現代最高のウィーンのメゾ・ソプラノ、エリーザベト・クールマンさんが企画構成と歌を披露する、東京・春・音楽祭2019の特別な公演を聴きに行きました。
La Femme C'est Moi~クールマン、愛を歌う
(東京文化会館大ホール)
■出演
企画構成、歌:エリーザベト・クールマン
ヴァイオリン:アリョーシャ・ビッツ
ヴィオラ、編曲他:チョー・タイシン
チェロ:フランツ・バルトロメイ
コントラバス:ヘルベルト・マイヤー
クラリネット、サクソフォン:ゲラルト・プラインファルク
アコーディオン:マリア・ライター
ピアノ:エドゥアルド・クトロヴァッツ
■曲目
記事本文、またはこちらをご参照ください。
http://www.tokyo-harusai.com/program/kulman.pdf
※東京・春・音楽祭の公式ウェブサイトより
エリーザベト・クールマンさんはこれまで3回聴いたことがあります。2014年大晦日のウィーン国立歌劇場のJ.シュトラウスⅡ/こうもりのオルロフスキー公爵、そして、昨年GWのウィーン・フィルの定期演奏会で聴いたバーンスタイン/交響曲第1番「エレミア」の独唱です。どれも本当に素晴らしい公演、特に後者はレニーの記念年に最高のエレミアを聴けて感無量でした。
(参考)2014.12.31 J.シュトラウスⅡ/こうもり(ウィーン国立歌劇場)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-11983665165.html
(参考)2018.5.5&6 ダニエル・ハーディング/エリーザベト・クールマン/ウィーン・フィルのバーンスタイン&マーラー
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12390376173.html
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12392254228.html
今日の公演にも当然大いに興味を持ちましたが、実は既にサントリーホールのジョナサン・ノット/スイス・ロマンド管弦楽団のフランス・プロのチケットを取っていました。特にジャン=フレデリック・ヌーブルジェさんとのドビュッシー/ピアノと管弦楽のための幻想曲を聴きたかったので、泣く泣くクールマンさんの公演は諦めることに…。
しかし、3月15日に東京・春・音楽祭2019の開幕公演を聴きに行って、プログラムを購入したら、何と!クールマンさんの公演の曲目にバーンスタイン/サムウェアが入っているではないですか!
これは聴きに行くしかありません!
ということで、サントリーホールのチケットは家族に上げて、私は東京文化会館へと向かいました。
さあ公演が始まりました!ピアノ五重奏にクラリネット(サクソフォン)とアコーディオンが加わる楽しい構成。エリーザベト・クールマンさんは客席から登場。はう~、美しい!そして、見事なスタイル!
まずはサン=サーンス/デリラのアリア。このアリアは昨年11月にMETライブビューイングでエリーナ・ガランチャさんの妖艶でふくよかな歌に痺れたばかりですが、クールマンさんのデリラも硬質で凜とした素晴らしい歌声!冒頭からもう涙涙…。
(参考)2018.11.18 サン=サーンス/サムソンとデリラ(METライブビューイング)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12420221369.html
カルメンのハバネラも素晴らしい聴きもの。クールマンさんはオペラの舞台を去られたそうなので、オペラでカルメン役を観ることはもうできないのかも知れません…。逆に今日はとても貴重な機会。演奏のみなさんを挑発する絡みもいい感じ。アコーディオンが入ってタンゴ風のカルメンもいいですね。
途中のコール・ポーターやブリテン、アンドリュー・ロイド・ウェバーの英語の歌も素晴らしかったですが、やはりドイツ語の歌はピカイチ。シューベルト/糸を紡ぐグレートヒェンなど大いなる聴きものでした。
そして、前半のハイライトはR.シュトラウス/ばらの騎士第1幕ラストのマルシャリンのモノローグ!ウィーンで学び花開いたクールマンさん。歌といい美貌といい気品といい威厳といい、もう絶品のマルシャリン!涙涙…。ああマルシャリン、オペラでも観たかった…。ラストはビートルズで小粋な終わり方でした。
ほとんど前半だけでお腹いっぱい(笑)ですが、さらに凄かったのが後半。まずワルキューレの騎行から始まります。ホヨトホーオッ!の旋律をクラリネットがグリッサンドで吹くのが素敵過ぎる!(笑)
そして魔笛の夜の女王の第2幕のアリア。メゾのクールマンさん、例の高いコロラトゥーラはどうするんだろう?と思ったら、上手くコミカルな感じで回避していました。ですよね~(笑)。
続いてワルキューレ第2幕のフリッカの聴かせどころ。この場面は3月のシルヴァン・カンブルラン/読響のシェーベルク/グレの歌の森鳩役が素晴らしかったクラウディア・マーンケさんが妖しい声色で歌っていたのが非常に印象に残っていますが、クールマンさんはもう完璧な歌唱!嫉妬の炎を燃やすフリッカ、というよりは神々の神々しさを感じました。途中で一瞬、エルダの警告が入りますが、観客のみなさま、お~、という反応。さすがよく聴かれていますね。
(参考)2014.8.11 ワーグナー/ワルキューレ(バイロイト音楽祭)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-11914239578.html
そしてヴォータンが陥落したら、クールマンさん、何と豹変して、「イェーイ!」とVサインを見せて、そのままカルメンのエスカミーリョの闘牛士の歌!(笑)この辺り、もう自由自在でしたね。
続いてベートーベン第九が流れて、「このような調べではない」と歌った後、クールマンさんが”Peace”と呟いて出てきた曲がお目当てのバーンスタイン/サムウェア!始めは弦楽で切れ切れに演奏されますが、大いなる感動!
しかし、肝心のクールマンさんは演奏に耳を澄まして、なかなか歌ってくれず…。あれ~?もしかしてサムウェアは歌なしで終わってしまうの?と思っていたら、シューベルト/魔王が始まりました。ガーン!
しかし、魔王が終わったら…、嬉しいことに再び音楽はサムウェアに!やったー!今度は始めからクールマンさんが歌ってくれました!感情が込められて恰幅よく歌われた素晴らしいサムウェア!もう涙涙…。今日の一連の曲の流れの中でのハイライトでしたね。
ドイツ語のぶっちゃけた表現が凄すぎるクルト・ワイルの後、ドン・カルロ第3幕のエボリ公女のアリア!しかし、肝心の後半の聴かせどころの”O mia Regina”以降はパス。これは後半はエリザベッタやカルロのことを歌うので、自分の美しさを呪うセリフの前半の部分だけを選択したんですね。厳格なまでに考え抜かれた構成です。
そして、コール・ポーター/ミス・オーティス・リグレッツとR.シュトラウス/サロメの7つのヴェールの踊りの音楽がマッチする素晴らしい展開!コール・ポーターの音楽の中にサロメの動機がクラリネットでこだましますが、ものの見事に合っていました。しかも、よく聴くと、途中バーンスタイン/キャンディードまでぶっ込んでました!(笑)
最後はシャルル・デュモン/水に流して。これがクールマンさんによる、ものの見事なシャンソン!ほとんどパリのシャンソニエで聴いているかのよう!この方はどんだけ凄いんでしょう?
歌あり演技あり踊りありユーモアありの、エリーザベト・クールマンさんによる完璧な公演!女性の様々な愛の形を見事に歌って、この方の表現力はもう半端ないです!完璧でありながら、技巧や冷たさを一切感じることのない見事な歌!バックの演奏者のみなさまもクラシックとジャズとの間を行き来して、セッションも見事に披露、さらに楽しい演技まで。もう極上のエンターテインメントでした!
会場も大いに盛り上がっていましたが、アンコールは何とヴェルディ/ファルスタッフ!しかもクイックリー夫人の大げさな”Reverenza”から始まって、第2幕でアリーチェを口説く時の「昔は痩せてた」の歌を歌った後、第3幕ラストの「この世はすべて冗談」のフーガ!これを何とクールマンさんが声色や演技で複数の人物を歌う一人フーガ!しかも最後は再びコミカルな”Reverenza”で締め!
何この信じられない芸当!クールマンさん、凄すぎます!
しかも、アンコールの掲示板には何と、”ヴェルディ:Falstaff falls tough”と!これはファルスタッフと、この一人フーガがどんなに至難の業か、ということを掛けた素敵なジョークですね?もう心憎いばかりのアンコールでした!
アンコール2曲目はジーツェンスキー/ウィーン、わが夢の街。しかも日本語で歌ってくれました!アンコールの前にはクールマンさん、この美しい東京にまた来れて嬉しい、とおっしゃっていたので、ウィーンと東京の素敵な交流。日本・オーストリア友好150周年、おめでとうございます!最後のリストも素敵な歌でした!