フットハットがゆく! -105ページ目

(第84回)知らん…

 
 興味がないとなかなか覚えられないもののひとつに、お寺の宗派がある。

 京都でタクシードライバーをしていた頃、昼勤務だったから観光ドライバーとしてお客様のお供をすることも多々あった。
 しかし当時26、7の若造が、ご年配の方にいろいろお寺のうんちくを語るのもおこがましいので、だいたいノリと若さでごまかしていた。
「このお寺は、何宗でしたかいな?」
 と聞かれて、
「え~と、確か浄土真宗だと思うんですけど、えっと、臨済宗だったかな、いや、天台宗かも」
 と、あやふやな答えは禁物。かといって
「知らん」
 ともいえないので、
「え~と、そうですね、キリスト教でないことだけは確かです。」
 と答えて、笑ってごまかすという…。
 ちなみにこれは先輩ドライバーに教えてもらったギャグである。


 知らんといえば、お客様も意外とめちゃくちゃな京都情報を持ってやってくることがある。

その1

 京都駅でお客様ご乗車。
お客様A「薬師寺までいって。」
 京都にも薬師寺と名のつくお寺はいくつかあるようだが、普通『薬師寺』といえば奈良である。
僕「あの~、薬師寺は奈良のお寺ですけど…」
お客様A「あ、そうかそうか。ここ、京都だっけ!(笑)…じゃぁ」
 と、ガイドブックを繰り始める。
お客様A「ここ、有名でしょ。このお寺。ここいってよ。しみずでら」
僕「有名なお寺で、しみずでら…。う~ん、清水寺(きよみずでら)のことですかねぇ?」
お客様A「あ~きよみずって読むんだ。そういえばその名前聞いたことあるよ。そこいって、そこ」


その2

 銀閣寺付近でお客様ご乗車。乗るなりいきなり話しかけて来た。
お客様B「銀閣寺はサギやね。」
僕「え、どうしてですか?」
お客様B「金閣は金色してたのに、銀閣はぜんぜん銀色じゃないじゃないか!」
 この感覚は、海外の人が「日本人はみんなちょんまげをしている」と思い込んでいるのに似ている。しかし大の大人が平気で「銀閣は銀色」と思い込んでいるところは、なんというか、銀閣ファンとしては何ともいえん思いである。
お客様B「昨日、高台寺の夜間拝観にいったけど、あれもサギやね。」
僕「え、どうしてですか?」
お客様B「なんか砂場でちかちか光ってたけど、なんのこっちゃわからん。ディズニーランドの方が面白い。」
 …。この人は「情緒や風情」といったものを知らんと見える。まぁ、人の嗜好も思考も人それぞれだから、何もいい返す気はない。というかタクシードライバーがお客様に意見するとトラブルの元になるので、だいたい、
「へーそうですか。」
 でごまかす。
お客様B「京都にもディズニーランドかUSJみたいなの作りゃいいのに。きみ、いったことある?」
僕「日本のはいったっことないんですよ~。ロスのだったら両方とも行ったんですけどね~」
 と、ちょっと嫌みをいうのが精一杯な僕でした。

2005年5月1日号掲載 


親鸞
親鸞 1173~1262
鎌倉初期の僧。浄土真宗の開祖

追記・・・お寺のネタで「親鸞」=しんらん=知らん…。それにしても知らんというのは恐いというか、無敵というか…。でも知らんことを知らんといえるのはまだ人のできている方で、知らんくせに知ったかぶりするひとはたちが悪いですね…(笑)。


親鸞をよむ (岩波新書 新赤版 1096)親鸞をよむ (岩波新書 新赤版 1096)
(2007/10)
山折 哲雄

商品詳細を見る