染めと織の万葉慕情20
牽牛と織女の恋
1982/8/20 吉田たすく
中国でも盛んに七夕の詩が作られていたようです。この七夕の伝説が日本に伝わって来て、日本でもたくさんの歌が作られました。 七夕の天上の恋も、中国と日本では少々違うようです。 中国では織女の方が美しい馬車をしたてて行っているようですが、日本の七夕では牽牛が天の川の瀬を徒歩で渡ったり、舟で渡っています。
当時の日本の風習では、男が女の家に夜会いに行き、朝帰るのが普通で、この結婚の形式を「よばう」といい「よぱい」といいました。この風習にしたがって、牽牛も女のもとへ出かけて行くのでしょう。
天の河
白波高し
わが恋ふる
君が舟出は
今し為らしも
白波が高く、少々荒れているけれども、いよいよ彼はお出ましらしい。
天の河
波は立つとも
わが舟は
いざ漕ぎ出でむ
夜のふけぬ間に
波高くとも、漕ぎ出そう夜がふけないうちに。
今年の七夕の晩は雨でしたが、年に一度の袖巻きに牽牛は舟を漕いで出かけます。
このゆうべ
降り来る雨は
彦星の
早漕ぐ船の
櫂の散味(かいのちり)かも
地上に降る雨は、天の川を漕ぐかいのしづくだというのです。
織女は彦星を待っています。
機を織って、 彦星の着物を作って待ちますが、待ちかねて機を壊してしまいました。
機(はたもの)の
まね木持ち行きて
天の河
打橋わたす
君が来むため
機を壊し、そのふみ木をかついで行って天の川に打ち橋を渡して、君がおいでになるのに役立つためにと、もう一生懸命です。
いよいよおいでだ。
天の河
川門に立ちて
わが恋いし
君来ますな
紐解き待たむ
川門に立っていると櫂の音が聞えて来ました。下紐を解いて待ちましょう。はやく寝れるように、と。 素直ですね。きついですね。はっきり歌えるのですね。
わが待ちし
秋は来りぬ
妹とわれ
何事あれぞ
紐解かざらむ
一年間待った、ようやく来たこの夕、どんなことがあっても下紐を解かない事がありましょう。
解きますわよ。
長い月日を待ちに待って、二人は互いに袖を巻く事が出来ました。
一年(ひととせ)に
七夕(なぬかのよ)のみ
逢ふ人の
恋も過ぎねば
夜は更けゆくも
一年に、この七月七日の夜だけしか逢う事の出来ない牽牛、織女の恋、今愛し合っても愛し合ってもまだ満たされない。
もっともっとと思うけれども、夜は更けて行く。
二人の愛は深まるけれども、暁が近くなるのです。
お別れが近づくのです。
はかなくもうるわしい歌です。
(新匠工芸会会員、 織物作家)
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今回はすごく素直で赤裸々な歌でしたね。
次回も続きますが、万葉集はとても鷹揚で万(よろず)のうたがありますね。

