染めと織の万葉慕情92
玉の緒のたえて乱れて
1984/1/20 吉田たすく
玉の緒の歌です。 古代のネックレスには管玉、まが玉づくりなの出土品がありますが、万葉歌ではこれらの玉の事は詠(うた)われていません。
歌に見えるのは、白玉の歌が数首あります。 真珠の事です。緒の歌の中にはありませんが竹管のネックレスもあったようです。これらをつなぐ玉の緒は麻か絹を楼(よ)って作ったのでしょう。
先週も書きましたが、美しく胸もとを飾っていた玉もまもなくその摩擦にたえかねてすり切れ、パラパラと散った事でしょう。そのさまを胸の思いの絶えて乱れる表現の枕詞(まくらことば)に使ったのです。
かくしつつ
あり慰めて
玉の緒の
絶えて別れば
すべなかるべし
この歌は巻十一の中の問答歌の一つです。 この問いに答えた歌。
紅(くれない)の
花にしあらば
衣手に
染めつけ持ちて
行くべく思ほゆ
こうしていつも自分の心を慰めていますが、あなたと(玉の緒が切れ絶えるように)絶えて別れてしまったらどうしようもないでしょう。 いやいや、もしあなたが紅の花であったなら、袖に染めつけて持って行きたく思われます。
この歌では袖(そで)に花染をする染色の事を心にそめる事にたとえて詠っています。 つづいて玉の緒の絶える歌を読みましょう。
玉の緒を
片りに縒りて
緒を弱み
乱るる時に
恋ひめやも
この歌には玉の箱の作方が詠われていて、片緒によって緒が弱くて乱れるといいます。 これは単糸の事で、麻とかを一方向によっただけの糸の事なのです。 この単糸を二本コまたは三本コにして逆よりにすれば、双になり大変強くなります。織物の場合、強さの必要な経糸(たていと)は双糸を使い、緯糸(よこいと)には単糸を使う事がよくあります。
この歌のように単糸でとじたネックレスはすぐに弱くなり乱れちる事はわかっています。 そのようにあなたと私の仲が絶えたりすれば、その時に私は恋に苦しまずにいられはしないでしょう、と詠っているのです。
もう一首読みましょう。
恋ふること
増される今は
玉の緒の
絶えて乱れて
死ぬべく思ほゆ
恋の苦しみがいよいよはげしくなって来て今はもう、玉の緒が切れ玉が乱れるように心乱れて死にそうです。
玉の緒が切れ、玉が乱れてもうもとにもどらないように散りぢりになった情景を、心の乱れによせて詠いあわせています。
(新匠工芸会会員、織物作家)
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40年前 、2年強にわたって日本海新聞に連載された「染めと織の万葉慕情」の今日 1月20日に載せられたものです。
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