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MMエッセイズ 増田満のブログ

「サングラハ教育・心理研究所」の会報誌、「持続可能な国づくりの会」の学習会などで発表したエッセイ等を掲載します

ただし、富の格差は税金が増えさえすれば抑制されるということではありません。税金がどのような階層に対しても同じような税率で課されたのだとすると、結局はr>gの効果で富の格差は拡大さえしかねません。富の集中が、第一次世界大戦以前のような状況になるのをくいとめたのは、課税が累進課税の形で行われ、より裕福な者により高い税率が課されたからだとピケティは指摘します。いくつかの国の1970年、1980年、1990年、2000年、2010年の所得税と相続税の最高税率を彼の本にあるグラフから読み取って表1と表2にしてみました。

 

1 富裕諸国の最高所得税率 (.521のグラフより目分量で読み取って作成しました)

 

1970

1980

1990

2000

2010

アメリカ

77

70

28

40

35

イギリス

90

75

40

40

40

フランス

62

66

56

61

47

ドイツ

53

55

53

51

45

 

2 富裕諸国の最高相続税率 (.525のグラフより目分量で読み取って作成しました)

 

1970

1980

1990

2000

2010

アメリカ

77

70

55

55

35

イギリス

85

75

40

40

40

フランス

20

20

40

40

40

ドイツ

15

35

35

30

30

 

1970年ごろのアメリカ、イギリスでは最高税率は77%―90%にも達しており、最も大きな所得あるいは相続には、没収に近い税率が課されたわけです。参考までに今年、2015年の日本の場合、所得の最高税率は4千万円越えの所得に対しての45%、相続の最高税率は6億円越えの相続に対しての55%です。所得の最高税率としては2010年のフランス、ドイツと同じ程度で、2010年の英米よりは高めです。相続の最高税率としては2010年の欧米富裕国よりは高めです。そのようなことから、現在日本は、アメリカ、イギリスはもちろんですが、フランス、ドイツに比べても、富の格差が若干低い状態にあるのではないかと推測します。

 いずれにしろ累進課税の結果、今日のヨーロッパではトップ十分位(上位10)の富のシェアは60%ほどまで高まりはしたものの、ベル・エポック期(第一次世界大戦前)のような極端なシェア90%に比べれば抑制されたものになっているのです。では、トップ十分位が失ったシェア30%はどこに行ったのでしょうか。

両大戦を中心とする時期における格差の縮小とその後の復活

 

しかしながら西欧の超格差社会は、二つの世界大戦を経験することで大きく変化することになります。ピケティは次のように述べています。

 

二度の世界大戦による破壊、大恐慌が引き起こした破産、そして何よりもこの時期に成立した公共政策(家賃統制、国有化、そして国債からの不労所得生活者がインフレにより消滅したこと)がもたらしたショックだ。こうした各種の要因で、1914年から1945年にかけて資本/所得比率は激減し、資本所得が国民所得に占めるシェアも大幅に下落した。(p.285)

 

その結果、「白紙状態からの社会始動」(p.285)が可能になったのだと彼は述べています。しかし戦後50年以上も経過すると、民間の財産は二つの世界大戦以前のように復活してきます。ですが富の集中が同じような高水準に戻ろうとはしていないと彼は指摘し、その原因について分析しています。要因の一つとして彼は、第二次世界大戦後の30年間の例外的成長によって、歴史上初めて純粋な資本収益率が経済成長率よりも低いという事態が生まれたことを挙げています。しかしながら、彼が「最も自然かつ重要な説明」(p.388)とするのは、「20世紀の政府が資本と所得に高い税率で課税を始めたこと」(p.388)です。ピケティによれば、欧米の主要国では、19世紀から第一次世界大戦にかけて、税収は国民所得の10パーセント以下だったそうです。それが次の引用文のように大幅に増えたと述べています。

 

1920年から1980年にかけて、富裕国が社会支出にあてようとする国民所得の割合は大幅に増えた。たったの半世紀で、国民所得に占める税のシェアは、少なくとも3倍か4倍にはなった(北欧諸国だと5倍以上)。だが1980年から2010年の間に、税金の比率はどこでも横ばいになった。横ばいになる水準は、国ごとに違った。米国では国民所得の30パーセント強、イギリスでは40パーセントぐらい、ヨーロッパ大陸は4555パーセントだ(ドイツは45パーセント、フランスは50パーセント、スウェーデンでは55パーセント近く)(.494)

 

そしてその税収は、おもに「社会国家」、つまり福祉国家の構築に使われたというのです。結果として、特に税率の高かった北欧諸国は、潤沢な税収を、目標に向けてきちんと使い、19701980年代には史上最も福祉が発達した国々になりました。

 
(続く)
©mitsuru masuda
 
以上は「サングラハ第141号」(2015年5月発行)に掲載したものの一部とほぼ同じです。

トマ・ピケティの『21世紀の資本』は、 Thomas Piketty, Le capital au XXIe siècle, 2013の日本語訳で、本文608ページ、原注部分94ページを含む大著です(山形浩生・守岡桜・森本正史訳、みすず書房、2014年。以下引用したピケティの文とそのページ数は全てこの本のものです)すでに各国語の訳本が出版されており、分厚い専門書でありながら、38か国で総計150万部以上のベストセラーになっています。日本でも、昨年12月に発売されてから、すでに13万部を突破したと言われています。メディアでの扱いも大きく、TV各局で特集番組がつくられ、NHKでは「パリ白熱教室」と題して彼の講義が6回にわたって放映されました。

何故これほどの関心を集めたのでしょうか?その理由は、一般生活者がその正当性の欠如を次第に強く感じ始めている貧富の格差拡大の状況が、現在の資本主義の仕組みから必然的に生じる現象であると明確に説明してくれたこと、そしてその現象の拡大を食い止め解消するには、こういう特別な対処法がありますと提案してくれたことにあると思います。

 彼の主張には理論的な批判もあります。しかし、多くの人に現在の閉塞感を脱するための展望を与えたことは否定しようのない事実であり、それだけでも高く評価できると思います。そこで、さらに多くの人にその内容について知っていただきたいと考え、この稿を起こすことにしました。

ピケティは『21世紀の資本』の中で、西ヨーロッパなどの富裕国における富の格差の歴史的展開を、膨大なデータをもとに考察しています。それによりますと、第一次世界大戦直前に空前の高みにあった富の格差は、二つの戦争の間の破壊等によりある程度解消されます。しかしながら戦後の経済復興と成熟を通じて、今や戦前とは少し違う構造で、多くの人が不適切と感じるほどの高みへと格差は再び拡大し始めているのです。ピケティは、このような今まさに進行中の格差拡大を食い止め、そして解消するための税制も提案しています。このエッセイではこれら一連の議論の概要をまとめ、彼が是正の目標とする格差と彼の人間観についても推察します。最後にスウェーデンの先進的な「緑の福祉国家」という考えと彼の考えの比較も行い、彼が提案する税制の現代的な意味にも触れます。

 

20世紀初頭における超格差社会の形成

 

 中学生と高校生の二人の子供と10億円の資産を持つ中年のご夫妻を想像してください。彼らの資産の内訳は、土地、建物、株、債券、投資信託、預金などをバランスよく含んだもので、平均的な資本収益率で資本所得が得られるようになっています。この家族が住んでいるのは空想上の日本で、経済成長率は年率1%、平均資本収益率は年率5%、資本所得に対する税率は0%です。そうしますとこのご夫妻は、10億円×0.055千万円の年間資本所得を無税で得ることになります。

 ご夫妻には資本所得のほかに、1千万円の年間労働所得があります。それで家族の生活費を賄えるので、5千万円の資本所得はまるごと再投資することにしています。そのため10億円の資産は資本収益率と同じ年率5%で増加します。経済成長率は1%ですから、ご夫妻の資産は経済の五倍の速さで成長していくわけです。また、経済成長率の1%を資産の成長率の5%から引くと、資産価値の成長率4%が得られます。ということは、同じ経済成長率、同じ資本収益率が続くなら、20年後ご夫妻が仕事をリタイアするころまでには、資産価値は2倍以上に成長していることになります(毎年、資産価値は1.04倍で拡大していきますから、これが20年続くと、(1.04)202.2倍に膨張します。名目資産なら(1.05)202.65倍になります)

このように、経済の成長は低率、資本収益率はそれなりに高率の状況が続くと、ある程度の資産を持っていれば、その資産価値は等比級数的に増加し、お金持ちはますますお金持ちになります。第一次世界大戦(1914年開戦)以前の西欧社会は、富裕層の資産のそのような持続的拡大の結果生じた社会であったとピケティは考え、『21世紀の資本』では次のように述べています。ちなみに、文中のgは経済成長率、rは資本収益率の記号です。

 

……たとえば成長率が年約0.51パーセントと低い世界を考えよう。1819世紀以前はどこでもその程度の成長率だった。資本収益率は、一般的には年間45パーセントほどなので、成長率よりもかなり高い。具体的には、たとえ労働所得がまったくなくても、過去に蓄積された富が経済成長よりもずっと早く資本増加をもたらすわけだ。

  たとえば、g=1%でr=5%ならば、資本所得の5分の1を貯蓄すれば(残りの5分の4は消費しても)、先行世代から受け継いだ資本は経済と同じ比率で成長するのに十分だ。富が大きくて、裕福な暮らしをしても消費が年間レント収入より少なければ、貯蓄分はもっと増え、その人の資産は経済よりもより早く成長し、たとえ労働からの実入りがまったくなくても、富の格差は増大しがちになるだろう。つまり厳密な数学的観点からすると、いまの条件は「相続社会」の繁栄に理想的なのだ――ここで「相続社会」と言うのは、非常に高水準の富の集中と世代から世代へと大きな財産が永続的に引き継がれる社会を意味する。(p.366)

 

 また別のところではこのようにも述べています。

 

……19世紀と20世紀初頭に高齢者の富が急増したのは、不等式r>gとそれが意味する累積的乗法的論理の直接の結果なのだ。具体的には、最大の富を所有する高齢者は、たいてい自分自身の生活に必要な額を大幅に上回る資本所得を享受していた。たとえば5パーセントの収益を得て、その資本所得の5分の2を消費して、残りの5分の3を再投資したとする。そうするとかれらの富は年率3パーセントで増え、85歳になると60歳のときの2倍金持ちになっている。(.409)

 

引用文にあるような、資本収益率が経済成長率より高い状況、すなわちr>gが長く続くことにより、大きな資産を持つ者はますます資産を増やし、それが相続されていくことで大いなる富の格差が生じるというのが、ピケティの主張の基本となる考えです。第一次世界大戦直前まで西欧では、資本所得にはほとんど税金はかけられていなかったようですし、相続税も最高税率で5%程度にすぎなかったために、このr>gの効果で、20世紀初頭では、トップ10%が富の90%を所有する超高格差社会が実現していたと言うのです。(続く) ©mitsuru.masuda

 

 

以上はサングラハ教育・心理研究所の会報、「サングラハ」の第141号に掲載されたものの一部をほぼそのままに掲載しました。
 
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