『人体の全貌を知れ──私たちの生き方を左右する新しい人体科学』 ダニエル・M・デイヴィス/著

 

 一九七○年代には、人体には約三○○種類の細菌が生息していると考えられていた。

当時の科学者たちは、その前提に立って、健康な人の体内にみられる細菌の中核をなす細菌セットの同定に着手した。

そのような細菌のうちのどれかが失われると、失われたこと自体が疾患であるか、もしくは疾患の基礎原因になっていると考えてのことだった。

現在、私たちは、この考え方があまりにも単純化されすぎていたことを知っている。実のところ、人体には想像を絶するほどの多様性をみせる微生物の生態系が宿っている。

あなたの体内には、ヒト細胞と同じくらいの数の細菌個体が存在し、それらは約一万種類の細菌で構成され、なかには地球上の人体以外の場所では存在が確認されていない種類もある。

これらの細菌がもつ遺伝子の総計は、あなた自身のヒトゲノムに含まれる遺伝子の数の約一〇〇〇倍になる。

これに加えて、体内や体表には無数のウイルスと真菌類も存在するが、そのようなウイルスや真菌類について私たちが知っていることは、細菌に関する知識よりもはるかに少ない。

人体に棲みついている微生物全体を一つの器官――ヒトのマイクロバイオーム――として捉えると、その重量はヒトの脳の重さに匹敵する。

ある人物のマイクロバイオームの構成内容と疾患を関連づけるのは容易ではない。

なぜなら、私たちの体内で生命体が織りなす広大な宇宙は、恐ろしく多様性に富んでいるからだ。

しかも―――人体の他のどの器官とも異なり――個人間でも相当に異なるし、同一人物でも、貧困や妊娠や引っ越しなどの影響で、一生を通じて変化していく。

 

(略)

 

西洋社会はもう何十年も前から、食事療法によって肥満や、二型糖尿病のような肥満関連疾患に対処しようと努力してきた。

しかし、エリナフとセガールの研究は大きな問題を提起している。

「健康な」食事の構成は、何を食べるかだけでなく、誰が食べるかによって決まるのだ。

その人の遺伝子、生活習慣、そしておそらく他の何よりも、その人のマイクロバイオームに左右される。

私たちは「全員に同じサイズの服を着せる」ような発想を捨てなければならない。

「栄養学の新たな時代の始まりです。私たち一人ひとりが自分にとって最適な食事法を探す時代になったのです」とセガールは言う。

 

最新の科学で明らかになった細胞や遺伝子の研究から、どのように人体の全貌を見ていくかが、この本のテーマになっている。

 

これまで体質だと思われていたことが、体内の微生物の働きの違いによる可能性も書かれていた。

 

無数の生物を含めて、「自分」が構成されているというのは不思議だなぁ~びっくり