早苗さんたち | てっちゃんのまったり通信

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「この季節しかないですね。」

この言葉に心が動いた。

田植え直後の田んぼには、可愛らしく小さい早苗さんたちが行儀良くならぶ。

その中に写り込む車両を撮影するとモザイク絵のような風合いになるという。

気を許しているとあっという間に稲は育ち水面を覆い

水田に車両は映らなくなる。

確かに稲がまだ小さい今しかない。

しかし、通常より天候や風に対するハードルは上がる。

水面が少しでもざわつけば何を写したか分からなくなる。

今年の連休は穏やかな天気が続き、ややハードルを下げてくれた。

「どうぞ、やってみてください」とお誘い頂いているようだ。

いや、「やれるものならやってみな」かもしれない。

現場は水田に囲まれた小湊鉄道の上総川間駅。

この日は、緑が基調の東北地域色(私は勝手に只見色と呼んでいるが)と

首都圏色のキハ40のコンビが充当。

水田に青空が良く映える。緑の車体が清々しい。

踏切が鳴り、車両の姿を確認する。

車両が画角に入ってくるまでじっくりと待つ。

わずかな時間のはずなのに、とてつもなく長く感じる。

「風よ吹くな。すこし息を止めておいておくれ」

こちらも息を殺しながら祈る。

しかし完全に無風とはいかない。

微風が水面をかすめる。

ゆらゆらと画角に入ってくるキハ40。

結果は・・・・・

撮影後にひったくるようにカメラを三脚からはずして画面を逆さにしてみた。

当然荒いタッチになる(そうさせることが目的だったので)ので

もう少し車両を引き寄せ、大きく描いた方が分かりやすかったかなと思う。

大きく引き延ばして、少し離れてみれば、

この作品の作画意図も分かってもらえるのではないか。

そんな言い訳をしながら、

結局来年へ向けての宿題をまた背負ってしまったようだ。

しかし、空の色と緑が車体が気持ちいい。

そして、何故か空いっぱいの早苗さんたち。

色々と思うところはあるが、これは、これでお気に入りの一枚になった。

しかし、撮影現場を思い出しながらこの写真を眺め続けると

何となく頭に血が上ってくるような..... 。



おだやかな天気と言うのはこの日のようなことを言うのだろう。

空良し、風良し、気温良し。

おまけに連休。

こんなに安定しきった天気が続くのも珍しい。

お天気担当の神様が、

天気をあやつる機械を点けっぱなしにして居眠りでもしているかのようだ。

こちらも、さそわれてうとうと。

そうやって列車待ちの時間を過ごしていると

「次の列車が来るまであと、どれくらいですか?」

と観光客らしきカップルに話しかけられた。

「あと30分ほどで来ますよ」

と、もう少しですよテンションで回答するが、

「あ・・・そうですか・・・・30分ですか」

と、苦笑いまじりの、まだそんなにあるのかテンションの反応。

どうするかとみていると、

「ありがとうございます。頑張ってくださいね・・・。」

との言葉を残して去っていった。

時間の感覚が都会モードのままだと、そうだろうなと思う。

私も小湊鉄道での2時間より山手線の3分の方が長い。

時ならぬ応援の声を背にまたスイッチを田舎モードに切り替え

緑と赤の列車のディーゼル音を待つ。

一回撮影すると、その列車が返ってくるまで約二時間。

今回は3シーンをここで撮影したわけなのでざっと6時間を同じ場所で

費やしたこととなる。

そんなことをやっていると一日などあっという間だ。



この駅の周囲は何もない、

次の駅にも何もない。その又次もなにもない。

少なくとも私は、何かあるのを知らない。

それがこの路線のいいところ。とは思うが

どこかで食料の補給をしなければならない。

3つ先の駅、高滝にセブンイレブンがある。

街道沿いにはそれなりにコンビニもあるが

駅から歩ける貴重なコンビニエンスはそうはない。

なので、物資補給の為に、高滝に向かうことが最近のルーティンとなりつつある。

コンビニを目指して下り便に乗り込む。

夕刻を迎えつつある車内は良い感じに人影が少ない。

開けっぱなしの窓からは、5月の薫風が吹き込む。

清々しいとはこういう瞬間を言うのだろう。

良い季節のよい時間帯。

寒さも暑さもこの趣味にはつきものだが、

たまには、こんなに気持ちよさがあってもいい。

好きな列車に揺られて味わう季節感。

これが何とも言えない幸福。

肘を窓にかけて鼻歌混じり。

いっそ、ずっとこの列車に揺られていようかと思ったが、

物資補給の為に、やむなく高滝で降車。

折り返しの上り列車は行楽帰りの皆様で大混雑だろう。

束の間だからこそ味わえる幸福感だった。



小湊鉄道をネットで検索していると

上総鶴舞駅の周辺のマーガレットっぽい花々は、除虫菊なのだという記載があった。

その名は、蚊取り線香の原料になるものだと聞いたことがある。

駅は違うが、私が列車待ちをしていたあたりも

マーガレットに似た花々が田んぼに春の彩りを添えていた。

これも除虫菊なのだろうかと考えた。

列車待ちでぼんやりとその花を眺めていた時に、現れた小さなミツバチ。


 

普段はハチの類が現れると、そそくさと退散するところなのだが、

春の花に飛んできたミツバチは何とも絵になりすぎて

私にしては珍しく、その場で、しばらくはその姿を眺めていた。

もし、あれが除虫菊なのであれば彼の運命はどうなったのだろう。

そんなことが気になった。

WIKIによると

除虫菊はそのままの状態では、殺虫効果はほとんどないとのこと。

添付されていた花の写真にも、平然とミツバチが止まっていた。

私が見た花の形状と掲載されていた花は、花びらの形などが違うので、

それが除虫菊なのかどうか怪しいものではあるが、

とりあえず、あのミツバチくんの行動は正しかったのだろう。



「電車が見たいよー」

多分男の子の主張が通ったのだろう。

小さな小さな川間の駅の前に、大きなワンボックスが止まっている。

休日っぽい風景だなと思い見ていると、

その大きなワンボックスから、双子用の大きなベビーカーが飛び出した。

そのベビーカーには、明らかに生まれて間もない赤子が二人。

聞いてみると生後三か月だという。

久しぶりに赤ん坊と言う名にふさわしい、くしゃくしゃの赤子を見た。

まだ首が座りたてと言うところだろう。

緑の風が気持ちよさそうである。

そして、両親のほかに、まだ幼稚園に上がったかどうかの

お兄ちゃんと、お姉ちゃん。

これが、実にかいがいしく双子の赤ちゃんの面倒を見ている。

その姿が何ともほほえましい。

水田の中だけではない。

ここにもこれからすくすくと育つ早苗さんたちがいる。

私が列車に乗り込むと、お兄ちゃんお姉ちゃんが大きく手を振ってくれた。

思いがけない、小さなお見送り。

これがまた、なんとも嬉しかった。



これから、水田は緑に染まり、やがて黄金色の穂を出していく。

ここで獲れたお米はどのような流通を経て

どこで売られているのだろう。

知らずに口にするその一口のご飯が

もしかしたら、この時に見た早苗さんたちの成長した姿なのかもしれない。


撮影日:2024年5月4日 
撮影地:小湊鉄道(千葉県) 上総川間駅周辺 小湊鉄道キハ200車内