(第9回)ひとやすみ
僕はフリーで映像関係やグラフィックデザインの仕事をしている。
まんべんなく仕事があればいいのだが、暇な時はすこぶる暇で、逆に、たばになって仕事が押し寄せることもある。撮影などの依頼がかち合う場合は、どちらか断るか他の人に回すが、映像編集やデザインなどは、締め切り日さえ守ればあとは自宅で時間の融通がきくので、つい複数の仕事を受けてしまう。
が、不眠時間が長くなり、ユンケルの空瓶が五本くらい並んだ頃、やっぱり断っておけばよかったと後悔するのだ。
今、この原稿を書いている時が、まさにその状態。眠い。眠い。もひとつ眠い!
トンチンカンになった頭を無理に回転させようとしても、煙は出るが、アイデアは出ない。でも、締め切り日を遅らしたら迷惑をかけるし、あわてるあわてる。
そんな時、「ふっ」と思い出す。
これは一昨年、イベント用の映像をパソコンで編集していた時のこと。
連続不眠時間は八十時間に及び、時計を見ると、朝の4時。リハーサルが行われる朝9時までに映像を完成させなければならない。あと5時間。会場までの移動時間をいれたら実質4時間しかない…、などと考えていた所までしか記憶がない…。
ハッと気付くと、机にうっぷして寝ていた。時計を見ると朝の7時、3時間も寝てしまったのだ。大変だ、間に合わない!と思って、パソコンを見ると、なんと映像は完成していた。
子どもの頃読んだ童話に、「こびとと靴屋」というのがあった。働き者の靴屋さんが、夜中靴を作る途中、疲れて眠ってしまう。すると、どこからともなく魔法のこびとがやって来て、靴を作ってくれるのだ。朝、靴屋さんが目を覚ますと、そこには立派な靴が完成していた、というお話である。
そう、僕のところにも魔法のこびとが来てくれたのだ。
ありがたやこびとさん!
…まぁ実際は記憶がとんでいるだけで、僕が自分で完成させたのだろうけど、八十時間も起きていると、いろいろ幻覚とかも見られて面白い。壁に貼ったタレントのポスターが急に笑い出したり、コーヒーカップが一人でクルクル回り始めたり。虎だって屏風から飛び出して来るだろうし、もちろん、こびとが登場してもおかしくはない状況になるのだ。
このフットハットの原稿も、ちょっと寝る間に、こびとさんが書き上げてくれんかな。
ところで、靴屋の童話が、イソップだったかアンデルセンだったか思い出せなくて、本屋に行って調べたら、グリムだった。そんなことしてる間あったら、寝たらいいのに。
でも久々に読んだその童話によると、こびとが作った靴は大変高く売れたそうである。よかったね。いつの日かフットハットにも、ささやかな幸運が訪れますように…。
とかなんとかいってる間に、原稿も書き上がった。さぁ、一休み、一休み。
2002年3月16日号掲載

一休 1394-1481
室町中期の禅僧。禅宗の腐敗を痛罵して自由な禅のあり方を主張。
| 追記・・・僕たちの業界(映像業界)では3日間完徹(完全徹夜)ということなどはしょっちゅうあります。逆に徹夜に弱い人には向いていない業界、ともいえます。でもなるべくなら徹夜は避けたいですね…と思う今日この頃…。 |
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