城は一般人は入ることができないので、おそらくクリムトも湖のボートあるいは望遠鏡を覗いて絵を描いたものと思われます。木が城を隠す構図がとてもいいですね。
なお、アッター湖と言えば、マーラー/交響曲3番。カンマー城から南に10kmのシュタインバッハでマーラーは3番を書きました。3番を聴けば十分に感じることができますが、美しいアッター湖、また行ってみたいです。
(写真)アッター湖畔のシェルフリンク。カンマー城はこの奥にあります。
(写真)アッター湖。エメラルド・ブルーの美しい湖。遊覧船グスタフ・クリムト号で周りました。
(写真)カール・モル/夕映えの白樺林
白樺の白い幹が夕陽に照らされ美しいピンクに染まっている素敵な絵。下草よりも白樺をよりきめ細やかに描き、白樺を浮き上がらせていたのが印象的でした。
なお、カール・モルはマーラーが結婚したアルマ・シントラーの養父。また、アルマはクリムトと一時深い関係にあった、とも解説にありました。この辺りは人間関係が大変輻輳しています(笑)。
(写真)グスタフ・クリムト/ベートーベン・フリーズ(原寸大複製)
何と!セセッシオンのベートーベン・フリーズが上野に出現!ウィーンで何度か観ましたが、複製とは言え、これが東京で再現されるとは!原寸大なので、もう圧倒的なスケール感です!そして、周りの方々のイヤホン・ガイドからは、ベートーベン/第九がガンガン聴こえて(笑)、いい感じでした。
このベートーベン・フリーズがお披露目の時にも実際に第九の第4楽章が演奏されましたが、管楽器用に編曲して第九を披露したのは誰だったか、分かりますか?かのグスタフ・マーラーなんです!
また、このベートーベン・フリーズが披露された第14回ウィーン分離派展のポスターの展示もありましたが、アルフレート・ロラーの手によるものです。マーラーがウィーン宮廷歌劇場(現在のウィーン国立歌劇場)の舞台で起用して、ワーグナー/トリスタンとイゾルデなど一斉を風靡した、あのアルフレート・ロラーです。
なお、私もウィーンを訪れた時、セセッシオンでベートーベン・フリーズを観た後に、コンサートで第九を聴いたことがあります。これはめっちゃ気分が盛り上がりますよ。お勧めのコースです!
(写真)ウィーンのセセッシオン。ウィーンっ子から「金色のキャベツ」と呼ばれる飾りで有名な建物の設計はオットー・ワーグナーの弟子ヨーゼフ・マリア・オルプリヒ。
(写真)グスタフ・クリムト/家族
昨年もウィーンで観た絵です。この絵に再び出逢えたのは感動的でした。解説には、3人が眠っているのか、息絶えているのかは分からない。制作の背景には、画家の子供たちとその母親をめぐる個人的な葛藤があったと考えられる、とありましたが、私は希望と受け取りたいです。
(写真)モーリッツ・ネーア/猫を抱くグスタフ・クリムト、ヨーゼフシュテッター通り21番地のアトリエ前にて
この写真はクリムトの有名な写真です。猫を抱いている印象的なポーズ。私は大河ドラマ「女城主 直虎」で、南渓和尚がよく猫を懐に入れていたのを見て、人知れずクリムトを連想していました(笑)。
図録の解説には、批評家がクリムトのアトリエを訪れた際、8匹から10匹の猫が走り回り、スケッチを破いたりしたそうですが、クリムトはさして気にしていなかったそう、とありました(笑)。
なお、クリムトは自画像を一枚も残していません。その理由が解説にありました。
「自分には関心がない。それより他人、女性に関心がある。」
クリムト、カッコイイ!そして、こんな解説も。
ウィーン社交界の女性たちの肖像画において、クリムトは上流階級の女性に特有の優雅さに官能性を合わせ、彼女たちをいっそう魅力的に描き出した。高貴でありながら、女優のようにあでやかな肖像画を描くことで、クリムトは社会的なしきたりによって欲求を抑え込まれた当時の女性たちを解放した。
私はこのようなクリムトの生き様に大いに共感を覚えます。
この他、絵葉書はありませんでしたが、以下の作品が印象に残りました。
◯ハンス・マカルト/ヘルメスヴィラの皇后エリーザベトの寝室装飾のためのデザイン
ヘルメスヴィラはエリーザベトの離宮、その寝室装飾のデザイン画です。中央の絵画にシェイクスピア/真夏の夜の夢。赤や黄色の部屋の装飾と、エメラルドブルーの真夏の夜の夢の絵画の対比が見事な絵でした。
(写真)ヘルメスヴィラ
◯エルンスト・クリムト/フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ
昨年夏にリミニを訪問してから、この主題も大変身近になりました。フランチェスカとパオロの幸せそうな表情が印象的な絵。解説にはダンテの「新曲」でダンテが遭遇するフランチェスカとパオロの霊ではなく、若者らしい完全な愛の調和を表している、とありました。クリムトの弟のエルンスト・クリムトの絵、初めて観ましたがとてもいいですね!
クリムト展、予想通りの素晴らしさでした!解説が極めて充実している図録を購入したので、しっかり読んでから、また観に行きたいと思います!