7月10日、F1第9戦イギリスグランプリがシルバーストンサーキットで開催された。
週末を通じてシルバーストン地方は不安定な天候が続いており、ここまでF1の走る全セッションが雨絡みで進んできていた。
決勝日もスタート時刻の午後1時に軽い雨との予報が出ていた。しかし予報よりも早く、正午過ぎに大粒の雨がコースを濡らし始める。20分程度で雨は上がったが、これでほぼ完全なウェットコンディションでレースも迎えることとなってしまった。
雨絡みのとなった予選。1、2位はレッドブルの2台。ウェバー、ベッテルの順。3、4位にアロンソ、マッサのフェラーリ2台。地元イギリスチームでイギリス人の元チャンピオン2人を擁するマクラーレンは予選で振るわず、バトンは5番手につけたものの、ハミルトンは今期自己ワーストの10番手に沈んだ。しかし地元の大声援を背にどこまで追い上げてくるか、楽しみである。
スタート直前、雨は降ってはいないが、コース上は先ほどの雨で依然として濡れており、全車雨天用タイヤを装着している。また、風は強くはないが、風上には依然黒い雲が見えており、雨という一波乱も十分考えられる。いずれにせよ、予断を許さない展開になりそうだ。
5つのレッドシグナルが灯り、消え、52周のレースがスタート。
予選1位のウェバーのスタートが悪く、ベッテルに交わされ2位で1コーナーへ。
また上位では5番手スタートのバトンも4位へと順位を上げた。
コース上、場所によってはかなり水が溜まっており、各車慎重な立ち上がりをみせ、接触等のアクシデントは起こっていない。
しかし驚くべきは10番手スタートのハミルトン。スタートこそ特に良くはなかったが、レースが落ち着く前のこのオープニングラップで4台を抜き、1周目を6位で戻ってきた。さらにこのウェットコンディションをチャンスと見てかペースの上がらないチームメイトのバトンを交わし、5番手へ。さらに前方のフェラーリ2台を追撃していく。
4周目、その4位マッサを攻めるハミルトンが勢い余ってコースアウト。すぐにコースへと復帰し、5位は守っている。
この時点で、トップはベッテル、ウェバー、アロンソ、マッサ、ハミルトン、バトンの順。
9周目、他車との接触でマシンにダメージを負ったシューマッハがピットイン。マシンの修復と共に、タイヤを晴天用へ交換しピットアウトしていく。
事実、この時点でコース上は乾き始めており、晴天用タイヤへの交換時期を迎えつつあった。ともあれ、これで全チームが、雨天用、晴天用のタイヤ比較のためにシューマッハのタイムを注目することとなった。
コース上では、トップベッテルはやや単独で走行しているものの、2位のウェバーにアロンソ、4位のマッサにハミルトンがそれぞれ接近、バトルになっていく。特に4位争いは激しく、ハミルトンはどこでも仕掛ける構えを見せている。
12周目、先ほどタイヤ交換を済ませたシューマッハのタイムが雨天用の他車と遜色ないのを確認して、上位では6位のバトンが最初にピットイン。晴天用タイヤへ交換してピットアウトしていく。
バトンはこのようなコンディション変化への対応は積極的で非常に上手い。今回も積極的に動いてきた。
この直後、シューマッハがトップベッテルより1秒速い、最速タイムを叩き出した。
こうなると、このタイムを見て全チームがタイヤ交換を行いだす。
13周目にウェバー、アロンソ、ハミルトン。
14周目にベッテル、マッサがタイヤ交換を行った。
上位のタイヤ交換が終わると、ベッテル、ウェバー、アロンソ、ハミルトン、マッサ、バトンの順となった。マッサはなんとかバトンの前、5位でコース復帰したが、先にタイヤ交換を済ませたバトンの方がすでに勢いがあり、直後の高速コーナーのアウト側から並ばれてしまう。しかしここはマッサも譲らず粘り、2台は並んで次のコーナーへ。ここで、イン・アウトが入れ替わり、バトンがインをつき、5位へあがった。シルバーストンらしい素晴らしい高速バトルだった。
地元マクラーレンの2台が順位を上げ、ここからスタンドのファンは盛り上がり始める。
さらにピットストップ後、4位へ上がったハミルトンはペースを上げ、前方アロンソに肉迫していく。
すると15周目、ハミルトンが濡れた路面にタイヤを落としながらアロンソを交わし、3位へ。こうなるとスタンドは大盛り上がりである。
4位へ落ちたアロンソだが、ここからはペースを上げ、ハミルトンには離されずにしっかりついていく。
23周目、アロンソが最速タイムを連発し、ハミルトンとの差が一気に詰めてきた。すると24周目アロンソがハミルトンをあっさりと交わし逆転。再度3位を奪い取った。
25周目、上位では最初にハミルトンが2回目のタイヤ交換のためピットイン。直前にアロンソに先行され、さらにはタイヤの消耗によりペースが落ちてきており、ここでニュータイヤを使うことで、なんとしても離されないという形振り構わない積極的な姿勢がうかがえた。
27周目、2位ウェバー、4位バトン、5位マッサがピットイン。ウェバーのピット作業が若干遅れ、3台ともハミルトンの後方でコースに復帰となった。
28周目、トップのベッテルとアロンソが同時にピットイン。アロンソはスムーズなタイヤ交換でピットアウトするが、レッドブルはタイヤ交換に再び手間取り、ベッテルはすぐに発進できず、アロンソに交わされる形で、ピットアウト。コースへ復帰すると、早めのタイヤ交換で飛ばしていたハミルトンにも交わされ、あっという間に3位に落ちてしまった。
29周目、2回目のタイヤ交換を終え、アロンソ、ハミルトン、ベッテル、ウェバー、バトン、マッサの順に変わった。ハミルトンはレッドブルのミスと作戦が功を奏し、ここまでは素晴らしい追い上げ劇となっている。さらにトップアロンソの真後ろへつけており、チャンスを伺っている。
とにもかくにも状況が序盤とは一変し、レッドブルの3、4位へ後退し、地元のハミルトンがトップに迫る位置につけており、サーキットの13万人を超える観客は今日一番の盛り上がりを見せている。非常に面白い展開になってきた。
しかし観客の期待とは裏腹に、ここからトップアロンソは最速ラップを出し、ハミルトン以下後方を突き放しにかかる。レース序盤はペースを抑えていたかのように感じるほど、トップに立ってからは圧倒的なスピードの差を見せ付け始めた。
35周目、アロンソは、2位ハミルトンが3位ベッテル以下を押さえている間に9秒以上のリードを築いた。一方、ここまで素晴らしい挽回を見せて2位まで上がってきたハミルトンだが、またしてもタイヤからくるペースダウンが始まっていた。それでもなんとかベッテルの猛攻を凌いでいる。
37周目、3位のベッテルが先に3度目のピットイン。前回のピットからまだ10周も経たない、早めのピットイン。押さえ込まれていたハミルトンを嫌って、そして逆転を狙って、大胆な作戦を見せてきた。
38周目、当然すぐざま2位ハミルトンもピットイン。ニュータイヤを履くベッテルにタイムを稼がれ、逆転される前に、その前をなんとしても押さえたいところだ。しかし、ピットアウトするとベッテルの後方でコース復帰。ベッテルの大胆な作戦が成功した形となった。
39周目、ウェバーがピットイン。40周目にはトップアロンソとバトンがピットイン。しかし、ここでバトンのマクラーレンチームがタイヤ交換でミス。タイヤを止めるナットがうまく締まらず、交換しようとしている間にバトンが発進してしまった。当然、タイヤは固定されておらず、ピット出口でタイヤが外れかかり、バトンはコース脇にマシンを止め、リタイヤする事となった。
42周目にマッサがタイヤ交換を終え、この時点の順は、アロンソ、ベッテル、ハミルトン、ウェバー、マッサの順となった。
アロンソはここでも最速タイムを出し、2位ベッテルとの差を12秒以上に広げ、いよいよセーフティーリードになってきた。
ピットストップの作業ミスでバトンを欠いたマクラーレン。さらに今度はハミルトンにペースダウンの指示が無線で出ている。どうやら燃料が最後まで持たないようだ。ここまでレースを盛り上げてきたマクラーレン勢だが、ここにきてトラブルが相次いで発生している。
さらに後方には4位ウェバーも迫っており、表彰台を確保するのも苦しくなってきた。
46周目、ペースを落として走行するハミルトンはウェバーに交わされ、4位へ後退してしまった。マクラーレンの後退で、観客はやや静かになってきている。
残り3周、アロンソは2位ベッテルに19秒以上の差をつけた。注目は2位以下の争い。ベッテルは2位をキープしているが、3回目のタイヤ交換が早かった分、タイヤを消耗しペースが落ち始めている。3位ウェバーとの差は約3秒。またペースの上げられない4位のハミルトンをマッサが3秒近く早いペースで猛追している。
残り2周、ついにウェバーがベッテルに追いついた。すぐざまマシンを右に左にねじ込もうとするが、ここはベッテルも押さえて抜かせない。
そして、ファイナルラップ。アロンソが余裕の走りをする後方、2位争いのレッドブル2台の接近戦は続く。3位ウェバーがベッテルのインを狙うが、決定打に欠けて仕掛けられない。
その後方の4位争いはさらに激しい、4位ハミルトンについにマッサが追いついた。前のレッドブル2台のバトル同様、マッサがハミルトンのインを伺うが、ここも防がれ抜けない。今日のハミルトンは攻めに守りに本当に忙しいレースになっている。
そして、アロンソがトップでチェッカー、昨年の韓国グランプリ以来の今期初優勝を上げた。通算27勝は歴代4位タイである。
2位争いはベッテルが辛くもウェバーを抑え、順位そのままでゴール。
そして注目の4位争い、最終一つ前のコーナーでマッサがアウト側から並びかけて、半車身前に出てコーナーへ飛び込む。しかし内側にいるハミルトンも当然譲らず、2台は軽く接触。ハミルトンのパーツが飛ぶ。接触はしながらも、マッサはなんとか前に出るが接触の影響で挙動をやや乱し、最終コーナーを外側にはらんでしまう。その内側をハミルトンに再度つかれてしまう。ほぼ2台は並んでホームストレートを迎えるが、僅差でハミルトンが再逆転の4位。マッサが5位でチェッカーを受けた。
4位とはいえ、ハミルトンもレース内容に満足してか、すぐさまコースサイドのスタンドへ手を振り、地元の大声援に応えて見せた。また観客も、4位という順位以上に、10位から一時はトップに迫る位置まで追い上げ、苦しい中でも素晴らしいバトルを最後の最後まで存分に見せてくれた地元のヒーローに満足しているようだった。昨年の同グランプリ、ハミルトンは2位であったが、その時よりも今年はスタンドの盛り上がり方は上だったように感じた。チャンピオンのいる国のレースはこういうものだ。そう強く感じさせてくれた今年のイギリスグランプリだった。