フットハットがゆく! -126ページ目

(第19回)鴨の澄明

 
 夏の鴨川、上流に行けば泳げるが、今出川、丸太町あたりもけっこう深いところがあり、泳げる。ギラギラの太陽の中、短パンで水につかりバシャバシャ泳ぐと気持ちいい。

 しかし実際泳いでいると気になるのが、川底に落ちているジュースの空き缶である。岸からわざわざ拾いに行く事はないが、今まさに自分が泳いでいる川だから、目に付いたものは拾う。

 川の空き缶をさらう真夏の好青年を、どっかの木陰から見守る麦わら帽子の美女などおらんもんかね…などと考えながら、缶を拾っていると、錆びて真ッ茶色になったものの中に、びっしりと砂利が詰まっている。このままゴミ箱に捨てるのもなんだから、缶を振って砂利を取り出そうとすると、中から水中性の昆虫がたくさん出て来た。この缶は彼らの立派な巣であった。

 健気なものだ。人間が捨てたゴミを利用してでも、様々な生命が育まれている。その空き缶をどうするか迷った末、やはりそのままにしておく事にした。
 虫のいない缶は河川敷のゴミ箱に捨て、木陰の芝生に寝転がる。ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
 そうさ、とりあえず無用の空き缶が、ほんの一抱えではあるが川から消えたし…。


 傾きかけた日差しに水面がキラキラと輝き、どこからともなく飛んできた白いサギの立ち姿が、シルエットのように浮かび上がってとても風情がある。サギたちは小魚を捕って食べている。僕はふと、彼らの面白い習性に気付いた。

 サギは川下を向いて、片足で水面に立つ。あいている方の足は、宙ぶらりんな感じで水中に入れているが、時折、痙攣したようにその足を震わす。そして、素早くくちばしを水中に突っ込み、小魚を捕獲する。足を水中でピクピクとさせる、そのさまがなかなか滑稽で面白かった。他のサギも皆同じような仕草をくり返しているので、これは何か秘密があると思い、また僕もザブザブと川の中に入った。その途端に、サギはどこかへ飛んで行ってしまった。

 とりあえずサギがいた辺りまで行き、同じように川下を向いて片足で立ち、もう一方の足を細かく動かしてみる。驚いた事にその途端、小魚が僕の足元に集まって来た。

 からくりは、こうだ。

 足をザブザブと動かすと、川底の砂と泥が水中に舞い上がる。砂と泥は川下に向かって、尾を引くように流れる。泥の中には水中性の虫やミミズがいる。つまり小魚の餌が、水中に投げ出されるわけだ。舞い上がった餌を食べに、小魚が集まる。サギは、自分の向いている方向だけに魚が集まるので、すこぶる捕獲しやすいというわけだ。
 う~ん、サギ氏あたま良い。一片の京都風情の中にも、弱肉強食の世界あり、か…。


 三十過ぎた大人が、一人街中の川で遊んでいると、少し危ない人にも見られるかもだが、ようするに、美しいもの醜いもの、実際に間近に寄ってみると、いろいろ違ったものも見えてきて面白いよ…ということがいいたかったのである。

2002年8月16日号掲載 


鴨長明
鴨長明
鎌倉前期の歌人。京都下鴨神社禰宜(ねぎ)の家に生まれる。著「方丈記」「無名抄」など。

追記・・・ネタ集めのために奇行に走る…作家やアーティストの気持ちがよく分かります。夏の鴨川はとても気持ちがいいですが、場所によってはヘドロが溜まっているところもあるので、要注意です!


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