ここでは自社の価値について考えます。
まず最初に、価値がいくらかは神のみぞ知る、です。
法律で決められた計算方法はありません。
税務的に言えば時価での売却が妥当となりますが、売れた金額こそが時価です。
買いたいという人が現れ、その人が提示する金額と、売りたい金額とですり合わせ、着地点を決めて初めて価格が決定します。
ですから、自社の価値は、売らないと分からないのです。
とはいえ目安としては、以下3つの考え方が用いられます。
㋐インカムアプローチ(DCF 等):将来的に対象会社から期待される利益等に対する評価
㋑マーケットアプローチ(類似業種比準方式 等):類似業種の上場企業などと比較して評価
㋒コストアプローチ(純資産価額方式 等):純資産に基づいて評価
しかし、これらは専門的でややこしいため、この場ではこの考え方は敢えて無視して、感覚的に理解して頂くことを目的に説明します。
それでも概ね相場と変わらない金額感を会得できるとおもいます。多分・・・
自分だったら自社をいくらで買うか?を考えてみてください。
すると自然に、
◆投資したらどれぐらい儲かるんだろう?
◆その会社にはどれぐらい借入があるんだろう?
◆どのようなリスクがあるんだろう?
という考えになると思います。
これらがまさに価格を決める要素となります。
お気づきの通りで、基本的には不動産と同じ考え方です。
では、まずは儲けの観点で見ていきます。
株式は取得したあともその価値は残ります。
ですから、買った時点で回収は既にできています(税務や手数料を無視!!)。
これは不動産と同じで、しかし建物は古くなると価値が落ちるように、企業が保有する資産も古くなれば価値は落ちますし、土地の価格が変動するように株式の価格も変動します。
そこから投資としての儲けを出す方法は2通りで、
①配当を獲得するか、
②株式をより高い金額で売却するか、
です。
①その会社はいくら配当を出せるのか?
会社の税引き後の当期純利益が配当の原資となります。
当期純利益が2000万円なら、配当に回せる原資は2000万円です。
この会社を1億円で買うなら、1億の投資に対して年間2000万円のリターン、利回り20%ということになります。
利回りの考えは 人それぞれ。
10%の利回りで良いと考える人は2億と評価し、25%の利回りが欲しい人は8000万円と評価します。
②買った以上の金額で株式を売れればその差額が儲け(=キャピタルゲイン)となります。
では、どうすれば買った以上の金額で売れるか。
利回り20%と考える人は2000万円利益を出す会社に1億円の評価を付けます。
ということは、利益が3000万円になれば、1.5億円の評価をつけるということです。
ですから、利益が増えれば、その分株式を高く売れる可能性が高くなります。
続いて、借入の観点です。
対象会社に借金があれば、当期純利益からその借金を返済しないといけません。
そうすると、配当に回せる金額が減ってしまいます。
4000万円の借入残高、当期純利益が2000万円の会社を利回り20%で買おうと思えば、利回り20%なら1億円ですが、そこから借入の4000万円を差し引いて6000万円の評価となります。
しかし、対象会社に現金があれば、その現金で借入の返済ができますので、それを相殺して考えることとなります。
最後に、リスクの観点を付け加えます。
今年利益2000万円の会社が、来年も同じ利益を出せる保証はありません。
2000万円の利益は最初の2年しか続かないかもしれない。
3年目以降は利益が減ってしまうかもしれないと想定するならば、利回りはもう少し少なく見積もって考えることになります。
不動産の場合、利回りが10%(=10年回収)あれば良物件ですが、飲食のM&A市場においては利回り20%以下で売れていく案件は決して多くありません。
これは、会社のほうが不動産よりもリスクが高い、利益が安定・継続しないと思われているからです。
このような考え方で概ね株価というのは評価されています。
会社のオーナー経営者という立場だけで見てしまうと、自社を過大評価しがちになってしまいます。
しかし、自分が一投資家として自社をあくまで冷静に評価しようと考えれば、妥当な目線が出てくるのではないでしょうか。
「自社はブランドが出来ているから少し高く買ってもらえないだろうか?」という質問はとても多く頂きます。
しかし、本当にブランドが出来ているなら、それは利益に跳ね返ってきているはずなのです。
ブランド、老舗というような言葉に惑わされることなく、冷静に投資という視点で自社評価されることが大事です。
飲食店の場合、新店舗を出すにあたり、想定する回収期間は年々短くなってきています。
昔のようにガツンと投資してガツンと回収するのが難しい時代になっています。
これはそのままM&A市場にも当てはまり、飲食企業への投資に対する目線は年々厳しくなっています。
すなわち、価格が下がってきているということで、これは事実として抗うことができません。
そのような時代の流れも汲み取りながら、株式の譲渡については検討することが必要です。