5月29日、世界三台レースの一つの第59回F1モナコGPが始まっていく。
天候は晴天、気温22度。
今シーズンのF1は5戦を消化し、紺のマシン、レットブルのベッテルが5戦4勝と圧倒的な強さを見せている。そして今回も予選1位を獲得。予選に関しても6戦目にして5度目の予選1位を獲得といまや絶好調。2番手はシルバーカラーのマクラーレン、バトン。第3戦の中国GP以来、今シーズン2度目の最前列に並んだ。3番手はもう一台のレットブルを駆るウェバー。そして4番手に赤いフェラーリのアロンソ。事実上、狭く抜けない市街地サーキットのモナコでは、この上位4人に優勝争いは絞られたといっても過言ではないだろう。過去10年、予選1位からの優勝が60%、予選1位と2位を合わせた一列目からでは80%。2008年のハミルトンは予選3位から優勝している。しかしこれは決勝レースが雨天でかなり荒れたレースとなった要因も大きかった。とはいえ、荒れたとしても予選3位までに入らないと勝ち目がない。あまり過去のデータとの比較は意味がないが、このデータからもいかにモナコの予選が重要で、決勝は抜けないかがはっきりしている。そのハミルトン、今回予選のミスもあり9番手スタートに沈んだ。マシン性能、ドライバー能力では上位4人と同等の力を持っているだけに、この厳しいスタート位置は見ている側としては残念だった。しかし、このモナコでどこまで上がってこられるか非常に見ものである。
全23台がスターティンググリッドにつき、レースがスタート。
5番手スタートのシューマッハがあわやエンストのスタートミス。
逆に好スタートを切ったのは予選4位のアロンソ。
スタート直後に前のウェバーを交わすと、さらに前のバトンのインへ飛び込む位置にまで迫るが、狭い1コーナーで並ぶまでは至らず、バトンに譲り3位で1コーナーを通過する。
1周目、トップはベッテル、バトン、アロンソ、ウェバー順で通過。
注目のハミルトン、スタートこそ9位を守ったが、混戦の中、一瞬の隙をつかれ、あっさりシューマッハに交わされてしまう。最終的には順位を一つ落とした形の10位で1周目通過した。
レース序盤、上位陣がある程度落ち着いて走行を続ける中、9位争いのシューマッハとハミルトンがバトルになっていく。マシンの速さでは圧倒的に速いハミルトン。しかしここはモナコ、抜き場がない。最終コーナーからホームストレート、そして第一コーナーでかなり接近はするが、追い抜くには少しストレートの長さが足りない。
モナコの抜くポイントをあえてあげるとすればホームストレートから第一コーナーもその一つなのだが、それでも相当厳しい。
ハミルトンは至る所で再三マシンを右に左に振り、隙があればどこでもマシンをねじ込んでくる勢いだ。
そして10周目、ついに1コーナーでシューマッハをパス、ハミルトンは9位に上がっていく。ハミルトンはギリギリまでブレーキを遅らせ、シューマッハのインに飛び込む。シューマッハもしっかりミラーを見ており、一瞬1コーナーの飛込みでは2台がかなり接近したが、そこは無理をせずにスペースを残し、譲る形となった。
13周目、ハミルトンに交わされ、その後さらに順位落とし、12位のシューマッハがピットイン。ここからタイヤ交換レースが始まっていく。
15周目、上位陣では2位バトンがまずピットイン、スムースな交換でピットアウト。
17周目、トップのベッテルがピットイン。ニュータイヤでとばしているバトンに差を詰められる前に、自らもピットに入り、再びバトンの前を押える。順当なタイミングのピットインである。しかしここでピットクルーがタイヤ交換に手間取り、バトンの倍近くの時間を費やしてしまう。当然、コースに戻ればバトンの後ろになってしまった。
しかしこれだけでは終わらない。チームメイトのウェバーも同一周回にピットに呼び込み、チームは混乱、ウェバーはベッテル以上に時間をロスし、上位から完全に脱落の14位でコースに復帰した。そしてこの翌周、アロンソもタイヤ交換を終える。
この時点での上位は、バトン、ベッテル、アロンソ。ここでバトンは最速ラップを出し、2位ベッテル、3位アロンソを突き放しにかかる。
23周目、ハミルトンもタイヤ交換を終え、15位でコースに復帰。
トップのバトンはさらにペースを上げ、2位以下に差をつける。3位アロンソは2位ベッテルからは離されず、ある程度の距離を保って走行している。
34周目、トップのバトンが2回目のピットイン。ここでも再び同一種類のタイヤを選択、この時点でバトンはもう一度ピットインが必要な3ストップ作戦であることが判明する。
ちなみにF1では2種類(ハードとソフト)のタイヤがあり、各ドライバーはレース中に必ず両方のタイヤを使うことが義務付けられている。ちなみに上位の他の2台、ベッテル、アロンソは1回目のタイヤ交換でその義務を消化している。つまりはもうピットに入らないという選択も可能なのです。
現時点をまとめると
バトン:ソフト→ソフト→ソフト。
ベッテル:ソフト→ハード。
アロンソ:ソフト→ハード。
一回のピットストップでのロスタイムは約25秒。
単純に1回ピットインが多ければ、25秒後方、約コースの1/3遅れることとなる。
バトンはピットストップ前に約14秒のリードを持っており、ピットストップ後はベッテルの後方約11秒に戻った。
この時点でバトンとベッテルのみで比較をすると、仮にベッテルが2ストップ作戦であれば、2台とも残り一回ずつのピットストップを残しているため、見た目の11秒が差となるが、もしベッテルがもうピットに入らなければ、さらに一回分のピットストップロスタイムが加わり、11秒+25秒の約36秒タイムを縮めなくてはならない。
ただしこの計算はあくまでタイヤが同じ性能を常に出し続けられたらの非現実的な計算である。実際のタイヤは使えば使うほど性能は低下し、新しいタイヤとのタイム差が生まれる。
要はタイヤ交換の回数を減らすことが必ずしも正しいことではないということである。
このタイヤ交換の回数とタイヤの性能低下の関係がこのレースのポイントとなり、後に面白くしていく。
現時点でトップはベッテル、その後方に2位アロンソ、11秒離れて3位バトンになる。
また同じく34週目、ハミルトンとフェラーリのもう1台、マッサが接触。マッサはタイヤをパンクしながら走行し続けたが、トンネル内でクラッシュ、コース上にマシンを止めてしまう。
また同じタイミングでシューマッハもマシンをコース上に止めていた。こちらはトラブルが原因によるもののようだ。
よって2台のマシン撤去のため、セーフティーカーが入り、レースを先導する。
この間、コースは追い越し禁止のスロー走行状態となり、前車との間隔もなくなり、一列の隊列を作りながら走行し、コースクリア、レースの再開を待つ。
このタイミングで2位アロンソほか数台がピットイン。しかしトップのベッテルは入らない。アロンソはすばやい作業で3位で戦列に復帰。
39周目、セーフティーカーがピットに戻り、ベッテル、バトン、アロンソの順で
レース再開。
すべてのマシンの差がほぼない状態となり、トップのベッテルを2位のバトンが攻め立て差を詰めてくる。
ハミルトンに34周目の接触についてのピットレーンドライブスルーペナルティが出て、7位から9位へ落ちた。
なおもバトンはベッテルを追い回し、差は0.6秒。
バトンとすればベッテルのこれからのピット回数に関係なく、自分はもう一度ピットへ入らなくてはならず、とにかく飛ばしていく。
仮にお互いあと一度ずつピットインがあると考えた時に、現在のバトンは一回すでに多くタイヤを交換している分、少なくともベッテルのタイヤよりははるかに性能を出すことが出来る。ならば、後半共にタイヤを交換し、どう条件になる前に、この優位な状態を利用してベッテルと交わし、あわよくばリードして差をつけたいところだ。
49周目、バトンが3回目のピットイン。これでトップのベッテルとは25秒差になるが、順位としては3位でコース復帰。
ニュータイヤのバトンはまたしても最速タイムを出しながら、前の2台を追う。
ベッテル、アロンソは1分19秒台で走行するのに対し、バトンは17秒台。
この時点で残り29周。トップと三位の差が25秒。単純に一周2秒詰めれば、残り16周の時点で真後ろまで追いつく計算になる。さらにトップのベッテルのタイヤは17周目から同じタイヤである。更なる性能低下、つまりはラップタイムがさらに落ちる可能性も十分にある。
とはいえ、ベッテルが勝つためにはこの時点でもうピットに入れる状況ではなくなってしまっている。ここでもしピットに入ればアロンソ、バトンの後方3位になる。アロンソが仮にもう一度ピットに入ったとしても、確実にバトンの後ろで1位を失うこととなる。
トップはベッテルだが、タイヤの状況も含め一番苦しいのもベッテルになってきた。
そして、この後徐々に2位アロンソがベッテルとの差を詰め始める。
57周目、ついにベッテルとアロンソとの差が1秒を切り始める。ちなみにこの時点でバトンはアロンソの後方7秒まで追いついてきている。
アロンソがここに来てスパートをかけられたのにはこのタイヤでの走り始め、タイヤを労わって走行してきたからである。バトンとアロンソは2回目のタイヤ交換がほぼ同じタイミングで行った。その後、バトンはベッテルを追い立て、攻めた走りをしたが、アロンソは離されない程度に距離をとりつつ、周回を重ねていた。よってタイヤのライフがまだあり、ここにきてのスパートがかけられたのである。そして何度も言うように、ベッテルのラストピットは17周目、アロンソは38周目、20周分以上タイヤの性能差が2台にはある。
そして63週目、ベッテルとアロンソの差は0.3秒。その後方0.4秒にすでにバトンがつけ、3台が連なる形となった。順位とは逆に、ベッテルよりもアロンソ、アロンソよりもバトンが新しいタイヤをつけており、勢いがある。
しかしここはモナコ、本当に抜けない。さっきまで1周2秒速いバトンがアロンソの後ろについてからは、抜けない、ましてや仕掛けることさえ出来ずにいる。たしかにアロンソがうまく走っているのかもしれないが、ここがモナコという要素が出てきている。
同じことがベッテル、アロンソ間にも言え、追いつけるが追い越せない。
ベッテルはたしかに苦しいが、その中で自分より速い2台をうまく押えている。
アロンソが何度か抜こうと伺う動きを見せるが、なかなか決定打になるほどのチャンスを作らせないでいる。
すると69周目、上位3台の前方で、多重クラッシュが発生する。
コースをふさぐ形で、数台が止まったため、セーフティーカーが再度導入された。
しかし、マシンの撤去、ドライバーの救助に時間がかかり、レースは一時中断することになった。
この中段の間に、すべてのマシンにタイヤ交換が許可され、当然上位はすべてのマシンが交換を行った。
そして30分後、中断前の順位のままレース再開。
各マシンの差こそなく接近しているが、全車がニュータイヤ。2位のアロンソが最速タイムを出すが、他とのラップタイム差はコンマ数秒。さきほどよりははるかにマシン性能差がなくなってしまい、見た目こそ中断前と同じように見えるが、この時点で上位の順位はすでに決まってしまったといえた。
そして78周、ベッテル、アロンソ、バトンの順でゴール。
ベッテルが初のモナコウィナーに輝いた。
しかしこの優勝、終盤の中断があるかないかで、もしかしたら大きく変わっていたのかもしれない。もちろん中断がなくともベッテルが2台を押えきっていた可能性もある。
ただし、中断の時点であと約10周残っていた。その時点でベッテルのタイヤは相当苦しかった。その状態での10周、後ろからはペースの速い2台が迫り、よって性能低下していくタイヤを労わりながらも走れない。
その状態でトップを果たして守れたのだろうか。
また同じことが2位のアロンソ、3位のバトンの関係にもいえた。
抜けないモナコ、もしかしたら10周後も同じ順番で同じ結果になっていたかもしれない。もしかしたら、アロンソやバトンが勝っていたかもしれない。
ただどちらにしても1番面白くなる10周が中断と、中断中のタイヤ交換で見ることが出来なくってしまったのが本当に残念だった。
3台がそれぞれ異なる作戦をとり、3台が1秒以内で、順位とは反比例した勢いの関係での残り10周。たらればを言っても仕方ないが、想像しただけでもわくわくしてきてしまう。タイヤ交換の回数とタイヤの性能低下のベストな妥協点を見出す。少し難しいかもしれないが、近年ではなかなかなかった緊迫したモナコの接近戦が、モナコ独特の要素で失われてしまったのは残念である。
でも、これも本当にモナコ的要素がの味がしっかりと出たレースだったのかもしれない。
そして、タイヤ交換の回数とタイヤの性能低下のベストな妥協点を見出す。少し難しいかもしれないが、これもF1の一つの面白さでもある。
ちなみにハミルトンは6位でゴール。直接の比較は出来ないが、昨年アロンソが最後尾から6位を獲得したのを考えると少し物足りない気がした。接触やペナルティーとハミルトンらしいといえばらしかったのかもしれないが。