映画「女が階段を上(あが)る時」(1960)を見る。成瀨己喜男監督の代表作の1本で、脚本は菊島隆三、音楽は黛敏郎、主演は高峰秀子で衣装も担当。
Wikiによると、あらすじは「女が階段を上る時、それは女が銀座の夜に花開く時…銀座のバーの雇われマダム、圭子を巡って今宵も男と女の情が入り乱れる。」この映画は、1960年当時の、銀座の夜の世界とそこに働く女たちの生態を活写している。
主人公のバーのママを演じる高峰秀子のナレーションとともに物語が進むが、銀座で生き抜く女のしたたかさと弱さなどのあらゆる感情が細やかに描かれる。
タイトルが意味ありげだが、映画の冒頭で「ビジネスガール(現在のOL)が帰るころ、プロが出勤してくる。そして、夜が来る。私は(バーの)階段を上がるときが一番嫌だった」というセリフがある。
また、主人公の圭子は、数年前に夫を交通事故で亡くし、30歳という人生の岐路に立ち、求婚してくる男も何人かいて結婚するか、店をも持つかの選択の中で、銀座のママとして打って出る(=階段を上がる)ほうを選ぶといった二重の意味があるかもしれない。
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矢代圭子(高峰秀子)は銀座のバーに勤める夜の女。気心のしれたマネージャーの小松(仲代達矢)と、雇われマダムとしてライラックという店を切り盛りしている。小松が5年前にレジをしていた圭子を引き抜いたのだった。小松は圭子に密かな思いを寄せていたが「(自分の)商品に手を出すのは最低」と自らに言い聞かせていた。
小松は、今日も店の経営者に呼び出されて売上が落ちていることを責められるが、その原因は店の売れっ子だったユリ(淡路恵子)が独立し、かなりの太客(ふときゃく=多額のお金を使う客)を引き抜いたことにあった。
圭子は敵情視察とばかりにユリの店を訪ねてみるが、繁盛しているようで実は経営が苦しく、ユリからかえって悩みを打ち明けられてしまう。圭子も気分を一新しようとライラックをやめ、小松と共に「カルトン」という別のバーに移籍する。
やがてユリは、借金取り立てなどから逃れるために、狂言自殺のつもりで飲んだ睡眠薬のせいで死亡しまう。お悔やみに訪れた圭子は情け容赦のない債鬼(さいき=借金取りたち)たちの様子に呆れ、水商売の嫌な面を散々見せつけられるのだった。
ある夜、圭子は仕事中に血を吐き、病院に運ばれる。原因は軽い胃潰瘍だった。さすがに酒も飲めないため、彼女は兄・好造(織田政雄)の家で養生することになる。
しかしバーの経営者は見舞いのふりをしながら、早く店に出ろと催促してくるため、おちおち休んでもいられない。仕事には復帰したものの、圭子は弱気になりがちだった。
間もなく、兄がわざわざ圭子のアパートに来て、自分の借金や小児マヒの息子の手術代を払うように求めてきた。自分が皆から食い物にされているという思いが高まり、圭子は兄に対して激高。そこに顔を出したのが、プレス工場の社長である関根(加藤大介)だった。彼の優しさにほだされた圭子は彼との結婚を決意する。
しかし、ある女性から圭子のアパートに電話がかかってきた。それは驚いたことに関根の妻からだった。関根の妻によると、関根には虚言癖があり、プレス工場の社長というのは嘘で、これまでに何度も結婚詐欺をしてきたというのだ。
いったん喜んだのも束の間、その落胆は大きく、圭子は店で泥酔してしまう。久しぶりに訪れた銀行支店長の藤崎(森雅之)にヤケクソで甘えかけ、連れ立って他の店に飲みに行く。藤崎は圭子をアパートの部屋まで送り、つい一夜を共にしてしまう。
藤崎は翌朝部屋を出るが、そこへ偶然、小松がやってきて、圭子が体を許したことを責めると同時に、彼は昔から圭子に惚れていて、そのことで内心苦悩を感じていたといい、小松はその場で圭子に結婚を申し込むが、水商売の裏も表も知り尽くした同業者同士の結婚がうまくいかないことを知っている圭子はそれを断るのだった。
それが藤崎への愛からだと考えた小松は失望し、店も辞めてしまいまう。そして圭子は栄転して大阪へ赴任する藤崎とその家族を東京駅で見送り、自らの気持の整理をつけ、再び夜の銀座で生きていく決意をするのだった。
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銀座の夜も11時30分~12時ともなると、水商売の女たちも家路につく時間。「車(タクシー)で帰るのが一流、電車で帰るのが二流、客とどこかにしけ込むのが三流」というセリフがあった。
バーのママともなると、客からいろいろな誘いがある。上客から明日ランチをという誘いがあると「明日電話します」、別の男から明日の夜の食事の誘いがあると「明日電話します」とかわす。銀座のママには見栄も必要で、高額な衣装や高い香水も身につけなけらばならない。部屋代(家賃)も30,000円(当時)と高いところに住んでいるのは、アパートのような所帯じみたところに住むとそれが染みついてしまうからだという。
小松から結婚してくれと迫られたときの圭子(高峰秀子)の受けの演技もすごい。藤崎が妻と子供とともに新幹線に乗っているところで、窓越しから圭子が挨拶するところは、藤崎は、妻が目の前にいるので、圭子との関係を疑われないか気が気でなかったに違いない(笑)。そこは、銀座のバーのマダム。洗練された衣装で、品があり藤崎の妻に「支店長さんには大変お世話になっておりました」と丁寧にあいさつし、いざというときに使ってほしいと藤崎からわたされていた「株券」を返すのだ。また必要なときにはお願いしますというのだった。妻は後で夫に「キレイな方ね。洗練されている」といってくるが、あいまいな返答をするしかない。
成瀨己喜男監督の作品では、今のところ「ベスト3」か(ほかは「浮雲」「乱れる」)。今後変更する可能性あり。
■主な登場人物:
矢代圭子:高峰秀子
藤崎(銀行支店長):森雅之
純子(女給):団令子
小松(マネージャー):仲代達矢
関根(工場主):加東大介
美濃部(利権屋):小沢栄太郎
ユリ(マダム):淡路恵子
バーの持ち主(オーナー):山茶花究
金貝(闇屋):多々良純
松井(みゆきの夫):藤木悠
矢代好造(圭子の兄):織田政雄
園田(ビール会社の重役):三津田健
とし子(ユリの母):沢村貞子
まつ子(女将):細川ちか子
女給:北川町子(清美)、中北千枝子(友子)、柳川慶子(雪子)、横山道代(みゆき)、野口ふみえ(夏子)、塩沢とき
ふじ枝(圭子の母):賀原夏子
志津子(藤崎の妻):東郷晴子
風間重役(風間電工):田島義文
美濃部の連れの客:村上冬樹
水谷(美濃部の部下):瀬良明
吉川(呉服屋店員):佐田豊
不動産屋:谷晃
みね子(関根の妻):本間文子
女占い師:千石規子
下着屋の勝子:菅井きん
光子(女給):園田あゆみ
女給:若林映子
銀行員:田村まゆみ