すっぴんの風景を行く | てっちゃんのまったり通信

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「すっぴん」

素のままで飾るものが無い。


撮影しながら何となく、こんな言葉が浮かんだ。

「すっぴんな風景だなぁ」

春の桜や、夏の向日葵、秋の紅葉。

山里に広がる田園風景は季節ごとに表情を変える。

沿線は、それぞれの季節ごとに彩を添え、その風景を飾り続ける。

そして、冬。

「冬の山は眠るがごとし」

と言う言葉がある。

装いを脱ぎ捨て、化粧を落とし、素に戻る。

「やれやれ・・・」と言う言葉が聞こえてきそうだ。

ほっと一息ついてゆっくり眠りに落ちる。

そんな落ち着いた季節がやってきた。


すっぴんの伯備線。

淡々と流れる川、その川を挟む山々。

そして賑やかではないがおだやかな人々の暮らし。

これまでの季節の彩りの、おおもととなる姿がそこに残る。

ある意味、無防備とも言える素のままの風景の中

381系国鉄特急色が鉄橋の音を響かせ川を渡って往く。

特段目を引くもののないゆったりとした風景が、

ひときわ彼の美しい姿を際立たせてくれる。

「すっぴん」とは、素顔の素に、別嬪(べっぴん)の嬪と書くらしい。

つまりは、素のままでも美しいという意味なのだという。

この風景を言い当てている言葉と言っても過言ではない。



山陰と山陽を結ぶことから陰陽連絡線とも呼ばれる伯備線。

その沿線は川の流れと共に。

「備中川面」などという駅名も存在する。

その駅名に「川しかないのかい」と突っ込みたくもなるが、

逆に

そこに川があるのだ。という事を端的に表しているとも言える。

なのでこの沿線らしい景色と言えばまずは、川と鉄橋を行く風景。

井倉駅付近、第7鉄橋をスーパーやくも色が渡る。

昨年の桜の季節。

国鉄特急色の背景に桜を配した場面をイメージしてこの地を

訪れたが、

咲き誇る桜の花に似つかわしかったのは、

むしろ、少し恥ずかし気な紫色をまとったこのスーパーやくも色だった。

正面からサイドに渡るウィング状のデザインも

かつての国鉄特急色に似ている。

桜の花びらとスーパーやくも色。

この組み合わせは、間違いなく国鉄特急色を凌駕していたように思う。

しかし、この列車が走るのは2024年4月5日限りと聞いている。

最後に満開の桜のトンネルを抜ける姿で

有終の美を飾ってほしいところだが、こと季節の話なので

間に合うのだろうか。と

つい、いらぬ心配をしてしまう。



昨年末に国鉄型列車の姿をモチーフにした写真展

「JNRー平成、令和の国鉄を旅するー」

という写真展を開かせていただいた。

その際のDM葉書のデザインが、

シルエットの特急列車の側面にJNRのロゴマークが輝く姿だった。

今ではここでしか見られないJNRのロゴを写し取れたことに

当時は有頂天になり、写真展のテーマ作品にしたのだが、

列車のデティールの表現が今一つで、なかなか輝いているロゴマークが

なにを表し。どこに掲げられているものなのかを読み取ってもらえなかった。

今度はヘッドマークも入れ込み、やや正面がちに画角を変えてみた。

列車のデテイールも前よりも

分かりやすいのではないかと思うのだが、どうだろうか。

JNRというロゴマークに郷愁を感じてもらえる面々も

少なくなりつつあるとは思うが。



倉敷駅に進入する特急やくも国鉄色。

撮影の足場となる隣のホームとの間に、通過線が一本あり

丁度良い距離感となっているので、

ここで撮影する人が多い。

この列車が到着する時刻が近づくとひとり、ふたりと

カメラを抱えた人影が現れる。

曲線でも速度を落とさないで走行できるという特徴を持つこの車両。

撮影地で待っていても高速で、まさしく一陣の風のように

あっという間に走り抜けてしまう。

こちら側がどれだけの時間を費やして彼を待っていたかは

当然お構いなし。

そっけないことおびただしい。

しかし、駅であれば当然ながら、停車することが約束されている。

暗闇の中にヘッドライトが見える。

やがて、駅の灯に浮かび上がるその姿をゆっくりと眺める。

束の間の逢瀬。

国鉄特急色。

しかも現役。

改めてその姿に惚れ直す瞬間だ。



「だって、もういなくなっちゃうんですよ!」

神奈川からカメラを抱えてやってきたという趣味人が言う。

これから月に一回はここに来ます。

と彼は誰にともなく宣言する。

「あー、せめて、それ位の頻度で来れればなぁ」

と私も思うが、

何せ岡山は遠い。

毎月の宣言をした神奈川の彼は、夜行バスでこの地までやってきたという。

4列シートで9時間。

なかなかの苦行である。

料金は新幹線の3分の1。

撮影する機会は今年の4月から6月まで。

次にもし、来れるのであれば桜の季節になるのかも知れない。

これを遠距離恋愛と呼ぶのだろうか。

そんなことを思いながら岡山の地を後にした。



撮影地 岡山県伯備線 方谷⇔井倉 倉敷駅
撮影日 2024年1月6日~7日