冬が近いですねぇ。これからますます寒くなっていくわけですが、そうなるとあったかいものを食べたくなりますよね。この時期あったまる食べ物と言えば、まず鍋!・・・と言いたいところですが、ワタシの場合はいとこ煮です。


 いとこ煮とは。Wikipediaにも載ってます。

「浄土真宗の開祖で北陸に縁のある親鸞の命日である11月27日の前7日間に報恩講が営まれるが、その際の料理として必ず饗されるという。精進料理の一つといえる。」

 だそうです。

 

 地域によって異なるとは思いますが、私の知っている富山県東部のいとこ煮は、あずきと、大根、にんじん、さといもなどの根菜類にこんにゃくと厚揚げを入れた、超具だくさんの味噌汁です。ていうか、汁はほとんどありません。出汁も取りません。根菜類の甘味で十分です。あずきが入りますが甘くはありません。ウチは、調味料は味噌だけです。大きな鍋にいっぱい作るのがコツです。二日目くらいがおいしいです。カレーみたいだな。


 そんないとこ煮。なぜいとこ煮というのかは諸説あるようですが、根菜類をいとこに例えたと聞いています。だいぶ前から小中学校の給食の献立にもなっているようです。ワタシのときにはなかったです。


 いまワタシは母と二人暮らしで、しかも母がまめな人で、腰が痛いと言いながら畑になにやら植えていたり、こまごまと動いていて、さといもなんかも、たわしで泥を落として乾かしてから皮をむいていとこ煮を作ってくれるわけですが、母もそろそろいい年で、独身で子供もいないワタシは、そう遠くない未来には一人暮らしをすることになります。さてそこで自分のためにめんどくさいさといもの皮むきをするかというと、これはもうかなりの高確率で、しないことになるでしょう。結婚していた時にいとこ煮は作りましたが、さといもは皮をむいてある中国産の冷凍のものをざーっと放り込んでいました。その後、中国産にちょっと抵抗を感じるような出来事が相次ぎ、冷凍さといもは買わなくなりました。そして、さといもの皮むきが面倒になって、いとこ煮を作らなくなりました。ものぐさですワタシ。


 う~ん。おふくろの味ってよく言いますが、ワタシの場合はいとこ煮、ということになりそうです。

 世の中に不思議な出来事は、そりゃもう数えきれないくらいあるんでしょうけど、それが自分の部屋の机の上というごくごく狭いところで起こってしまったもので、かれこれ数か月間困惑し続けております。


 何かと言いますと、万年筆のインク壺の中のインクが、ほとんど使用していないのに、量がだいたい四分の一にまで減っているのです。

 インク壺を開けたのは一度だけ。岡山へ行ったときに買ってきた「竹ペン」(細い竹を削っただけのいたってシンプルなペンです)の書き心地を試すために一度ペン先を浸しだけです。


 ちなみにインク壺そのものを入手したのは、大学生の時だから25年近く前になるでしょうか。東京で学会があり、みんなで先生にくっついていったとき、かねてから目をつけていた神田の「金ペン堂」でペリカンの万年筆を買ったときにいっしょに購入したもので、四半世紀ほど密封状態で、中身は全く減っていませんでした。


 それが。竹ペンの試し書き後、きっちり蓋をしておいたのに、中身が減っているのです。インクの表面にはモコモコしたカビのようなものが浮いています。カビは竹ペンについていたものでしょうからそんなに驚きはしないのですが、このカビ、インクを食べて生きているんでしょうか。


 たった今、インク壺を確認してみましたが、蓋はきっちりしまっていました。開けて見たい気もするのですが、インクが減った部分の空白に何が入っているのかわからないので怖くて開けられません。カビの胞子がウヨウヨしているかもしれないし、ひょっとしたら真空なのかもしれません。インクは墨汁のようにどろりとしています。ああ怖い。


 それで万年筆はどうしたかというと、「金ペン堂」でさんざん試し書きさせてもらって、清水の舞台から飛び降りるというのはちょっと大げさですが、かなり奮発して買ったにもかかわらず、インクを吸い上げる部分に隙間ができて漏れ出すようになってしまい、数年で押入れ行きになりました。立派な箱に入っていて、インク(件のインク壺とは別です)もついていたのに。

 ちなみに修理できないものかと思って「金ペン堂」(今もあります老舗です)に送ったら、輸入品で古いので修理はまず無理で、同じようなモデルのものは当時の倍の値段になっていると聞いてあきらめました。


 そんなわけで、はるばるドイツからやってきたインク壺。中身は減る一方です。最後の一滴が無くなるとき、極限まで凝縮された重力によってインク壺の中で極小のブラックホールが誕生するのではないかと少しだけ楽しみでもあります。冗談です。

 久しぶりに本屋に行ったら、ウィスキーに関する文庫本が平積みされていました。タイトルは「新版 シングルモルトを愉しむ」。即買い。私はふだん日本酒を飲んでいますが、たまに大型の酒店へ行ってウィスキーを買います。シングルモルトを選ぶことが多いです。村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」のせいです。


 「新版 シングルモルトを愉しむ」には、いろんなウィスキーが紹介されています。飲んだことがあるものだけでも、ボウモア、カリラ、ラフロイグ、スキャパ、タリスカー、グレンモーレンジ・・・。中でもグレンモーレンジは、大学生の時お世話になったU先生のお気に入りだそうで、記憶に残っています。先生がイギリスへ行かれたとき、どのウィスキーが一番おいしいか飲み比べようと、パブの棚の片っ端から飲んでみて、結果、グレンモーレンジが一番おいしかった、という話でした。先生らしいエピソードで、私も真似してみたいけど、そこまでお酒に強くないので、近くの酒店でボトルを眺めるだけにしています。


 ちなみに私のお気に入りはボウモアで、乱暴に言うと、潮風の中で正露丸の瓶の蓋を開けたような香りがします。


 U先生が大学を離れることになったとき、ご挨拶にグレンモーレンジを手土産に持っていきたかったのですが、あいにく品切れで、私の好みですが、と、ボウモアを持っていきました。しばらく先生のお部屋で話をしたあと、先生が、学生の部屋を案内するといって、何人かたむろしている部屋へ連れて行ってくれました。そのころ人文学部は新しく建て替えられていて、そこへ初めて行ったのですが、帰り際、「先生、これで失礼いたします」と声をかけたところ、書架が並んだ部屋の奥から、「やあ、ありがとう。おいしいよ」と返ってきました。


 ・・・もう飲んどるんかい・・・。

 相変わらずのU先生だったのでした。


 目下、私の夢は、村上春樹の本にも、「新版 シングルモルトを愉しむ」にも書いてあった、牡蠣にアイラモルトを垂らして食べる、というもので、生牡蠣が食べられる季節なので、どこかでこれを試してみることはできないだろうかと思っているのですが、なかなかチャンスがありません。アイラモルトはボウモアを持っているので、あとは生牡蠣です。生牡蠣を出す居酒屋は探せばあると思いますが、そこでやおらバッグの中からボウモアを取り出してぶっかけて食べる女一人というのは、いくら「おひとりさま」に慣れたとはいえ、ちょっと勇気がいりますよね。