やくも発つ① | てっちゃんのまったり通信

てっちゃんのまったり通信

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あるテレビ番組で1980年頃の新宿の風景を流していた。

いまの若者がその画像を見て 

何に対してギャップを感じ、どう驚くかと言う趣向である。

テレビの画面に映っていたのは、夜行列車を待つ人々であふれるアルプス広場。

通勤列車のドア押しの駅員たち。

そして、8時丁度のあずさ2号が当時の流行歌とともに入線する風景。

しかし、私にとって、そのどれもが当たり前すぎるくらいの風景。

「これって、普通じゃないか。」

しかし、ドア押しの駅員の多さや、夜行待ちの人の酒盛り風景に

若い人たちは違和感を感じ、驚きを示していた。

そう言われてみれば、いつの間にかそんな風景は見られなくなった。

多分、あずさの色も、通勤列車の色も 彼、彼女らは知らないだろう。

モノクロの遠い遠い昔の画像。

しかし、私の頭の中ではそれを、勝手にカラーに変換して見ていた。

これが、できるかできないかが、その時代を生きた者かどうかの

分水嶺なのだろう。

「キミたちは、どうせ国鉄なんて言葉も知らないのだろう」

どうでもいいことを一人語りで自慢してみたりする。

しかし、今の時代でもこの画像をカラーで見ることが出来る場所があった。

想像図でしか見ることが出来ない恐竜がこっそりと生きていたら

それは、大騒ぎになるだろう。

それと同じこととは、あえて言わないが、

この時の超越感は、ある意味奇跡的なことと言っていいと思う。

岡山から山深い中国山地を越え米子、出雲市に至る伯備線。

瀬戸内と日本海側を繋ぐ山陰、山陽連絡線と呼ばれている。

そこは旧国鉄の機関車や、普通列車、特急列車が

今でも現役で生き残りその筋の人々にとっては天国のような路線だった。

塗装見本版では、クリーム4号と赤2号で分類される

いわゆる国鉄特急色をまとった特急「やくも」。

いにしえの姿をのこす最後の一編成がそこに存在していた。



急行自由席であればフリーに乗車できる周遊券。

経済的に余裕の無い若者の味方であった。

いつも周遊券を握りしめて旅をしていた私にとって

この国鉄特急色は憧れの色だった。

通過待ちの駅、急行の固い座席で追い抜いてく特急列車を見送った。

「あれに乗りたいなぁ」とただ眺める対象。

なので、ほんのたまにその特急列車に乗車出来た時は

もう、夢見心地であった。

まれに、自由席が空いている時などは、前の座席を回転させて

ボックス状にして足を放り出す。

「特急列車でこんな贅沢な乗り方をしてバチが当たらないだろうか」

本気でそんなことを考えながら、はしゃいでいた。

到着駅と到着時刻案内のアナウンスの前に流れる

鉄道唱歌のオルゴール。

それが何とも高級感あふれるものとして私の感覚に刻まれた。

沿線の景色は急行列車で見るそれと変わらないはずなのに

特急列車の車窓から見る景色はいつも輝いていた。

どれも懐かしい思い出である。

この特急やくもにも、鉄道唱歌のオルゴールが搭載されている。

朗々とした車掌のアナウンスに添えてそっと流される。

列車に揺られながら鉄道唱歌を聞いたのは

今年の初めにこの地を訪れた帰り道が最後になった。



トンネルを抜けると、すぐにアウトカーブの橋がある。

振り子を聞かせて車体を傾けてそこを走る姿が人気の場所である。

御多分に漏れずその姿を撮影するために以前この地を訪れたが、

いざ、現着するとアウトカーブの前のトンネルの風景に心を奪われた。

ここに国鉄特急色を置く。

いわゆるトンネル抜きと言う構図になるが、

カメラを一台しか所有していない私は大いに迷った。

結果、「初志貫徹、ショシカンテツ・・・」とつぶやきながら

アウトカーブを行く国鉄特急色を撮影。

事前の迷いがそのまま出たような結果がずっと尾を引っ張っていた。

引退前最後の撮影は迷うことなく、この時の思いを払拭しようと思った。

撮影は平日だったが、やはり引退を控えたこの時期なのでそれなりに人が出ている。

皆、アウトカーブにカメラを向ける中、私はトンネルに正対する位置に

レンズを向けた。

いたぶるように雨が降ったりやんだり。

運転席のワイパーが動く。

そんな中での今回のファーストショット。

特急やくも惜別の旅が始まった。

(その2へ)

撮影地:伯備線 黒坂⇔根雨
撮影日:2024年6月2日



ちなみに、274系新型やくも。

国鉄色が来る前に通過したので同所で撮影した。

その昔宇宙戦艦ヤマトで沖田艦長の銅像の上を行く新造船アドロメダに向かって

ヤマト乗組員が威風堂々と飛翔するアンドロメダに

「バカヤロー」と叫んだ気持ちが少し分かったような気がした。

それでも少し乗ってみたいかなと思ったのは、この趣味の性なのだろうか。

新造車にしては格好いい方かなとは思った。