フットハットがゆく! -134ページ目

(第11回)また、おかしき

 
 この原稿を書いている時点では僕はまだ32才であるが、紙面になる頃には33才になっている。そこで今回は、32才の僕から33才の僕への手紙を書く事にする。

 この歳になって今さら、2、3週間で何かが変わるか?

 いや、やはり君は、今の僕と全く同じというわけではあるまい。少なくとも、現在風邪で非常に苦しいが、それは治っていることだろう。

 これは昨日のことだが、「病気になったら病気を楽しめ」と、一日中布団で読んでいたのが「ジュラシックパーク」の小説。あまりに面白いので眠らずに何時間も読んでいたら、余計に風邪はこじれ、恐竜の悪夢にうなされる始末。昨日の僕はバカな奴だ。もっと爽やかな本を読むか、ゆっくり寝てれば良かったものを…。

 それにしても僕は、自分の過去とか未来をずいぶん気にするなぁ。

 恐竜は過去を全く顧みない。(単に記憶力が悪いといえばそれまでだが)よって、後悔、罪の意識、羞恥心、同情、そういった感情に捕われて、生きる上での判断を誤る事がない。同時に、未来に対する恐怖心や、希望や野心も持たない。目前の状況に集中し、生きるために必要な本能のみを備えているという点で、ある意味生物として非常に優れている。
 ゆえに1億6千万年も、恐竜時代は続いた。中には知力のある恐竜もいたという説もあるが、とにかく、一つのことしか考えていない奴は、意外と強いものである。いい意味で、「バカには勝てない」のである。

 よし、僕は恐竜になろう!

 風邪でくるまるこの布団は、実は卵の殻なのだ。病気が治れば殻を破って、新生シオミザウルスの誕生だ。そして過去を悔やまず、未来にも期待しない。目前の現実に、100パーセントの力でブチ当たってやる。
 一瞬を真剣に生きられないものは、一日も真剣に生きられない。一日を真剣に生きられないものは、一生も真剣に生きられないのだ。

 やるからには、やる。楽しいことがあったら、とことん楽しむ。苦しいことがあっても、それが必要なことならとことん耐える。逃げる時は、死に物狂いで逃げる。

 安いギャラで仕事が来ても、受けたからには100パーセントの力を注ぎ込もう。それで評価が低くても、気にするな。
 たとえ好きな人に振られても、最低三回はアタックしよう。それでキレイさっぱり忘れて、偶然同じ人に出会ってまた好きになったら、またアタックすればいい。

 今まで、こんな感じで生きて来た。定職にもつかず、貯えもないが、僕はそれなりに必死だ。刹那的な生き方だが、それもまた、おかしきかな…。最終的に振り返れば、全ては刹那なのだ。

 無責任なようだけど、君が僕と違う考えになって、別の生きる道を見つけたとしても、僕はそれを否定しない。

 だからどうか君も、今の僕を否定しないでほしい…それでは。

2002年4月16日号掲載 


正岡子規
正岡子規
愛媛出身の俳人・歌人。俳誌「ホトトギス」により活動。

追記・・・これは初期のエッセイですが、この後、誕生日を迎えるたび、似たような自虐系のグチをこぼしています(汗)。


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