染めと織の万葉慕情21
年の恋今夜つくして
1982/8/27 吉田たすく
七夕の夜も明けがたに近づいてまいりました。
遠妻と
手枕交(か)へて
寝る夜は
鶏(かけ)はな鳴きそ
明けば明けぬとも
夜が明けてもかまわない。二人で寝ている今夜、一夜の手枕じゃないか。
鶏さんよ、大きなこえで鳴いてくれんなよ。
さ寝そめて
幾何(いくだ)もあらねば
白袴(しらたえ)の
帯乞ふべしや
恋も過ぎねば
二人で寝そめていくらもたたないのに、白袴の帯を結ぶからよこせなどとまだおっしゃらないで、恋もつきないですもの。
ただ今夜(よい)
逢ひたる児らに
言どひも
いまだせずして
夜そ明けにける
ようやく今夜、一年ぶりに会ったあなたに、恋の睦言も、思ふ十分の一も言っていない。もっともっと長くお話もしましょうと思っている。夜も東の空の明けに染まってしまった。あなたのお帰りが近づいてしまいました、となげきます。
年の恋
今夜(こよいつくして)
明日よりは
常の如くや
わが恋ひ居らむ
年に一夜の恋、 一年分をこの一夜で恋いつくし、つくし暮らしました。
明日よりは、いつものようにまた一年間、恋いつづけることであろうか。
「年の恋、今夜尽して」などは中国の詩に歌われ、言葉の翻訳の輸入語であろうといわれています。
こんなところを見ると、七夕は中国の詩でそれが当時の日本に入って来ては海国舶来のポエマとしてもてはやされ、日本の歌として宮廷で歌われたものです。
明日よりは
わが玉床を
うち払ひ
君とはい寝ず
独りかも寝む
もう夜もあけてしまった。 二人で袖を巻いたこのうるわしの床ももういらない。明日からは君は居ない。ただ独り寝のわびしい夜のつづく事よ、と歌います。
織女(たなばた)の
今夜逢ひなば
常のこと
明日を隔てて
年は長けむ
織女がこの夜、 彦星と逢ったならば(もう会ってしまった) 明日を境にして毎年のように一年間逢えなくなって、長い時をすごすことになるでしょう。
織女と彦星は一夜をあかし、来年の七夕を約して別れて行くのです。
七夕の顔は沢山あり、その中で彦星をまつ歌、いよいよ来る歌、二人になっている歌などありますが、別れに彦星を送る歌がありません。 織女が赤裳の裾を天の川でぬらして別れを惜しみ、朝露に衣の袖をぬらす場面を想像するのですが、万葉にはないのです。
やはり七夕は恋人が来るのを待つ事を歌って、地上のわれわれの恋のときめきを感じさせたのかもしれません。 これらの歌の大半は、宮廷歌人であった柿本人麿の歌です。
持統天皇(女帝)の宮中の七夕の夜宴に、華やかに歌われた事でしょう。
(新匠工芸会会員、織物作家)

