フットハットがゆく! -118ページ目

(第27回)法則は悲しや

 
 僕は昔からクリスマスには縁がない。縁がないというのは、イブの夜になんかこう、甘い恋など…味わったことがない、ということだ。恋人がいても仕事で会えないとか、クリスマスの数週間前に別れてしまったとか、魔の法則が毎年僕のイブを邪魔する。
 それでもやはりクリスマスは好きだ。べつにキリスト教徒ではないけれど、やはりなんとなくウキウキするし、基本的にミーハーなので、イベントごとは大好きなのだ。

 ということで、僕がタクシードライバーだった頃、クリスマスが近づくと、車内ではよくそれらしいBGMをかけた。ワムの「ラストクリスマス」、山下達郎の「クリスマス・イブ」など、こてこてのものから、ムーディーなものまで。

 一応断っておくと、営業車内でBGMをかけるのはマニュアル上は禁止となっている。自分が好きなBGMでも、お客さんがこの上なく不愉快に感じる場合もあるからだ。
 でも僕はこのマニュアルを無視して、色々な季節、タイミングに応じてBGMをかけるのが好きだった。観光シーズンにはお琴のテープ、晴れた日にはドライブにでも行きたくなるような楽しい曲を、雨の日には雨にちなんだ曲をテープに編集して流した。

 そしてクリスマス…。

 最初、BGMは小さく小さく鳴らしている。タクシーに乗っていきなりクリスマスソングがガンガンと鳴っていたら、逆に気色悪い。小さく鳴らしていて、
「もうすぐクリスマスかぁ」
 と、お客さんの反応があれば、少し音量をあげる。
「これ、ラジオですか?」
 とお客さん。
「いえ、好きな曲をテープに集めたんです」
 そこから話が弾んだりもする。

 上賀茂でご乗車頂いたとあるお客さん。最初の行き先は地下鉄北大路駅であったが、駅に近づくと、
「すみません、四条烏丸までこのまま行って下さい…」
 クリスマスソングを聴きながら、しばしドライブは続く。阪急の烏丸駅が近づくと今度は、
「ついでに長岡天神まで行って下さい…」
 地下鉄、阪急を乗り継いで行く予定を変更し、ずっとタクシーに乗って頂けたのは、クリスマスのおかげだ。嬉しくなって、そのテープはお客さんにプレゼントしてしまった。おかげで車内は無音になったが、ラジオを付けるとまた、クリスマスソングが流れてきたりする。

 夕方になって暗くなると、カップルのお客さんなどの場合、イルミネーションの奇麗な道を勧める。そういう道は車が多く渋滞している場合も多いのだが、やはり奇麗なものを見ると、人は幸せになる。
 冬のイルミネーションを眺めながら、クリスマスのBGM…多少目的地に遅れて着いても、お客さんは釣り銭の端数をそのままくれたり、年配のカップルなどはチップを弾んでくれたり。

 個人的にはクリスマスには縁遠いが、恩恵もたまにはあるし、いろんなところに、いろんな形で、サンタはやって来るのだ…

2002年12月16日号掲載 


細川ガラシャ
細川ガラシャ
明智光秀の娘。細川忠興の妻。高山右近の影響でキリスト教に改宗。

追記・・・法則は悲しや = ほうそくはかなしや = ほそかわがらしゃ = 細川ガラシャ…。上賀茂から長岡天神までご乗車いただいたお客様は、60歳前後のご夫人でした(笑)。本来駅で降りて地下鉄~阪急と乗り換えていくところを、ずっとタクシーに乗っていただいたということは、乗り心地がよかったということ…サービスを提供する側としては、とても嬉しかったです。


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