染めと織の万葉慕情71   夫婦の心を結ぶ紐 | foo-d 風土

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染めと織の万葉慕情71

  夫婦の心を結ぶ紐

   1983/08/019 吉田たすく

 

 

七夕も盆もすぎ残暑のころになりました。

ここでまた、七夕の歌を持ち出すのはちょっと季節おくれとは思いますが、七夕の歌の中に紐(ひも)を詠った歌がありますので読んでみましょ

う。

先週は

高麗錦(こまにしき)

  紐解き交はし

    天人の

  妻問夕ぞ

   我も偲ばむ

 

 という歌でした。二人が互いに結んだ腰紐を解き交わす歌です。

 

 今日は牛(けんぎゅう)と職女がおのおのが別々に紐を詠った歌を一首ずつ取りあげてみます。

 

 ま日長く

  恋ふる心ゆ

    秋風に

   妹が音聞こゆ

    紐解き行かな

 

 昨年の秋より一年間、長い長い日数を妹を恋いして来たから、秋風のなかに妹のふるまう気配(私を恋うようす) が聞こえて来る。 いよいよ会うタがやって来た。下紐を解いてすぐにも妹をだけるようにして出発しよう。

 このようにわかりやすく書いてしまうと、万葉歌はなんとも下品なあからさまな様子を詠ってるもんだなあと思われますが、歌というものは思議なもので、紐解く"という言葉でゆかしい気持ちに読ませてくれるのです。

 

 また、その歌に織女が答えることく

 

 天の川 

  川門に立ちて

    我が恋ひし

   君来ますなり

    紐解き待たむ

 

 天の川の渡り場に立って私がお慕いしていた君のおいでになる舟の()の音が聞こえて来る。紐を解いておまちしましょう、と。織女も下紐を解いて共の用意をしてむかえるのです。

 これはたのしい二人の恋の歌ですが、これとは反対にかなしい歌をひとつ紹介しましょう。朝廷にお仕えして遠い国へ単身赴任していたが、任をおえての帰路、病で死んでいった男をかなしむ歌、挽歌(ばんか)を一首。

 

 小垣内(をかきつ)

  麻を引き干し

    妹なねが

   作り着せけむ

    白栲(しろたへ)

   紐をも解かず 

    一重結ふ(ひとへいふ)

   帯を三重結(みえゆ)

    苦しきに

   仕へ奉りて

    今だにも

   国にまかりて

    父母も妻をも見むと・・・

  和膚(にぎはだ)

   衣寒(ころもさむ)らに

  ぬばたまの

   髪は亂れて

  大夫(ますらを)

   行のまにまに

  此所に臥(こや)せる

 

 垣のうち庭で麻を作り、その麻糸で織って彼氏のために作って、別れぎわに腰に結んだ紐(また会う日まで互いに解かないと約束しあって結んだ紐)。その紐も一度も解かないでとは、単身赴任での任地で他の女との遊びもしないで一生懸命に仕えてという意味の紐。 つまり下紐の事です。

帯は衣の上にしめる飾り帯(ベルトとかバンドの事)、役所仕事に疲れ彼の体は痩衰えて細くなり、任地に行く前は一重に結んでいた帯を(少々誇張だが)三重にも結ぶようになってしまった。任務とかれたのでしょう、郷に帰って父母にも会い、妻とも会おうと思っての帰りの途中、やわらかな膚に着た衣も寒そうに美しい黒髪も乱れて、ますらをは遠い旅路でここに伏せている、というかなしい歌です。

この歌に紐と帯が詠われていて、紐は衣をとめる帯ではなく、衣服とは関係のない紐で、別れて暮らす夫婦の間の心を結ぶ紐なのです。

 

 

                           (新匠工芸会会員、織物作家)