(第14回)ショーマン知ろう
今、わけあって僕はニューヨークにいる。漂流して米捕鯨船に拾われてやって来た日本人以来、僕は何人目の渡米者だろう。
二週間ほどの滞在予定であるが、NYからでも原稿を電子メール一本で瞬間的に送れるのだから、便利な世の中になったと思う。まぁ便利だからといって、いい文章が書けるかどうかは別だが…。
刺激的な街NY。今回はこの街で知り合った、一人の日本人について書こうと思う。かつて一世を風靡したトップアイドル、元「光GENJI」の諸星和己君である。コメディアンでもある有名な映画監督に勧められ、NYにやって来てほぼ一年。今は日本のTV番組のリポーターなどをしている。
僕の義理の弟の知り合いの知り合いが諸星君で、先日一緒にヤンキースタジアムへ、大リーグ観戦に行ったのである。球場に向かう地下鉄の中で彼は、
「日本では絶対、電車なんかに乗れないし、地下鉄に乗れることが楽しい!」
といっていた。
ところが偶然駅で若い日本人の団体客に遭遇してしまい、正体がばれて騒がれた。諸星君はトントンと早足にその場を去りつつも、手を上げて「オース!」と笑顔で皆に声をかけていた。一人の日本人が
「諸星君、頑張って!」
と声をかけ、
「おう、頑張るよ!」
と彼は応えた。皆、今や彼がスターの座にいないことを知っている。そして彼は、かつていた世界に戻るために、こうしてNYで充電をしているのだ。いや、新たな修業なのかも。
野球を見終えたあと諸星君は、この日登板したマリナーズの守護神、
「佐々木選手なら顔がきく」
と、彼の予約の入っている店を調べて、そこに連れて行ってくれた。そしてわざわざ佐々木選手のテーブルにいき、
「友達だから握手してあげて」
と僕に握手させてくれた。この日初対面だった僕を、「友達」といってくれたことが嬉しかった。僕と佐々木選手を握手させても、諸星君には何のメリットもないのだが、根っから彼は、人を喜ばせるのが好きなようだ。
夕食の席で僕は彼にいった。
「さっきの団体客に対する対応、良かった。みんな好印象持ったと思う」
「昔はただ逃げるだけだった。この一年でだいぶ変わった…」
と彼は答えた。
その後、ビールを注文した格好がとてもさまになっていたので、
「今の注文の仕方、メチャかっこよかったなぁ」
というと、
「ほんと? じゃぁ今度はトシちゃんでやってみよう」
と、モノマネ。周囲は大爆笑。見知らぬ隣席のアメリカ人にもちょっかいを出し、場を盛り上げる。とことんショーマンなのだ、彼は。
あと数カ月でNYを去る予定の諸星君は、歌手として復活するため、日本での全国ツアーを予定している。彼が再びスターダムに上れるかどうかは分からないが、これからも彼に出会う人々は、きっと楽しい時を過ごすだろう。…彼はショーマンだから。
2002年6月1日号掲載

ジョン万次郎
土佐出身の幕末の幕臣。出漁中に遭難して米船に救われ、米国で教育を受けた。
| 追記・・・これはもう6年も前の話ですね。佐々木選手は引退し、旧ヤンキースタジアムも今年でなくなってしまいますね~。時の流れを感じます。…諸星君、最近はテレビのバラエティなどでよく見かけるようになり、嬉しい限りです。(2008/7月) |
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