染めと織の万葉慕情90   玉箒のゆらぐ玉緒 | foo-d 風土

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染めと織の万葉慕情90
  玉箒のゆらぐ玉緒
    1984/1/6 吉田たすく


 今年は子"の年ですが、その子の年の初子の日が明日七日にあたります。
 万葉集第二十巻の終わに近いあたりに初子の日の歌がのせられていました。
 これは、天平宝字二年春正月三日 (この日が初子の日)、天皇の侍従臣など御許(みもと)の人や童子をお召しになって、内裏の東屋の垣の下(もと)に待(さもら)わしめられて、玉箒(たまぼうき)を賜ひて肆宴(とよのあかり) 宴会をおひらきになりました。

 その時、内相の藤原仲朝臣が勅を奉(うけたまわ)りて、宣(のたま)われるに、諸王(おほきみたち)卿等(まへつきみたち)、こころに任せて、歌を作るがよいとのたまひました。

 そこでこの詔旨(みことのり)にこたえ、各々がおもいをのべて歌を作られて、その中の大伴宿祢家持が作った一首。

始春(はつはる)の
初子の今日の
玉箒(たまばはき)
  手にとるからに
    ゆらく玉の緒

 というのがあります。

 お目出たい初春の初子の日の今日の玉箒は、ちょっと手にとっただけで、玉の緒が鳴ってすがすがしく楽しいことですと、お祝いの歌を詠(うた)っています。

 玉箒は呪物の玉を飾った幕のことで、蚕の床を掃く道具。初子の日に辛鋤(からすき)と共にこれを飾られました。 玉箒は后妃(きさき)が親しく蚕を飼うのに用いられ、辛鋤は天皇が親しく農耕をされる意味です。
「玉箒の「タマ」は寿命の意でもあり、宝の玉の意でもあります。 それらを掃き寄せる道具の幕として目出たい品とされていたのです。

 天平宝字二年正月、ちょうどこの歌の詠われた正月に、東大寺から皇室に献上された辛鋤と玉箒とが正倉院に現存しているそうです。箒の先に細かい珠をつけて作ってあるとのこと。
藤原仲麿や大伴家持らの侍従や王臣らが内裏の東屋で宴のおりに賜わった玉篇もそのひとつだと思います。

古いしきたりのあらせられる宮中におきましては、明日の初子の日には同じような宴が開かれるのかも知れません。
東京、大阪のお社で宝づくしを飾ったクマデをさずかって来る風習が民間行事になっているのも、この初子の玉箒から来ているようにも考えられます。

 子の日に、子の年がよい年でありますように、祈ります。

  (新匠工芸会会員、織物作家)


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 みなさま あけましておめでとうございます。

父が書きましたこの染めと織の万葉慕情100話を40年後に辿ってきましたが、それも3年目を迎え、残すところ あと10話となりました、暖かい春迄お付き合いいただきますようお願いいたします。

 
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 父の著書の中にに『「図録 紬と絣の手織技法入門」吉田たすく著』というのがございますが、先日も、この本を購入したいが、どこを探しても売っていないというお話を伺いました。
  素人でも本当にわかりやすい本で、一部の大学で授業にも使われたり、織や染色の初心者やプロの方にまでわかりやすいと好評を頂いています。

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『「図録 紬と絣の手織技法入門」吉田たすく著』

商品の説明
著/吉田たすく
染め織りと生活社 1988年
 ソフトカバー25.4x18.2cm 180p 

 著者、吉田たすく氏は廃れていた「組織織(そしきおり)」「風通織(ふうつうおり)」の復元、独自の工夫により「たすく織 綾綴織(あやつづれおり)」を考案した染織家・絣紬研究家として鳥取県の伝統工芸士に認定されています。織物の初心者、後継技術者に向けて書かれた集大成のような一冊。

 ▼内容
序章 絵図でみる制作工程のすべて
第1章 手織機の選び方
第2章 糸選びと糸の精練方法
第3章 むだのない糸染め方法
第4章 糸糊のつけ方
第5章 糸繰り糸巻きの方法
第6章 整経の方法
第7章 千切巻きの方法
第8章 綜絖の通し方法
第9章 筬通しの方法
第10章 紬を織る方法
第11章 織り制作中の事故処理方法
第12章 着尺の制作設計法
第13章 経縞の制作設計法
第14章 経絣の実際技法
第15章 沖縄手結い絣の技法
第16章 絵絣の実際技法
第17章 絣糸の染色
第18章 着物の裁ち方の基本
第19章 紬帯地の織り設計法
第20章 綴れ帯地を織る方法
第21章 組織の織り方法ほ