フットハットがゆく! -113ページ目

(第32回)閑人(かんじん)

 
 出家するとか、仕事でミスったとかいうわけではないのだが、昔、いきなりつんつるてんの丸坊主にしたことがあった。スキンヘッドというやつである。会社の同僚からは呆れられ、母親からは「近所を出歩かないで」といわれた。

 さて、頭を剃ってみて、ふと気付いたことがある。僕の頭の形が…いびつなのだ。斧でどつかれたような、溝のように大きく深いシワが右頭部にあったからだ。なぜ自分の頭がそんな形なのか、見当もつかん。髪の毛があるうちは全く気が付かなかったが、ジャングルの中にそんな謎が隠されていたことには正直驚いた。大きなイボも一つあった。理髪師さんが頭を剃る時、イボのまわりを剃るのに苦労していた。

 昔の映画で、頭髪を剃ると謎の入れ墨が現れた、というのがありとてもインパクトがあった。僕の頭から発見されたのはシワとイボなので、どうってことないのだが、他にも発見したことはある。


 その1…頭皮で空気密度の変化を感じる。

 本来頭髪で覆われているべき頭皮が剥き出しになると、やはり敏感である。背後で誰かが動くと、微妙に空気が動き、その密度の変化を頭皮で感じとれるのだ。仮に目と耳を失ったとしても、人は何かが動くのを感じることが出来ると知った。
「お坊さんが頭の毛を剃るのも、感覚を研ぎ澄ますためなんだな…」
 と、僕は勝手に解釈した。


 その2…「ハゲ」といわれるとムカつく。

 友達に「よう、ハゲ!」といわれて、「誰がハゲやねん!」と本気で怒ってしまった。まぁどこから見てもハゲ頭なのだが、人からいわれると無性にムカついた。その頃友達に若禿げ気味の男がおり、僕はよくそいつのことを「ハゲちゃん」といってからかっていたのだが、そういう冗談はよくないのだと気付いた。


 …しかし、坊主頭ひとつであれこれ語る僕も、よっぽどの閑人だなぁ。まぁ、何かアクションを起こせば何かの発見があり、それは目に見えるものとは限らないので、想像力や心眼が大事だ…ということをいいたかったのである。
 昔、五度も日本に渡ろうとして失敗し、失明までした高僧がいたが、一見無駄に思えるその間にも、様々なことを発見したに違いない。目を失ったことによって、見つけたことも多々あっただろうと想像する。


 閑人の戯れ言を続ける。 

 毛を切って何かを発見するといえば、昔、デートの前日…夢中になって一本残らず鼻毛を切ってしまった。きれいにつるつるになった空洞を見て、
「これでは汚れた空気が直接鼻孔に入るなぁ…体には悪いだろう。…まるで森林伐採によって空気が浄化されなくなり、よって引き起こされる大気汚染のようだ。何事も切り過ぎはよくないな…」
 と思った。

 鼻毛ごときを地球規模の発想に広げた自分の着想に、僕自身はとても満足していたのだが、その話を次の日のデートの最中に女の子にしたら、思いっきり引かれた。

2003年3月1日号掲載 


鑑真
鑑真
奈良時代の渡来僧。日本の律宗の祖。渡日を志して五度失敗しその間に失明。

追記・・・閑人を「ひまじん」と呼ばずに「かんじん」ということで…。鼻毛一本切るにしても、何かを感じる人と、そうでない人とがいると思います。小さなことにこだわる小人物…ととるもよし、観察力と感受性に優れた人物…ととるもよし…(笑)。


鑑真—転生への旅立ち鑑真—転生への旅立ち
(2007/08/03)
山本 巖

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