フットハットがゆく! -117ページ目

(第28回)小咄喫茶2

 
 新しい年になりました。本年もどうぞ、「フッ」と、「ハッ」とを宜しく。


 今回はタクシー小話2。生理現象について。


 睡魔…

 昼食後、北山堀川でご乗車いただいたお客さん、行き先は京都駅八条口。ハンドルを切ることなく、ひたすら一本道。途中で渋滞、ポカポカ陽気ときたら、普通の人間なら眠たくなる。本当は実車中にものを口にするのは禁止されているが、こっそりミントのタブレットを口に入れる。
「いい天気ですねぇ」
 などとお客さんに話し掛けてみるが、お客さんもスースーと寝ている。タブレットもなくなり、渋滞は解消の気配なし…。いつ前の車に追突してもおかしくないほどの睡魔が襲ってきたので、そういう時は、超どスケベなことを考える…。

 よく長距離トラックの運転席に、過激なヌード写真が貼ってあったりするが、あれは眠気防止に役立つのだ…とその時思った。といってタクシーにヌード写真を貼るわけにもいかんので、ひたすら頭の中で、Hなことを考える。
 道行く若き女性よ、タクシーの運ちゃんが運転席からいやらしい目であなたを見ていたら、その人は眠くてしようがないのだ…。
 それでも性欲より睡眠欲がまだ勝つようなら、最後の手段、息を止める。これ以上無理というところまで息を止めると頭に血が上り、眠気が覚める。ふと目を覚ましたお客さん、真っ赤な顔で「ハァハァ」いっている運転手を見て、とても怖かったに違いない…。


 尿意…

 タクシーの売り上げというのは、半分運みたいなところがあるので、運がいいときは、ひっきりなしに実車が続く。降車地に次のお客さんが待っていたり、目的地に到着する寸前に、次の無線を拾ったり。仕事は充実、売上倍増といいことだらけだが、尿意を催した場合は別だ。どうにもこうにも我慢できなくなって、タイミングをみて「回送」にし、いかにもタクシー待ちのお客を振りきり、そこのけそこのけ便所へ走る。「ホッ」と一息…。

 ところがその後、さっきまでの忙しさがウソのように客足が途絶える。運の流れが変わったのだ。
 人生は皮肉と矛盾に満ちている。余裕のない時には客がいて、余裕のある時に客がいない。
 ならば逆にまた余裕のない状態を作ってやろうと、水をガブガブ飲み、尿意を催すまで待ってみる。しかしそれも、待つと来ないもの。そのうち、意固地になって水を飲む自分がアホらしくなる。努力する方向を間違えることも、多々あるものだ。


 便意…

 これほど苦しく、恐ろしいものはない。僕のタクシードライバー時代、唯一の自損事故の原因が、この「便意」である。
 無線配車中に究極の便意に襲われ、無線を無視して公衆便所に車を向けた瞬間、電柱に激突した。その途端に、便意は何処かへ行った。いったい何だったのか…。

 仕事を終えて帰宅し、トイレで流す前の彼を見る。
「お前のせいで車の修理代が給料から天引きや!」
 と、つばを吐きかけたところで、彼は顔色一つ変えない。

 睨み付けているのもバカバカしくなって、そのまま流す。

2003年1月1日号掲載 


小林一茶
小林一茶
江戸後期の俳人。俗語・方言を交え、独自の作風を示した。

追記・・・タクシーに関する小話集は「小話喫茶」シリーズとして数回登場します。睡魔、尿意、便意といかにつき合うか…難しいですね。他にも腰痛、ぢ、(長く座席に座っているので)さらにはてっぺんハゲ(MKドライバーは帽子をかぶっている)など、ドライバーの天敵は多いです(笑)。


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