若い頃からよく痴漢やセクハラに遭った。
一番最初は小5の頃、そろばん塾の帰りだ。20歳前後の若い男が、歩道の真ん中で佇んでいた。小雨が降っていたが、傘もさしていなかった。「ヘンなお兄ちゃんだな」と思って通り過ぎようとすると、その男が声をかけて来た。「ねぇ君、どこの小学校?A小学校?B小学校?」
「A小学校です」私が思わず答えると、その男はいきなり私に覆いかぶさり、口を押さえた。そしてそのまま人気のない所に引きずって行った。「ガキのくせに、いい体してんじゃねえか」そんなようなことをつぶやきながら、男は私の胸や股間を執拗に撫で回した。私はまだその行為の意味が分からず、自分はきっとこれから殺されるのだろうと考えていた。口を押さえられていることも手伝って、まったく声が出せない。それに、余りに怖い思いをすると、かえって思考が停止するらしい。私はただ、黙ってされるがままになっていた。
そのまま行けばきっとレイプされていただろう。しかし運の良いことに、たまたま通りがかった人がいて、私は難を逃れた。男はすばやく私の体を離し、逃走した。後に、その男のやった事の意味を知った。母から、「男の人はたまにそういうことをしたくなるのだ」と聞かされて、あのお兄ちゃんはそういう気持ちだったんだなと理解した。私の体に触りたかっただけで、殺すつもりじゃなかったんだなと、幼い私は安心さえした。父親からは、「お前に隙があるからだ」と怒られ、何となくああいうことをされた自分が恥ずかしい存在に思えてきた。「ガキのくせに、いい体してんじゃねえか」あの男の言った言葉が頭をよぎり、「ガキのくせにいい体してる」自分が悪いのだとさえ思ってしまった。今考えるとそれは恐ろしい勘違いなのだが。
2度目は中学3年の時。冬休みに、家から歩いて30分の本屋に行った時のこと。いつもは自転車で行くのだが、その日はたまたま歩いて行った。本屋の中で、妙に目の合う人があった。25、6歳の若い男性で、今風に言うと「アキバ系」だった。髪は中途半端な長髪でボサボサ、銀縁メガネをかけ、痩せた顔は血色が悪く、不健康な雰囲気だった。その男と、偶然かも知れないが、広い店内で何度も目が合った。目が合う度、その男はニタリと笑いかけて来る。気持ちの悪い笑顔だった。「この人、なんだろ?」私はちょっと気になったが、それだけだった。
しかしその帰り道、私は再びその男を見た。なんと私の歩く後ろから、車でつけて来ていたのだ。「おじょうちゃん、お茶でも飲まない?」男は道の脇に車を停め、声をかけてきた。その頃はもう男のそういう行動の意味を理解していたので、お茶だけで済むはずがないと思い、ダッシュで走って逃げた。幸いなことに、それ以上追いかけられはしなかった。
3度目は19歳ぐらいの時。仕事からの帰り道、夜の9時半ごろだった。人気のない通りだったが、深夜という時間帯ではないし、駅から自宅までものの10分ほどだったので、油断していたと思う。もののみごとに痴漢にあった。いきなり後ろから羽交い絞めにされ、体を触られたのだ。ちょうど私の30メートルくらい後方を歩いていた男だった。駅から目をつけていたのだろうか。男は無言で私の胸と尻を触り、無言で逃げて行った。この時も恐怖のあまり声が出ず、呆然とするばかりだった。
4度目は下手をすると洒落にならなかった。21歳の頃、やはり仕事からの帰り道、駅の近くで連れ去られそうになった。時間は9時を少し回った程度で、それほど遅い時間ではない。男3人組が軽自動車に乗って、しつこく後をつけて来たのだ。全力で逃げたが、進入禁止の道路にも入って来る。私はとっさに目についた店に飛び込んだ。閉店後でのれんはしまってあったが、入り口はまだ施錠されていなかった。
店に入った瞬間、腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。怪訝な顔の店主に事情を説明すると、大層心配してくれ、店の従業員に私を家まで送るように言ってくれた。本当に、あの店主の親切がなかったら、どうなっていたか分からない。
これ以外にもまだまだあるのだが、割愛する。今までセクハラや性的なからかい、ナンパ・・・この種のことでは数え切れないほど嫌な思いをしてきた。お陰さまで男性恐怖症気味である。突然間近に迫って来られると、無意識に恐怖を感じる。例え他意が無かったとしても。私は今まで、痴漢にあったりセクハラされたりするのは自分に隙があるからだと、ずっと思い込んで来た。最初に痴漢に遭った時に父親から刷り込まれてしまったのだと思う。しかし、最近本で読んだのだが、「隙」と言うのは男側の勝手な解釈で、「痴漢に遭い易さ」は単純に外見の要素が強いと言う。
私の外見はどうも、「男になめられやすい」タイプらしい。特に美人でもないけれど、「どうにかなるんじゃないか」と男に思わせやすい女らしいのだ。身長は154センチ、どちらかといえば童顔で、なんとなくトロそうな雰囲気がある。服装は露出が少なめで、定番でおとなしい格好。こういうタイプが、一番痴漢に遭い易いのだそうだ。
男は情欲をたぎらせつつも、ちゃんと計算しているのだ。どうしたら首尾よく目的を達成できるか。あまり気が強そうだったり、体の大きい女は敬遠して、(簡単に組み伏せられるような)小柄で、おとなしそうな女を無意識に選ぶのだろう。男だって要は、自信がないのだ。
「隙がある」という抽象的な表現のせいで、自分の痴漢に遭い易さを、まるで自分の落ち度のように捉えて来た私だったが、小柄であるという肉体的なハンデのせいだということが分かって、少しほっとした。同時に、痴漢やセクハラをする男のずるさも理解できた。彼らは基本的に、自分に自信がないのだろう。徹底的に反撃されないように、おとなしそうな(そう見える)女を選んでいるのは、そういうことではないだろうか?
私のトラウマはようやく払拭されたわけだが、どうせならもう少し若い内に知っておきたかったと思う。今となっては、痴漢やセクハラ自体、遭わなくなってしまったから・・・(苦笑)。