フットハットがゆく! -136ページ目

(第9回)ひとやすみ

 
 僕はフリーで映像関係やグラフィックデザインの仕事をしている。
 まんべんなく仕事があればいいのだが、暇な時はすこぶる暇で、逆に、たばになって仕事が押し寄せることもある。撮影などの依頼がかち合う場合は、どちらか断るか他の人に回すが、映像編集やデザインなどは、締め切り日さえ守ればあとは自宅で時間の融通がきくので、つい複数の仕事を受けてしまう。
 が、不眠時間が長くなり、ユンケルの空瓶が五本くらい並んだ頃、やっぱり断っておけばよかったと後悔するのだ。


 今、この原稿を書いている時が、まさにその状態。眠い。眠い。もひとつ眠い!


 トンチンカンになった頭を無理に回転させようとしても、煙は出るが、アイデアは出ない。でも、締め切り日を遅らしたら迷惑をかけるし、あわてるあわてる。

 そんな時、「ふっ」と思い出す。

 これは一昨年、イベント用の映像をパソコンで編集していた時のこと。
 連続不眠時間は八十時間に及び、時計を見ると、朝の4時。リハーサルが行われる朝9時までに映像を完成させなければならない。あと5時間。会場までの移動時間をいれたら実質4時間しかない…、などと考えていた所までしか記憶がない…。
 ハッと気付くと、机にうっぷして寝ていた。時計を見ると朝の7時、3時間も寝てしまったのだ。大変だ、間に合わない!と思って、パソコンを見ると、なんと映像は完成していた。

 子どもの頃読んだ童話に、「こびとと靴屋」というのがあった。働き者の靴屋さんが、夜中靴を作る途中、疲れて眠ってしまう。すると、どこからともなく魔法のこびとがやって来て、靴を作ってくれるのだ。朝、靴屋さんが目を覚ますと、そこには立派な靴が完成していた、というお話である。

 そう、僕のところにも魔法のこびとが来てくれたのだ。

 ありがたやこびとさん!

 …まぁ実際は記憶がとんでいるだけで、僕が自分で完成させたのだろうけど、八十時間も起きていると、いろいろ幻覚とかも見られて面白い。壁に貼ったタレントのポスターが急に笑い出したり、コーヒーカップが一人でクルクル回り始めたり。虎だって屏風から飛び出して来るだろうし、もちろん、こびとが登場してもおかしくはない状況になるのだ。

 このフットハットの原稿も、ちょっと寝る間に、こびとさんが書き上げてくれんかな。

 ところで、靴屋の童話が、イソップだったかアンデルセンだったか思い出せなくて、本屋に行って調べたら、グリムだった。そんなことしてる間あったら、寝たらいいのに。
 でも久々に読んだその童話によると、こびとが作った靴は大変高く売れたそうである。よかったね。いつの日かフットハットにも、ささやかな幸運が訪れますように…。

 とかなんとかいってる間に、原稿も書き上がった。さぁ、一休み、一休み。

2002年3月16日号掲載 


一休
一休 1394-1481
室町中期の禅僧。禅宗の腐敗を痛罵して自由な禅のあり方を主張。

追記・・・僕たちの業界(映像業界)では3日間完徹(完全徹夜)ということなどはしょっちゅうあります。逆に徹夜に弱い人には向いていない業界、ともいえます。でもなるべくなら徹夜は避けたいですね…と思う今日この頃…。


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