フットハットがゆく! -135ページ目

(第10回)みな、元より友

 
 僕のタクシードライバー時代、一番楽しかった仕事というのは、やはり修学旅行である。担当になった班の生徒さんが自ら計画したコースを、ドライバー兼観光ガイドとして、一日お供をするのだ。
 一シーズン、三~四十校ものお供をしたが、生徒さんは一生に一度の事だから、いい旅つくろう観光タクシーということで、僕も毎回必死だった。

 歌番組でヒット曲を調べ、カセットにダビングして車内で鳴らしたり、ガイドに流行のギャグを混ぜたり。生徒さんと友達になるのが一番と考えていたので、
「敬語使わんでええで。塩見ちゃんって呼んでや!」
 なんて、いったりして。出会う前から友達だったように仲良くなり、別れ際涙を見せてくれる生徒さんなんかいると、こちらまでジーンと来ることもあった。


 思い出は沢山あるが、忘れられないのはやはり、入社して初めて修学旅行のお供をした時のことである。愛媛の松山から来た中学校で、僕の担当した班は女の子ばかりであった。最初は緊張したが、次第にうちとけた。

 班長のショートカットの子は、自分は蓄膿なので、それを治すにはスポーツがいいと聞き、剣道をやっている、といっていた。そういえば僕も小学校の頃蓄膿だったけど、中学で野球をやっていたら治った、という話をしたら喜んでいた。

 さて、その班のコースの中に、「よーじやで買い物」というのがあった。あぶらとり紙で有名なお店で、女の子に絶大な人気があるよーじやさんは、祇園にある。車が祇園に向かう間、彼女達は本当に嬉しそうな表情をしていた。(はっきりいって、お寺を回るより、お土産を買う時の方が生徒さんは楽しいのである)
 ところが、よーじやさんは定休日であった。観光シーズンやし、期待に胸を膨らませて買いに来る生徒さんもおるのに、休むなや!と思ったが、こればかりは…。皆のしょげた顔を見ると、僕まで悲しくなった。

 数日後、また別の学校のお供で、新京極を歩いている時、「はっ!」と気付いた。
 よーじやさんは新京極にもあったのだ。というか、店の規模は祇園店より小さいけれど、こちらが本店で、支店とはわざと定休日もずらしてあった。ガーン!
 松山から来たあの班は、新京極もコースに入っていたのに、僕はわざわざ定休日の祇園店に、生徒さんを連れて行ってしまったのだ。新人とはいえ、なんたる失態…。

 僕は松山の中学校の住所を調べ、担当した班の女の子に人数分のあぶらとり紙を買って、お詫びの手紙とともに送った。本当は、生徒さんに何かを買ってあげるという事は、班によってドライバーのサービスに差が出るので、会社からは禁止されている。しかし僕はどうしても、彼女達のガッカリした顔が忘れられなかったのだ。

 後日、お礼といって剣道ガールが、松山の名産という砥部焼(とべやき)のコーヒーカップを送ってくれた。今でもそれでコーヒーを飲むたび、楽しかった修学旅行の数々を思い出すのである。

2002年4月1日号掲載 


源頼朝
源頼朝
鎌倉幕府初代将軍。鎌倉を本拠に勢力を伸ばし、平氏を全滅させた。

追記・・・いまや、よーじやさんの店舗はさらに増えましたね~。いまだに砥部焼のカップを見ると、あの時のことを思い出します…。


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(1992/07)
斎藤 あきら

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