After15-20 years -4ページ目

新居

彼女の新居の住所を聞いて、
 とても驚いた。
 僕が生まれ育った場所のすぐ裏だった。

遠い遠い昔、
 幼い僕が住んでいたところ。


幸せな生活を送っていた場所。
 笑いのある家庭が存在していた場所。


あの頃の木造の家々はなくなって、
 マンションばかり建ってしまったけれど、
道や電信柱の位置は変わらない。
 30年以上も経っているというのに・・・。


苦しかったり
 悲しかったりしたときに、
1人でぐるぐる歩き、
 温かな思い出を思い出しては、
 時間の流れに身をゆだねていた所。




「あなたの思い出の場所に、
 私が住むのは嫌でない?」
「僕の原点の場所に、
 あなたが住んでくれるのは嬉しい。」


夜に手を繋いで、
 辺りを歩いた。


幸福から見放された瞬間の幼年期の出来事は、
 彼女には話してきたけれど、
 その場所を目の前にして話すと涙が溢れてきた。
彼女は僕の手を、
 優しく強く握ってくれた。  

離婚成立

彼女の親友と3人で、
 食事をしながら、
彼女たちの話をずーっと聞いていた。


彼女の決心は揺らいでいない。
 以前に感じていた迷いがなかった。


だったら・・・
もういいよ。
 離婚届に署名するね。


もうこれ以上
 あなたが苦しむのを見たくないから。
あなたが1人で枕を濡らす夜を送ってほしくないから。


たとえ僕との関係が変わろうとも、
 あなたが幸せになるのが、僕の願いだから・・・。




深夜の役所の窓口は、
 そこだけが灯りがともっていて、
事務的に、
 日直のおじさんが受け取ってくれた。
 受理は翌日の業務が開始されてから・・・。




その後、
 いつものように深夜のドライブ。


車を駐めて、
 後部席で、ずーっと抱き合っていた。


語っても語っても
 想いはつきない・・・。
強く抱きしめ合っても、 
 余計に離れられなくなる・・・。
熱い口づけを交わしても、
 更に激しくなるだけ・・・。



「やっぱり2人で旅行に行こう。
 一晩中、
 身体をくっつけてお話ししていよう。
 一晩あっても、
 あなたへの想いは伝えきれないけれど・・・。」
「うん、わかった・・・。」

昨年から話題にはしていたけれど
 消えかかっていた旅行に誘った。

安定剤

あなたの存在が、
 こんなにも心の中一杯に広がっていたことに、
 改めて気がついた。


決して共有してきた時間は、
 長いわけではないのに、
 その密度は濃かったのだね。


寄り掛かったり
 依存し合ったり、
 もたれ掛かったりしてきたわけではないものね。


普段は、
 ご飯も満足に喉を通らないのに、
あなたと一緒の食事は、
 しっかりと食べることができる。


落ち着かない夜に、
 あなたの声を聞くと、
 心が休まり落ち着く。


そう言うと、
 「それは、私も同じだよ。」と、
あなたは言うけれど・・・。


安定剤だけではない
 あなたが僕には必要・・・。

離婚届 前夜

明日、
 いよいよ彼女の離婚届が完成する。


離婚届の証人は、
 彼女の親友と僕。

明日の夜、
 3人で食事をしながら、
 署名・捺印をする予定。


その後、
 役所に一緒に行ってほしいって。




わかったよ。
 あなたの12年間の結婚生活の最後を、
僕が看取ってあげる・・・。

日曜の夜

会議の後に待ち合わせ。


疲労困憊した彼女と、
 いつもの蕎麦屋で夕食。

何度も来ているのに、
 夕食を摂るのは初めて。


めんつゆの優しさや、
お蕎麦の上品さが、
 疲れた心に染み入る。


それから、
 いつもの場所に車を駐めて、
「あなたの腕の中で、
 少しだけ眠らせて。」と言う彼女を、
後部席で、優しく抱きしめていた。


暗闇の中でうっすら浮かび上がる、
寝息をたてて眠っている、
 彼女の顔を見つめていた。



あと、どれだけの時間こうしていられるのだろうか?
 限られた時間がヒシヒシと伝わってくる。



彼女の目が覚めると、
恋人同士のように、
 お互いの気持ちを伝えあう。


いくら想いを伝えあっても、
 今はどうにもならないことばかり。



再婚して、
1人でも子供を生むことが
 彼女の願いの1つ。
先日、定期的に通院している病院で、
 タイムリミットはあと3年ぐらいと言われてから、
離婚に向けて突き進みだしたことは事実。


「僕の子供のお母さんにならないか?」
「あなたの子供は産みたい。
 今のお子さん方はどうなるの?」
「うちの子供達も連れてくるから・・・」
「そうしたら苦しむのはお子さん方でしょ?
 それに、
  お母さんから子供を離すなんてできないもの。」



彼女が望むのなら、
 相手はやがて現れるだろう。

素敵なスタイル、
 持って生まれた美貌、
守りたくなるかわいらしさの彼女だから。


今の流れの中では、

 残り時間が少なくなってきている・・・。

土曜の夜

新居探しで、

 一日中奔走していた彼女と、
深夜のドライブ。


ただただ、
 温もりを感じ合っていたくて、
 身体より心を求め合っていたくて
 場所を探したけれど、
お正月の時と同じように、
 週末のこの時間に、
 空いている部屋など無く、
結局はいつもの場所に車を駐めて、
 後部席でくっついていた。


何かにせかされるように、
 たたみ掛けるように、
 物事を運んでいた彼女が、
 とても心配だったけれど、
いつもの彼女に戻っていて、
 少し安心した。


彼女自身に言い聞かせるように、
 僕を拒もうとしていた頑なさもなかったのが、
嬉しかった。



もちろん支え方は変わるだろう。
4月からの新たな業務で、
 2人の置かれる環境も変わるだろう。

その中で、
 大事なものを見失わないでいこうと、
彼女を抱きしめながら思っていた。

今の気持ち

ここ数日、
 グチャグチャの気持ちのまま過ごしています。


この現実を、
 冷静に受け止められずにいます。


恥ずかしいほどにうろたえて、
 ご飯も受け付けないほどです。


あまりにも、
 突然訪れた彼女の離婚。
漠然と描いていた将来が、
 音を立てて崩れています。


僕が離婚することを、
 彼女は納得しません。
「お子さんがかわいそうだから・・・。」の一点張りです。


当然のことながら、
 まだまだ時間が掛かります。
新たな関係を築くのには。

その後

彼女は、
 離婚後の生活に向けて動き始めています。


やじろべえのように、
 揺れ動く心を抱えながら。
自分自身で背中を押すように、
 事を運び始めています。


彼女の友人達が、
 引き留め始めていますが、
決心は変わらないようです。



旦那さんへの不信感。
不安な夜を過ごす事への疲れ。
価値観のすれ違い。



「今までと土俵が変わるから、
 頻繁には逢えない。
 

 それに・・・・・

 奥さんにとって、
 私が彼女のような存在になるのは、
 私自身が嫌だから。」



そう、一番のネックは、

 灰色のままで過ごしている、
 旦那さんの女性問題でした。

結論

僕に無理を言わない彼女が、
「少しの時間でもいいから逢って・・・」と、
深夜近くに電話してきた。


来るべき時が来たようなので、
 エンジンをかけて、
 いつもの喫茶店に行く。


すっきりした顔の彼女。
 ここ数週間の苦悩がウソのように。


結論は離婚。

すべてをリセットして、
 新年度を迎えると決めたそうです。


そうそうに店を出て、
 深夜のドライブ。


車を駐めて、
 後部席で話をゆっくり聞く。
肩を抱きながら。


「仕事での関係は切れないけれど、
 しばらく距離を置くね。
 なかなか離婚に踏ん切れなかったのは、
 あなたと離れたくないから。
 でもね、
このままだと、
 あなたは、家庭よりも私を選ぶでしょ?
 お子さんに悲しい思いをさせるでしょ?」と、
大きな瞳に涙を浮かべて、
 ポツリポツリと話す彼女。


「もっと早く逢いたかった。
 生まれ変わったら、
  私を見つけ出して。
 そして私と一緒に暮らして・・・」と、
嗚咽をこらえて話す彼女を、
 ただただ力一杯抱きしめていた春の夜。




今後、僕達がどうなるか、わからない。

仕事上の繋がりは消えないけれど・・・。


形を変えて、
 より強く繋がっていくことを、
今は望むだけ。

離婚・・・

毎晩のように、
 泣きながら電話で話すあなた。


側にいて、
 肩を優しく抱きながら、
 何も言わずに頭をなで続けてあげたいけれど、
それができない僕達。



別れるのは、いつでもできるんだよ。

まだ打つ手はあるのに・・・との思いと、
あなたがこれ以上、
 苦しんだり悲しんだりしない道を歩んでほしいという思いの、
相反する気持ちが入り混じっている。




どちらの道を選んでも、

 僕は、あなたの味方だからね。