METのライブビューイングで、サン=サーンス/サムソンとデリラを観に行きました。デリラを歌うのは大好きなエリーナ・ガランチャさんです!

 

 

METライブビューイング(東劇)

サン=サーンス/サムソンとデリラ

 

指揮:マーク・エルダー

演出:ダルコ・トレズニヤック

 

デリラ:エリーナ・ガランチャ

サムソン:ロベルト・アラーニャ

大祭司:ロラン・ナウリ

ヘブライの長老:ディミトリ・ベロセルスキー

ガザの太守アビメルク:イルヒン・アズィゾフ

 

 

 

今年4月にロッシーニに惹かれてセミラーミデを観て、すっかりハマってしまった(笑)、METのライブビューイング。これまで今年が記念年のロッシーニとグノーを中心に観てきましたが、この公演はエリーナ・ガランチャさんのデリラを観たい、ただただその一点の動機で観に行きました。

 

サムソンとデリラは一度実演を観たことがあります。2001年のMETの来日公演。サムソンはあのプラシド・ドミンゴさん、デリラは当時絶頂のオリガ・ボロディナさん、それはもう素晴らしい舞台でした。今日はどうでしょうか?

 

 

 

第1幕。ヘブライの民の悲しみにくれる嘆きの合唱が見事。サムソンが民衆を励ます歌。ロベルト・アラーニャさんはさすがフランス語の歌い回しが完璧で頼もしい。長調でぐっと高まる場面ではハープがいい感じで入ります。そして、立ち上がる民衆、とても感動的なシーン!

 

敵方のアビメルクの威圧的な歌を経て、アビメルクを返り討ちでやっつけるサムソン。ロラン・ナウリさんの大祭司の捨て台詞のような歌は弱々しく、力ではサムソンに敵わないことを表わします。

 

ヘブライ人の感動的なグレゴリアン・チャントのような歌の後に、いよいよデリラ登場。舞台中央の階段の上から登場し、降りてくるエリーナ・ガランチャさん。何という美しさ!もはやこの場面を観ただけで来て良かったと言えるレベル!

 

ヘブライの長老はディミトリ・ベロセルスキーさんによる立派な歌。デリラに惹かれるサムソンに、「あの女を見るな」「あの女の瞳の炎を見るな」と諭しますが…、はーい、そんなの無理でーす!(笑)

 

ガランチャさんのデリラのふくよかな歌!まだ第1幕なので、抑えている印象ですが、相変わらずの美しい歌唱。そして、グラマラスで完璧な美貌。ハッキリ言って、これで落ちない男はいないです。最後は流し目を送りながら去っていきました。はう~、美しい!

 

 

 

幕間のインタビューはロベルト・アラーニャさんから。インタビュアーはMETのスター、スーザン・グラハムさん。アラーニャさんの、サムソンは子供頃のヒーローだったとの発言に、グラハムさん、だから長髪にしてるの?と突っ込み(笑)。

 

グラハムさん、サムソンは力強い英雄だが美女に弱いという矛盾を持っているけどどう思うか?とおっしゃっていましたが、いやいや、それは矛盾でなく、当たり前なのでは?(笑) そして、アラーニャさんは第2幕をイメージして、女性は時に神を超える、とおっしゃっていましたが、私の意見では、女性は常に神を超える、ですが何か?(笑)

 

演出家のダルコ・トレズニヤックさん。今回のデリラは女優グロリア・スワンソンをイメージした、とおっしゃっていました。合唱指揮のパランボさん、合唱は第1幕のチャントのような歌から、第3幕では別の歌唱に変わる、とおっしゃっていたのが印象的。

 

そして、先日お亡くなりになられた偉大なるソプラノ、モンセラット・カバリエさんを追悼するコーナーがあり、1983年のMETの100周年の記念公演、アンドレア・シェニエの最後の二重唱の場面が流されました。シェニエはホセ・カレーラスさん。絶叫しがちな場面ですが、さすがはカバリエさんのマッダレーナ、美しい歌唱ですね!

 

カバリエさんは辛うじて一度だけ実演に触れたことがあります。2007年のウィーン国立歌劇場はドニゼッティ/連隊の娘の公演。ナタリー・デセイさんのマリー、ファン・ディエゴ・フローレスさんのトニオ、カルロス・アルヴァレスさんのシュルピスと最強の布陣。ローラン・ペリーさんのコミカルな演出が楽しい、最高の舞台でしたが、第2幕でカバリエさんがクラーケントルプ公爵夫人として登場したのです!

 

さすがレジェンド、登場しただけで、シュターツオーパーの客席から大きな拍手。そして1曲披露すると、やんやの喝采となりました!改めて素晴らしい歌をありがとうございました。合掌。

 

 

 

第2幕。デリラがサムソンを待つ場面。ガランチャさんは第1幕とは別人のように声色を変えて迫力の歌!明日サムソンが鎖に繋がれますように!と凄みを見せます。涙を切り札に、とも歌いますが、そりゃどんな男も陥落しますね…。大祭司との2重唱も見事。ワーグナー/神々の黄昏の、第2幕の復讐の3重唱に似た音楽すら出てきました。

 

そしてサムソン登場。デリラはさきほどとは全く別人のような優しい声で応えます。キャーこわい!(笑) この場面でのデリラとサムソンのやりとりは非常に聴き応えがあり、大いに魅了されます。

 

そしていよいよ、オペラ史上最強の誘惑のアリアで名高い「あなたの声に私の心は開く」。ガランチャさんが切々と歌い始め、だんだん高まっていく官能的で感動的な歌にもうメロメロ…。そして、とうとう赤紫のガウンを脱いで緑のネグリジェ姿に!

 

素晴らしいアリアに官能的な肢体!そして、オケもクラリネットがハープが弦がと素晴らしい効果!繰り返しでは、サムソンがデリラの主旋律に、ほとんど愛撫のように絡み合う副旋律!感動に打ち震え、涙止まらなくなりました…。これがオペラの力です!

 

(参考)エリーナ・ガランチャさんによるアリア「あなたの声に私の心は開く」

https://www.youtube.com/watch?v=noHQXogDsA0 (7分)

※ドイツ・グラモフォンの公式動画より。こちらはガランチャさんのソロのイメージ映像なので、テノールは出てきません。

 

最後の展開も大迫力。サムソンは陥落し、自らの力の源である長い髪の秘密を打ち明けてしまい、デリラがその髪を切って、力をそがれたサムソンがペリシテ人の兵士たちに組み伏せられて終わりました。最高の第2幕!これ以上のデリラはもう考えられません!

 

 

 

再び幕間。エリーナ・ガランチャさんのインタビュー。スーザン・グラハムさんから、第2幕のアリアはメゾ・ソプラノの国歌よね~、いつもズボン役が多いからね~、と2人で意気投合していました(笑)。ガランチャさんは、もし国家も宗教もなく、ガラス球の中だったら、2人は愛し合っていた。素晴らしいアリアで、特にテノールが加わる後半は別世界、とおっしゃっていたのが印象的。ガランチャさんは素晴らしい歌と美貌に加えて、とても頭の回転の速い方、という印象です。METのメゾ・ソプラノのスター、スーザン・グラハムさんとの豪華なツーショットでした。

 

そしてMETライブビューイングの2018/2019シーズンの予告。今後も魅力的な公演が目白押しです。私もあと2作品観に行く予定、今からとても楽しみ。

 

ロラン・ナウリさんのインタビューでは、ナウリさん、いきなりだみ声でフハハハハハ!と笑う掴み。まるでデーモン小暮閣下のよう(笑)。第2幕では、ガランチャさんの眼差しに、心に火が付くとおっしゃっていました。味方まで魅了してしまうデリラ!

 

 

 

第3幕。囚われて、両眼を失い、暗い地下で大きな石臼を挽くサムソンの屈辱と悲嘆の歌。そして巨大な人型のダゴンの神が現れ、ペリシテ人たちの酒宴のシーンになりました。バッカナールは今年の7月に札幌のPMFで中高校生たちの演奏を聴いたのが懐かしい。みんな今は別の曲を練習していることでしょう。

 

(参考)2018.7.22 PMFの吹奏楽セミナー/北星学園女子中学高等学校吹奏楽部のバッカナールの記事

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12392664911.html

 

大祭司に促されて、デリラがサムソンを持て遊びますが、デリラは喜んでない様子。その後、ペリシテ人たちが盲目になったサムソンをからかうシーンもありますが、デリラは耳を塞いで後悔の念も見せます。役目とは言え、自分を愛した英雄の無残な姿は見たくないのでしょう。ガランチャさんの役作りに魅せられました。

 

そして、浮かれるペリシテ人たちに、ラスト、サムソンが神に今一度祈って怪力を発揮し、神殿を破壊するシーン。巨大なダゴンの神の偶像が崩落するのかな?と思いましたが、像はそのままで、舞台後ろからのまばゆい光に包まれて終わりました!これは一体?

 

 

巨大な像がどう崩落するかに注目していたので、十分確認できていないのですが、最後のシーンでデリラが舞台から姿を消したように見えたので、これはサムソンがデリラをペリシテ人たちの世界から解放したのではないか?と思いました。

 

デリラをサムソンを籠絡するための道具として扱うペリシテ人たちから、サムソンが愛情を持って解放した。そう考えると、第3幕のデリラの立ち振る舞いがストンと落ちます。

 

サムソンは裏切られてもなおデリラを想い、デリラも後悔の念を持ってサムソンに情けをかけ、サムソンはせめてデリラだけでも国家や宗教でがんじがらめの世界から解き放たれて、自由に生きて欲しいと、最期の力を振り絞って 、神殿を破壊して、デリラを解放した。もしかすると、そんなロマンティックなラストなのかも知れません。

 

 

 

カーテンコールでガランチャさんとアラーニャさんが現れた時には、もの凄い歓声が飛んでいました!素晴らしいサムソンとデリラ!

 

いつもながらに高いクオリティのMETの公演には本当に魅了されます。ライブビューイングだけでなく、そのうち、ぜひ観に行ってみたいものです!(また何かフラグっぽいかも?笑)