(第91回)路石
鈴鹿8時間耐久ロードレース、通称『8耐』というバイクレースの撮影に泊まりがけで行って来た。
7月の28日から31日と、またくそ暑い時期に、三重県は鈴鹿サーキットで行なわれる日本バイク界の夏祭り的レースで、とても人気が高い。世界を股に掛けるライダー擁する、メーカー直属の「ワークスチーム」から、個人でスポンサーを募って参戦する「プライベーターチーム」まで、約80台のマシンがしのぎを削る。
さてそんなバイクレースの何を撮影に行っていたかというと、京都の某専門学校の学生メカニックがレースに参加しているので、そのピットドキュメントを撮りにいったのである。6人の学生メカニックのうち、一人が紅一点の女の子だったので、その子にスポットを当てることにした。仮名でSちゃんと呼ぶ。
Sちゃんはバイク整備士志望、大阪出身の19歳。非常に小柄で笑うとチャーミング。気分屋だがとても勝ち気で、努力家でもある。なんでもパッパと手際よくこなしたがるが、それがうまく出来ないと短気を起こして投げやりになる。というのが何日か撮ってみての彼女のイメージ。
学生メカニックはバイクに関わる様々な雑用仕事をこなすが、「レース中のタイヤ交換」というメカニックの花形役も与えられる。Sちゃんには前輪の交換という役が与えられた。
8耐は8時間のレース中、約1時間ごとに計7回のタイヤ交換が行なわれる。それにかける時間がレースの順位を大きく左右するのはいうまでもない。
学生メカニックが鈴鹿に入ってから決勝レースの本番まで3日間あるが、Sちゃんは時間を見つけては必死に前輪交換の練習に励み、膝に青あざをいくつも作り、痛み止めを飲んでさらに練習に励んだ。
ちなみに、レース用バイクというのは市販のバイクをベースとして、さらにバイクが3台くらい買える費用を投じて改造してある。お金のあるチームほどバイクをより改良できるので、ワークスチームなどはワンステップで前輪をはめ換えることが出来る。
Sちゃんの所属チームはプライベーターで比較的安価でバイク改造を行なっているため、前輪交換には3ステップほど動作がいった。かなりのこつと力が必要だったが、小さい体全身を使ってタイヤをはめ込もうとするその姿には、なかなか感じ入るものがあった。
上手くはめられず、他の男子学生とのコミュニケーションにも戸惑っていたSちゃんは、2日目の夜に、一人で自動販売機の陰で泣いていた。僕はそのシーンをカメラで撮るか悩んだ末、結局撮らず、
「めげずに頑張りや」
とだけ声をかけた。プロのドキュメントカメラマンとしては失格ではあるが…。
最終的には、皆が驚くほどのスピードで前輪をはめられるようになったSちゃんであった。
しかし決勝レースでは雨天もあり、バイクが2度転倒、修復に時間がかかり、完走は果たしたもののビリから3番目というレース結果に終わった。
優勝したワークスチームからしてみれば、路傍の石ころ程度のチーム内でのドキュメントだけれど、それにはそれの良さもある。
とにかく僕はこれから15時間分の撮影テープをいかに編集するか、ひじょうに頭が痛いのである。
2005年8月16日号掲載

バレンティーノ・ロッシ 1979~
二輪史上最高と評されるイタリアのライダー。
| 追記・・・路石=ろいし=ロッシ…。ロッシに関するネタが文章中にほとんど登場しませんが、全編バイクネタなんでまぁいいかなと…。その後、あの子ちゃんと整備士になれたんかなぁ? |
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