未完の第五元素-グロス


前々から上げようと思ってたゲランのグロス。限定色らしい。

味もいいし、つけてみてもそこまできつい色じゃないし。

…リップの味を気にする日がやってくるとは思わなかった。

ゲランはおいしいって言うのはそういうことなのね。



なんて書いてみたものの、普段からこんなもん使ってる訳じゃないです。

化粧はしますが他のファンデとかは「これ1本!」のアレです。

全部こういうものでそろえられるほどお金ないし、そもそも行きなれてる友人の後ろにくっついていかないと制度化粧品とか買いにいけません。。チキンだし。。



半年ほど前から友人に制度化粧品の買い物に付き合わされ、何度かマネキンにされ…とかやってるうちに

ようやく化粧というものに手を出すようになりました。

で、いつまでもマネキンだけで買わないのは申し訳なくなってきたので…。

でもそんな理由で買った割にはかなり気に入ってます。

次買うのはいつになるか分からないから、大事に使わなくちゃ。



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突然ですが、私はメールとか電話が得意じゃないです。

そもそもチキン過ぎて普通の会話すらまともにできてないんですが。

普通の会話がまともにできないのに、メールやら電話やらがまともにできるはずもなく。



やっぱり、本人の目を見て話さないと、うまく伝わらんことってあると思うのです。

メールだからまとまる、ということもあるとは思うけど。

最近は、それもうまくいかない。

送信し終わった後に、必ず「あーアレも書けばよかった」と思っちゃうのです。

で、返ってきたメールでは話が変わっちゃってて、永久に言いそびれてしまう。

日記とかでもそうで、ちょいちょい書き終えた後に書き直してます。

その書き直した方の文章をどれだけの人が見るかは分からないが。何せ2日後とかに直すこともあるし(笑)



まあ、返ってくればまだいいのよね。

寝落ちとかその他もろもろの理由で返ってこなかったりすると、もう駄目。

言い方ミスったああああって時には完全に鬱になっちゃいます。

もっとこう…後悔しない文章を書けるようになりたいものだ。。



電話についても同様で。

時間に制限があるから焦っちゃうのと、あと身振り手振りが使えないってのが一番痛い。

身振り手振りって結構重要だと最近気づきました。どれだけこれに頼ってたんだろ。

時間があるから言いそびれたことを言う機会もないしね。

実際会って話してれば「さっき言いそびれたんだけど~」とか言って繋げるんだけど。



…うん、こんなんだから会話が下手なんだorz

実習で服薬指導してても、自分の言葉の引き出しの少なさを痛感する。

もっともっと、上手に話せるようになりたい。



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何でこんな話したかっていうと。

前々から思ってたってのもそうなんですが、

正直にぶっちゃけるとさっき電話で友人と喧嘩したんですよorz

化粧品売り場に連れまわされるっていう友人と、ね。



うちらの間の決まりごとは「思ったことは言う。言わないんだったら腹の中に永久にとどめとけ」だから

忠告とか苦言は思ったらずらずらと言うようにしてるんだけど。

前は言わないで溜め込んでたから。溜め込まなくていいって言う友人ができたのは、本当に嬉しかった。



でも最近は、突っ込むと相手がキレる。

言い方が悪いのかな…。上にも書いたように、辞書内の言葉が少ないし。

が、間違ったことを言ったとは思ってない。

しつこいのは自認してるけど、それでも指摘するべきところは指摘する。じゃないと苦労するのはあいつだから。

同じくらい、相手だってずけずけ言ってくるんだからさ。



…なんて、子供の言い訳のようだ。

こんな結果になっちゃって、ああやっぱ言わなきゃよかったって思ってる自分を叱咤するための言い訳。

怒鳴られたりすると、すぐ自分の言ってることを訂正したくなるんだ。

ほんとは自分の方が正しいと思ってても。相手の言うことに納得できていなくても。



もっと、自分が紡ぐ言葉に自信と、うまく伝える力が欲しい。

日曜日、実習先の事務さんの1人が結婚されました。
式そのものに行ってはいないのですが、昨日管理薬剤師さんが写真を見せてくれました。


綺麗だったなー、花嫁姿の事務さん。
新郎新婦ともにお色直しが入ったみたいで、どちらもすごく映えて見えました。
個人的には、お色直し前のフラワーシャワーと、お色直し後の赤いドレスが美しかったなぁ…。
後は新郎さんと手紙読んでるところとかケーキ入刀とかケーキあーんしてあげてるところとかキスシーンとか(ぁ
おいしい写真ばかりでした。ほんとご馳走様でした。
あ、参加者の皆さんの写真も沢山ありました。
普段薬局じゃ見られない姿で、こっちもみんなかっこいいし綺麗だし…。


結婚式の写真って、自分が主役ではなくても幸せな気分になるね。
昔はそんなことなかったんだけどな。ご馳走食べられる以外は別段興味がなk…げふげふ。
写真見たら式そのものに行きたくなってきました、という訳で皆さん呼んでください←
結婚するしないはどうでもいいけど、ウエディングドレスは一度着てみてもいいかもしれない。

…そのためには(ピー)㌔は痩せないと映えて見えませんけどね\(^o^)/


ちなみに、事務さんには内緒でメッセージカード書いたんですが
泣いて喜んでくれたみたいで逆にこっちが嬉しかったです。
面と向かってお礼言われると、あんな汚いもんでごめんなさいと言いたくなってしまう←
そのお返しに、結婚式でみんなに配ったというハートのクッキーいただきました。
幸せのおすそ分けみたいで嬉しい。大事にいただきます。
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日付変わって本日、新薬メマリーの勉強会。
アルツハイマーの薬で、アリセプトに続いて2薬目(3かもしれない…あやふやですいませんorz)のもの。


アルツハイマーって、てっきり信号伝達が鈍くなってるから起こるのかと思ってたけど
この薬は過剰なCa2+のシナプスへの流入を抑えることで細胞傷害を防いでるらしい。ちょっと意外。
アリセプトと作用機序が違うから併用できるってのは大きいかもなー。
でもそれよりも、患者さんの攻撃的な部分がなくなることが確認されてるってのはもっと大きい。
その方のことを思って介護されてても、介護されてる方の負担は計り知れないからね。
あ、あとお弁当おいしかったです


その後、6/30日付で転勤されてしまう(実習先の薬局、大きいんで全国にあるのです)薬剤師さん2人のお別れ会を行いました。
卸の方がケーキ買ってきてくれました!いろいろ種類あったけどやっぱシフォンケーキ最高。
それは置いといて…転勤地は1人は中部の方、もう1人は東北だそうです。
東北は特に大変だろうな。きっとまだまだ困ってる方も多いと思うので、頑張ってきてほしいです。


1人はもう今日で来なくなってしまうので、お礼の気持ちを精一杯伝えてきました。
何だか悲しい。縁があれば、またどこか出会うことができますように。


そして……
よく考えたら、私達の実習期間も、後ぴったり1ヶ月しかないんだな。

いや死んでないけどね!



昨日から胃の調子がよろしくありません。

せっかく友人Lと久々に会ったのに!

出かける時には体調悪くなかったのにお昼にいきなり来るとかどんな孔明の罠ですか。

友人Lよ、心底すまなかった。切腹はできないが。



去年の2月あたりからたまーに来るんですよね、これ。

テスト前とかは高確率でこうなります。

でも今は実習中だからテストはないって言う…

ずっと胃風邪かなーと思って流してきたけど、もしかして胃に穴でも空いてるんだろうか。

ま、いいや← そのうち病院行こう。研究室戻る前に…。

手か明日はインドメタシン作りに御茶ノ水行くし!

水曜日は勉強会でお弁当とかもらえるし!(※ただししっかり聞かないと質問攻めにされたり、「なんか聞きたいことある?」と必ず聞かれるので死亡フラグ立つ)

木曜日は在宅の見学行かせてもらえるしーーー



薬局実習もついに6週目、半分超えました!

6週目前半はいろいろとやらかしすぎて(患者さん怒らせちゃったとか事故に繋がっちゃったとかではないのですが、レセプトには間違いなく載りそう)思い出すのも鬱orz

でも、この辺りの鬱があったおかげで、週の後半ではいろいろ成長できた…気がする。あくまで気がする。←

特に服薬指導。ついおどおどしがちだったのが治ってきました!

併用薬とか他科受診とか薬で特に気をつけることとか、聞き忘れることはまだまだ多いですが…。

薬の知識も徐々に増えてきてるのに、カウンターに立つとそれを生かせないのがもどかしい。。

それでも、最初の頃よりも確実によくなってきてる。



ちなみに、薬局内で目にした薬で一番印象に残ってるのが

「カデュエット配合錠(1~4番)」という薬。

高血圧の薬であるアムロジピンと、脂質異常症(高脂血症)の薬であるアトルバスタチンが一緒になった薬なんですが、

そのことよりも名前が交響曲みたいな響きで好き。

錠剤も見てみたいんですが、シートが中見られない形式のものなんで見たことないんですよねー。残念。



そんな風にいろんな薬を発見したり、患者さんの多さに対応に追われたりしてるうちに

もう残り5週間になっちゃいました。

あと5週で、いったい何が学べるんだろう。

6週前半でやらかすまで、どこか甘い気持ちが残っていたので

学ぶべきこともちゃんと学べてない気がしてきた…。

残り5週で、どこまでいけるかな。



他にも書きたいことあったのに忘れちゃった…。

思い出したらまた書こう。

明日のために、今日は寝ます。

「GLAYの言葉で100のお題」お題リストです。

(お題提供元様は閉鎖されているため、リンクは貼りません)

リンクつきのものが執筆済みのものです。

リンクは新しいウインドウで開きます。



・GLAYのお題だからってGLAYを絡ませようとか、そういうつもりは一切ありません。

あるとすれば、歌詞に絡ませるくらい?

・2次創作系をやる場合は明記します(ほとんどがオリジナルです)。

・やる順番はばらばらです。お題を書き次第、順次リンクさせていきます。



1 夢を見る勇気
2 全ての痛み癒すから
3 理性強制終了
4 目を閉じれば昔のまま
5 貴方には届かない

6 3秒前を忘れる程に
7 泣きたくなるほど切ない夜は
8 予期せぬ出逢い
9 今夜解き放とう
10 今、あなたを迎えに行く
11 心の闇
12 綺麗な事だけ話してあげるよ
13 共に戦った君
14 若すぎた言葉の行方
15 触れあう口唇
16 何に今、情熱的であるべきか
17 待ち合わせはいつもの場所で
18 奪われた身体の熱
19 傷つかない
20 ネガティブな月曜日


21 約束の地
22 頼りないkiss
23 あの夜の泣き顔の理由
24 メッキ張りのヒーロー
25 辿り着いた桃源郷

26 たいして意味なんてないんだ
27 もう少しだけここにいさせて
28 勝ち気な瞳
29 野生が欲しい
30 荒野に咲く華の様に
31 僕はうまく愛せているのだろうか
32 愛を殴って夢を蹴る
33 真夜中に見てた夢
34 ボクのシステム
35 誰より美しく
36 憎しみから何を生んだ?
37 あなたへ続く道
38 喪失の渦
39 他ならぬ愛
40 その涙乾くころまた恋に落ちる


41 ここではないどこかへと胸を焦がす
42 君と今見上げてる
43 決行を誓う
44 愛の始まり
45 僕を見るその瞳
46 ほどけた靴紐
47 想い出はあなたで溢れている
48 トキメキは期限付き
49 どうかしてるだろう?
50 ありふれた出来事に喜びを
51 夏服の胸元
52 ダイヤが輝く瞬間
53 明日世界が終わっても大丈夫
54 きっといつか
55 初めての恋を閉じた
56 そのまま君があてはまる
57 胸に眠る武器
58 むきだしの心の弱さ
59 駆け出す君を見てた
60 答えなど何もない


61 今持ってる情熱は君のおかげさ
62 自由と引き換えに
63 清らかなままで
64 30分間ケンカした
65 一時の温もり
66 それぞれにそれぞれの場所で
67 僕らの視線
68 その唇は誰のもの?
69 犯した罪さえ
70 ホントに大切なモノは何?
71 好きな服を着て
72 深紅の痕
73 ふいに心を奪った瞬間
74 サンタクロース待たせてる
75 初めての朝
76 祈っていた日々
77 世界は悲しみに満ちていても
78 夜が描くシナリオ
79 あなたの夢に飛び込む
80 心で繋がる世界


81 心に翼を描く
82 達者な口も今日はまわらない
83 別れを知りながら
84 すれ違う時もあるさ
85 答えのない夢
86 ヤバいアルバイト
87 君と僕の違う人生
88 奪い合い与え合う
89 天国の記憶
90 暗闇の中で聞いた貴方の鼓動
91 極上のスパイス
92 死ねないでいたんだ
93 たったひとつの愛
94 どっちをとるって己に問え
95 涙に濡れた薔薇
96 それぞれの交差点
97 眼の光
98 ストイックな夢
99 あなたが生きてゆく事の答え
100 もはや規制はない

「ここをお通し、龍治」



よく通る女性の声だった。

髪は丁寧に結われ、豪華な着物を大胆に着こなし、相当な高さのある下駄を履いている。

右手に握られた日本刀が、棘のある薔薇を連想させた。



「なりません、美咲様。敵う相手ではないのはお分かりのはずです」



扉の前には、1人の男が立ち塞がっている。

下駄のせいか、美咲と呼ばれる女よりは小さく見えた。

体も細く、一目見ただけではとても戦える人間には見えなかったが、

腰から下がった鉄扇が、歴戦の戦士であることを物語っていた。



「あいつを放置しておけば、この町は崩壊する。

それをお前は、黙って見ていろと言うのかい?」


「当然、風蛇を野放しには出来ません。奴から民を守るのも、我々の任務でしょう。

…ですが、貴方が外に出ようとする理由は、本当は違うのでしょう?」



美咲は困った顔をした。…いや、そんな表情を作った。



「やっぱりいかんのかい?」


「なりません」


「断じてだめ、と?」


「勿論でございます」



美咲は眉を下げて微笑んだが、龍治は微動だにしない。



「貴奴は美しい男と聞く。そして、強い。

そんな男など、もう二度と現れんじゃろ。

死期を逃す訳には行かぬ」



垂れ下がる髪をはらった刹那、腕に残る傷が袖から覗いた。

外見の美しさの反面、夜毎刀を持ち外へと赴く彼女には、生傷が絶えなかった。



「殺されるのなら、美しく強い男がよい」

―――それが、彼女の口癖だった。



「…そこまでおっしゃるのなら」



龍治が腰の鉄扇に手をかけた。



「この場で、私を倒してからにしてくださいませ」



鉄扇を前に突き出した姿は、もはや先程までの面影はない。

殺気に満ちた、修羅場を抜けてきた武将にしか見えなかった。



それでも、美咲は怯まない。



「おやめ。お前に私は殺せないだろう?」



びくり、と龍治が震えた。

そこからは早かった。美咲が鞘に入ったままの日本刀で、龍治の脇腹を突いたのだ。



「っ!!」



華奢な体からは想像も出来ない力で、龍治は壁際まで飛ばされた。

轟音とともに、埃が舞い上がる。



「……なぁ、龍治」



扉を見つめたまま、美咲は語りかけた。



「もし、私がこんな性分でなければ…こんな身分でなければ…

私達はどうなっていたかのう?」



龍治は答えない。



「来世で会えれば、また別の形になれるかのう…」



バタン。

美咲の姿は消えた。



龍治は痛んだ脇腹を押さえながら立ち上がった。

もう、美咲を追うつもりはない。

ただ、美咲の出て行った扉を見つめるだけだった。



「…そのとおり。私には貴方様は殺せませぬ」



埃が喉に突き刺さる。



「ですから、どちらにしても…貴方とともにいることは無理なのでしょう。

来世など、あるかどうかも分からないのですから…」



斬、と、何かの切られる音と、



何かのくずおれる音が、夜の闇に響いた。






.

――10月16日。

私にとって、忘れられない日付だ。



そこは傾斜のかかった丘の上にあった。

長い長い階段を、頂上目指してゆっくりと上がっていく。

手にはいくばくかの花と、水の入った桶。

一段上るごとに花が揺れ、水が跳ねて時折足元を濡らした。



(…あの日の君もこうだったのかい)

1年前の今日、友人は死んだ。

死因は、5階からの転落死、だった。要するに飛び降り自殺だ。

決行の時、エレベーターを使ったのか、階段で行ったのかは定かではないが

もし階段で行ったとしたら、きっと死刑執行台に上るのと同じような気持ちだったろう。

階段を一段一段踏みしめながら、何となくそう思った。



そもそも、友人と呼んでいい存在なのかはわからない。

ただ、ともに同じような挫折を味わった、ただそれだけだ。

会話も数回あったかすら、怪しいところだった。



…それでも、どうしても忘れられなかった。

現場に残された血の痕と、救急車の音に気づいた時に何気なく見た、時計の針が指していた時間を。

だから隠されていた情報にもかかわらず、お墓の場所を聞き出し、今こうしてその場所へ向かっている。



(…図々しいと思うかい?)



虚空に向かって問いかけても、返る言葉はない。




目的のお墓は、上段のちょうど中央にあった。

振り返ると、町全体を見下ろすことが出来る、なかなかの絶景スポットだった。

壇の上を見ると、既に新鮮な花が生けられている。

そりゃそうか、命日だもんな。何もない方が寂しい。

さすがに生けられたばかりの花を捨てる訳にも行かないので、壇の上に小さな花束をそっと置いた。



墓石の前にかがみ、何をするわけでもなくぼんやりと墓石を眺めた。

日の光を受けて、きらきらと光っている。これなら、桶も持ってくる必要がなかったかもしれない。



(何だよ、ちゃんと愛されてたんじゃないか)

死んだ人を悪く言いたくはないが、どうしてもそう思ってしまう。

こんな道を選ぶほどの状況じゃなかったのではないか、と。

だが一方で、自分と同じような状況に陥った彼の苦しみを理解する自分がいた。

その苦しみに耐え切れず身を投げた友人を、責めることなんて出来ない。



…それでも、願わずにはいられなかった。

『出来るなら、これから一緒に頑張っていきたかった』



ろくに話したこともないのに何言ってるんだろうな、と思ったところで、

初めて自分が泣いていることに気づいた。

顎から雫が垂れそうになり、慌てて拭い取った。



誤魔化すように立ち上がって、もってきた水を墓石や植えられている植物達に満遍なくかけていった。

墓石が輝きを増したが、既に綺麗にされた後だったため、逆に汚れをかけてないだろうかと不安になる。



それから、線香を取り出した。すっかり忘れていた。

風にあおられてなかなか火がつかなかったが、一度つくと一気に燃え上がり、消火に苦労した。

大量の煙が上がっている。それを慎重に台の下において、手を合わせた。線香の香りが強くなる。



しばらくそうしてから、そろそろ帰ろうか、と腰を上げた。長居をしても仕方がない。

煙を眺めながら、ゆっくりと立ち上がった。



その時、煙の向こうに誰か見えた気がした。

輪郭ははっきりしない。鼻から上は姿すら見えない。

その口元が――ほんの少しだけ、笑ったような気がした。



「あ――」



その瞬間、風が一陣吹き抜けた。咄嗟に目を覆う。

恐る恐る目を上げた時には煙は散り散りになって、影のようなものは何一つ残っていなかった。



それが幻だったのか本当であったのか、そんなことはどうでも良かった。

ただ一言、墓前を見据えてこう言った。



「…じゃ、また」



そして、踵を返した。線香の匂いが遠ざかっていく。



――1年後の今日、また必ずここに来ると誓って。






※死ネタです。

あからさまなグロ表現はありませんが、駄目な方はさくっとブラウザバックで。



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1人の男が横たわっていた。

かろうじて人の形を保っているそれに、命が残っているとはとても思えなかった。

不自然な死に方だった。刃物で突いてもここまでは壊れないだろうし、爆弾なら人の形は残らないはずだ。



だがそんなことはどうでもよかった。

それ以上に心を掴んで離さない事柄が、彼にはあった。



―――彼は男を知っていた。

知っている、などというレベルではない。

長い時間、喜びも悲しみもともにした男。

わあわあと話しかけてきても冷たくあしらうか、芸人張りのツッコミでしか応じてやれなかった、

それでも大事な、仲間の1人。



―――やっと見つけた。今までどこにいたんだよ、お前

不意に、誰かの声が聞こえた。それは聞き覚えのある声だった。

どうしてその声が今するのか、死んだ男がどうやって話しているのか―

気になることは山ほどあったが、今の彼にそんなことは些事でしかなかった。



「見つけたのはどう考えても俺だろ。お前こそ、こんなとこで何してたんだ」

―――へへ、ちょっとマズっちまっただけだ。気にするな



この状況で気にするなと言われて、気にしないでいられるはずがない。

彼は猛烈な後悔に襲われ、自分の無力さを呪った。

こんなことになる前に、どうして俺が危険因子を排除してやれなかったのか。

他の3人を守りたかっただけなのに、結果として1人を死なせてしまった―



―――復讐なんて、考えるなよ

呟くように、男が言った。彼はどきりとした。

死人になると心を読めるようになるのか―と、何故だか妙に感心してしまった。



―――復讐は何も生まない。やったらやり返される。その繰り返しだ。

それに、復讐は人の心を乗っ取るからな。

それしか見えなくなって、すぐ傍のガラス片にも、空にかかった虹にも、気づけなくなる



そうだろ?だってお前、こんなに怪我してるのに、何も感じてないみたいじゃないか―

男はそう続けた。同時に、風が彼の体を撫でるように通り過ぎていった。

全く、その通りだった。声が詰まって、何も言えなくなった。



―――あと、仲間のほんとの気持ちとか、な



男のその一言で、彼ははっとして目をあげた。

そうだ、男がここにいるということは、残りの2人はどうしたんだ―?



―――大丈夫だ、少なくともこの近くに死体が転がってるようなことはない

また見透かされた。だがその一言は、彼にほんの少しの安らぎを与えてくれた。

―――でも、わかんねぇな。実はちょっと前、あいつらと俺ははぐれちまったんだ

その安らぎも、すぐに崩れた。それじゃあ無事だとは断言できないじゃないか。



―――とにかくさ、あいつらを探してやってくれよ。

言ってたぜ、無意味に殺人を繰り返すくらいなら、一緒にいて欲しいって



さっきから、突き刺さるようなことばかり言ってくれる。彼は唇を噛んだ。

だが、2人に危険が迫ってるかもしれない今、そうしてばかりもいられない。



「…わかった。俺、行くよ」

彼をここに置いていかなければならないことを考えると、ちくりと胸が痛んだ。

その痛みに気づかないふりをして、彼は立ち上がろうとした。

しかし、出鼻を挫くように男に呼び止められた。



―――ああ、悪ぃ。言い忘れてたことが、1つあったわ。

…ここでお別れになっちまうけど、お前達に出会えて、ほんとによかったよ。ありがとう―



あの2人にも伝えてくれ―そう言って、男の言葉は終わった。

急速に、何かの気配が彼の周りからなくなっていくような感覚があった。



中途半端に腰を浮かせたまま、彼は男を見ていた。

先程よりも、顔が安らかになっているのは気のせいだろうか。



「…畜生、言いたいことだけ言って消えやがって」

悪態をつきながら、彼は男の遺体を仰向けに寝かせ、胸の辺りで手を組ませた。

崩れてしまわないか不安になったが、意外としっかりしていた。死後硬直が始まっているのかもしれない。



「…俺も、お前達に会えてほんとによかったよ。ありがとな」



口の中で呟くように言ったそれは、男には届いただろうか。

言うだけ言うと、彼は素早く立ち上がり、逃げるように走り去っていった。

彼が去ったあとの地面には、水の雫が何滴かこぼれていた。



…その一連の様子を、遠くから眺めていた少女が2人、いた。

1人は地に足がついていない、恐らくは男と同じようなモノであると思われたが。



『珍しいじゃない。あんたが生者と死者の会話の手助けをするなんてさ』

「別に。何となく気が向いただけだ」

『まぁ、あんたあの男がいなかったら、あの場でやられてたかもしれないしね』

「馬鹿言うな。もし俺が相対したなら、綺麗さっぱり消してやったさ」

『…無理よ。あれは人じゃないもの。いくら死神だって言われてても―』

「五月蝿い。とにかく、行くぞ。もうここに用はない」

『…ま、あんたが無事なら、何だっていいんだけどね』




…その30分後。

男の死を告げる放送が、淡々と響き渡った。

ある者は次は自分かと恐れおののき、ある者はそのことを必死にメモしていた。

ある2人は、数秒呆然としたあと、示し合わせたように泣き出した。



そして彼は、構うことなく走り続けていた。

男が残した最後のメッセージを、一刻も早く2人に伝えるために―。





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目的地の地図とロープ、それと先日破れてしまったテントの買い替え。

すべてを終え、尚也は店を去った。滞在時間1時間ちょっとといったところだ。

そこから10分ほどの距離のところに、尚也の家はある。

家では潤也達が、今か今かと帰りを待っているはずだ。



今日は1週間後に迫った樹海探索の最終打ち合わせをするべく、集合したのだ。

目的のものも定まっている。ここまでしっかりとした探索をするのは久しぶりだった。



(いつも計画の話し合いをしてると、食い物に夢中になるか横道にそれて終わるからなんだけどな…)



内心ため息をつきながら、慣れた道を歩く。自分のマンションが見えてきた。

でも、今日こそはまともな話し合いができそうだと、尚也は安堵していた。






……その安堵も、部屋のドアを開けた瞬間に一気に崩れ去った。



「お前はいっつもそうじゃねーかよ!取るだけとって、何一つ返しやしねえ!」


「同じこと何回言ってんだ?もう10回は言ってるぞ。若年性健忘症か?」


「お前が認めねーからだろうが!何度言っても理解しないお前こそ健忘症なんじゃねーか?」


「んだとてめぇ……」



ドアを開けるなり、青也と潤也の怒声が飛び込んできた。

それも、いつものツッコミのような声ではなく、本気で怒っている声だ。

気圧されて一瞬、玄関で立ち尽くしていると、啓が駆け寄ってきた。



「なお~~~~~たすけて~~~~~」



これが小さい子供なら、間違いなく抱きつかれていただろう。涙目になっている。

啓は殊の外、罵声と怒声が嫌いなのだ。



「あーよしよし…一体何があったんだ?」


「なお~、食べ物の恨みって怖すぎるよ~~」



と泣きそうになりながら言う啓の手には、缶詰などの大量の携帯食料の入った袋が握られている。

今回、携帯食料は啓が調達するという手はずになっていたのだ。



「…もしかして、その携帯食料が原因か?」


「違う、2人ともこれには目もくれてない」



と言ってから、啓は当時の状況を話してくれた。



---回想---



「はらへった~~~~~~」


「…青也、さっきおにぎり5つくらい食べてなかったっけ?」


「あれで足りるかよ!しゃーない、尚也が帰ってきたら空けようと思ったんだが…これ食っちまうか」



と言って、青也はやきそばの大盛りを取り出した。誰がどう見ても3~4人前はある。



「それじゃいっただっきm」


「青也、お前のと思しき携帯が鳴っているぞ」


「え、俺の?」



確かに、どこからか携帯の着信音が聞こえる。

聴き慣れたメロディから、それが自分のものであると分かった。



「おっと、わりぃわりぃ」



着信音はすぐにやんだが、青也は鞄をまさぐって携帯を取り出した。

Eメールが1件。行きつけの焼肉チェーン店からのメルマガだった。



「ちぇー、たまにはかわいい女の子とかから来たりしないかなぁ」


「青也、そんな友達いるの?」


「教えてくださいお願いしますって土下座してくれたら教えてやってもいいぜ」


「教えなくていいです」



携帯をマナーモードにし、鞄に仕舞ってから、やきそばに目を戻した。

…が、何か違和感を感じた。



「青也、どうしたの?」


「いや、このやきそば確か超大盛りのはずなんだが…

中盛りくらいに減ってる気がしてな」


「店員が間違えたんじゃないか?もしくは、勘違いか」



潤也が冷静に言ってきた。

…その口がもぐもぐと動いている気がしたが、気のせいだろう。




数分後。



「あー、なーんかもの足りねーなー」


「3人前食べたのに!?」


「俺の胃袋は宇宙だ」


「どこのフードファイターだよ……」



と言うことで、青也は更に追加でカツ丼の出前を取った。もちろん大盛り。



「せめて尚が帰ってきてからにすればいいのにー」


「俺の食欲は人を待てないんだよ」


「全く偉そうに…お、来たみたいだよ」



ピンポーン、とチャイムの鳴る音がした。

尚也ならチャイムは鳴らさないので、ほぼ間違いなく出前を頼んだお店の人だ。



「啓、悪いけど出てくんね?あとお茶も」


「何で僕がパシリなわけ!?」


「啓は座ってろ。俺がやっておく」


「お、悪いな潤也。ちょっとトイレ行ってくるわ」



潤也がすばやく玄関に出て行く。ドアの開く音がした。

その間に、青也はトイレに入り、用を足した。

戻ってくると、テーブルの上にカツ丼とペットボトルのお茶が置かれていた。



「悪かったな潤y……」



ニコニコしながらカツ丼の前に座った青也だったが、次の瞬間、表情が凍りついた。

まず、カツ丼のふたが開いていた。

次に、カツ丼の上に乗っているカツの量が明らかに少なかった。

…そして、ペットボトルのお茶が異様なまでに減っていた。



流石の青也も、これが普通の状態ではないことにすぐ気がついた。



「…潤也……」



青也はゆっくりと潤也の方に首を巡らせた。

見た、と言うより、睨んだ、と言う目つきだ。



「お前さっきっから人のもん盗み食いしてるだろ……」


「あ?別に俺はカツ丼の真ん中のカツだけ引き抜いて残りのカツ寄せたりとかしてねーぞ…?」



そういう潤也のほっぺたには、何故かご飯粒がついている。



…数秒の気まずい沈黙。そして。



「いい加減にしろ潤也ぁぁぁーーーーーー!!!!!!」



---回想終了---



「…と言う訳なんd」


「くだらねぇーーーーーーー!!!!!!」



思わず、尚也は絶叫していた。

すかさず、奥の部屋から叫び声が帰ってきた。



「くだらねぇって何だよ!俺の貴重な食料取られて黙ってられるかっつーんだよ!!」


「何が貴重だ!あれだけ馬鹿みたいな量食っておいて!少しは分けてやるってのが道理じゃねーのか!?」



そしてすぐさま、2人の喧嘩に戻っていく。

もはや、尚也にお帰りを言うのも忘れているようだ。



「これ、完全に潤也の逆切れだよな…」


「そうでもないよー。青也、やきそば食べてる時も僕達に一口もくれなかったし、

出前頼む時だって『お前らなんか要らないの?』とか聞かなかったんだよ?」


「それはそれで問題だな…」



それが、青也の欠点でもあった。けして他人への配慮がない訳ではない。

が、特に食べ物のことになると、分けると言うことを忘れてしまう。

わざとやっているのではなさそうなのだが。



「結局、どっちもどっちってことか…」


「でも、潤がつまみ食いばれるのって珍しい気がするなー。

この間、尚也が食べてた牛丼もこっそり食べてたし」


「えっ、マジで!?」



全く以って気がつかなかった。尚也は心の中でがっくりした。



「僕もそれを見習ってさ、この間潤也の部屋に行ったときにピザ頼んだんだよ。

潤也、ちょうどトイレに行ってたから、その間に2枚食べちゃって、残りの6枚を等間隔に並べて

『今日は枚数少ないんだね、じゃあ1人3枚ずつ!』って言ったらものすごい睨まれたし…

あれって何かコツがあるのかなぁ?」


「啓、それはあからさまに怪しいぞ……」


「えー、そう?

…それにしても、あの2人どうするー…?」



青也達の喧嘩はまだ続いていた。勢いは衰えることを知らない。

しかし、よーく耳を傾けてみると「このおたんこなす」であるとか、「何だこのチンドンヤ!」であるとか、

定番の罵声が繰り返されている。



「…チンドンヤって馬鹿にしてる言葉じゃなくてほめ言葉だよね、確か…」


「突っ込むところはそこかよ!」



大体こういう言葉が並んでいる時は、罵声のネタが切れた時だ。そろそろおとなしくなるだろう。



案の定、数分経ったところで、部屋からは息の切れた声しかしなくなった。



「どうだ?気は治まったか?」



卓袱台に突っ伏している2人に、尚也は近づいていく。

その後ろから、啓も恐る恐るついてきた。



「あー…なんか、馬鹿みてーだな」



ゆっくりと顔を上げながら青也が言った。そのまま、かっくんと首が後ろに傾いて、天井を見上げる形となった。



「喧嘩なんて、大体そんなもんだろう」



相変わらず、潤也はしれっとそんな事を言う。



「喧嘩するのはいいけどさ、周りを巻き込まないでよね!?

僕本気で怖かったんだから~~」



啓はまた涙目になっている。思い出したら恐ろしくなったのかもしれない。

あー、わりぃわりぃと、青也は頭を掻きながら苦笑いをした。



が、潤也は黙っている。壁にかかっている時計の方を見つめているようだった。



「…30分か」


「あ?何がだ?」


「俺達が喧嘩してた時間だよ。大体、30分くらいだ」



言われてみれば、青也の出前が届いた時間から大体30分が経過していた。



「ずいぶんなげーこと喧嘩してたんだな…」


「あの勢いなら、普通は10分以内で収まるよね~」



30分も勢いを維持したまま喧嘩するなんて普通できないよ、と啓は笑う。



「全くだ…おかげさまで声が嗄れちまったじゃねーか」


「どっかの誰かさんがつまみ食いするからだろー?」



また部屋の空気が悪くなりかけたが、その時、台所からココアのにおいがした。



「どうせそう言うだろうと思って、ココア作ってみたよ。疲れた喉にはちょうどいいぜ」


「おお、さすが尚也!」


「別にそこまできついわけではないが…くれるものはもらっていこう」


「あ~、2人ともずるい~!尚、僕のは~?」


「心配しなくても、ちゃんと作ってあるよ」



4人分のカップを卓袱台において、尚也も座った。

全員がほぼ同時にカップを手に取り、ココアを啜った。

カップを置く瞬間まで、4人ともほぼ同じだった。



不意に、ふふ、と笑いが漏れた。

誰のものかは分からなかったが、それを考える必要はなかった。

すぐさま、全員に笑いが伝播したからだ。

普段あまり感情を顔に出さない潤也も、くすくすと笑っている。



笑いながら、尚也は思う。

きっと、このメンバーだからだ。

このメンバーでなければ、あんなくだらないことで30分も喧嘩なんかできないだろう。

話し合いをしようとすれば話はそれるし、やっとまともにできると思ったら何かトラブルを起こされたり、

それで逃してしまったお宝だって少なくない。

苛立つことがないと言ってしまえば、それは100%嘘になる。



―でも。

このメンバーで組むことができて、本当によかった。



だからこそ、これからも大事にしたい、と。

この仲間達と楽しく日々をすごせれば、それでいいと思うのだ。

何も効率を追うことだけが、人生のすべてではないはずだ。



「じゃあそろそろ、来週の話し合い始めようぜ」


「そうだな、大分遅れちまったし!

…大分腹減ったし、せっかくだからどっかの焼き肉屋でも行って話さねぇ?」


「まだ食うのかよ!?」






.

昼休み。トイレの洋式の個室に入り、コンビニの袋をまさぐった。

その中から、ホットケーキを模したパンと紙パックのコーヒーを取り出し、まずはコーヒーを飲んだ。

それから、パンの袋を開けて、ホットケーキをかじった。



これが、私のいつもの食事スタイル。

教室で取ることはできない。グループが仲よさそうに固まって食事をしているからだ。

その中に独りでいるなど、とても耐えられたものではない。

トイレで食べようと決めた時、最初は便器の上に座って食べる自分に情けなさと悲しさを覚えたが、それも今ではなくなった。慣れたのだ。



食事を終えてトイレの外に出ると、同じクラスの女子2人とすれ違った。

すれ違う瞬間、ほんの一瞬会話が止まったのがわかった。

足早にその場を去る。クスクスと笑い声が聞こえてきたからだ。

何とか吹っ切ろうと、廊下を突っ切って階段を駆け上がったが、笑い声はなかなか消えてくれなかった。

実際の笑い声ではなく、耳に染み付いてしまった笑い声が聞こえているのかもしれなかった。



もともと、人付き合いは得意ではない。

自分から話しかける、などというスキルは、小学時代の担任に名指しで罵倒された時に忘れてしまった。

仲良くなれるのはごく稀に話しかけてくれる人がいるからだが、

自分から話しかけないのだから、親友などというレベルに達せる訳がない。

故に、いつだって一人ぼっち。

自業自得だ。どんな言い訳も通用するはずがない。



勢いで屋上まで駆け上がり、ドアを開けた。

一応、進入禁止ということにはなっているが、鍵をかかっているのを見たことがないし、昼休みは昼食を取る生徒であふれかえっていることが多い。

が、今日は誰もいなかった。

きっと雲天で、春なのに薄ら寒い風が吹いているせいだろう。



金網に触れると、かしゃんと金属音が小さく鳴った。

下を見れば、校庭の全容を見下ろすことができる。

バスケットコートの方ではバスケをやっている数人のグループがいたし、鉄棒では逆上がりの練習を励ましあいながらやっているグループもあった。

すべて、別世界で起こっている事象としか思えない。今まで、そんなことを体験したことはなかった。

体育や席替えの「好きな人と組んでください」で、いつも余って「あいつどうする?」と言われていた口だ。



そんな状態でも私が壊れずにいられたのは、両親がいたからだ。

母はいつも手作りの弁当を用意してくれ、笑顔で送り出してくれた。

無論、帰ってきた時も同様だ。その席には大体父がいて、私を安心させた。



だがそれも、もうない。

最近、家の中ですら冷たく冷えていた。

食事を家族で取ることが少なくなり、あっても終始無言だ。

私が何か言っても、誰も応じない。話しかけるスキルが極端に低いせいかもしれない。

父は時々口を開くが、その内容は大体「お前は育て方が悪いからな」と言った類の言葉だ。

そして、母がキッチンに立つことがなくなった。体調が悪いのではないのに、だ。



いつからこうなったのかは、正直覚えていない。

ついにこの内気なだけで何もできない娘に、愛想をつかしたのかもしれなかった。



守るものがなくなった今、自分が壊れてしまうのは時間の問題だと思われた。

毎日、毎日、絶え間ない嘲笑と、冷たい視線。

それらすべてに、ゆっくりと蝕まれ、内面から腐っていく。

その気持ち悪い感触に、吐き気と目眩がした。



―――他の誰かに壊されるくらいなら、自分の手で終わらせる―――



金網を握る手に、ぐっと力をこめた。





「おかしいな…どこにいるんだろ」



真希は教室を覗き込んで、目的の席に誰もいないことを確認すると、首を傾げた。

これで何度目かわからない。図書室などもくまなく探してみたが、どこにも見つからなかった。

クラスメイトに聞いても、知らないとそっけない返事が返ってきた。



まぁ久しぶりだし仕方ないか、と、真希は内心ため息をついた。

いつもは部活やら委員会やらで忙しいのだが、今日は久しぶりに昼休みが空いたのだ。

同じクラスの友人達と昼食を採る絶好のチャンスだったが、それよりも思い出したことがあり、隣の教室まで足を運んだのだ。

だが、本人がいないのでは仕方がない。遅くなってしまったが、クラスメイトとご飯にしようと、教室に足を戻しかけた。



その時、ぐしゃり、とも、びちゃ、ともつかない音が、外から聞こえてきた。

かなり重いものが落ちたことはわかったが、何が落ちたのかと言われるとさっぱり理解できない。

そのままの体制のまま動けずにいると、一瞬遅れて外から悲鳴が聞こえた。

これも、ギャーともわーともつかない、雄たけびに近いものだった。



教室にいた生徒達が、一斉に廊下に出てきた。

真希も急いで窓際に駆け寄る。

下を見ると―確かにそこには「人」が倒れていた。大量の血を流して。



その姿を見た瞬間、嫌な予感がした。

真希は廊下に集まってきた人を掻き分け、飛び降りんばかりの勢いで階段を下りていった。



その人こそ、彼女が探していた人物―弥生ではないかと思ったからだ。



上履きのまま飛び出したが、人がごった返していて、とてもじゃないが近づける雰囲気ではなかった。

先生が「近寄らないで!」と必死に叫んでいるが、それも効果が薄い。中には泣き叫んでいる者もいた。



「何?飛び降り?」


「らしいよ。上から見てたんだけど、すっごい赤かった。屋上から飛び降りたんじゃない?」



屋上―。

その言葉を聴いた瞬間、真希は再び走り出していた。



真希と弥生は、1年で一緒のクラスだった。

最初の席が近かったのもあり、真希は積極的に話しかけた。

相手からのレスポンスはいいとは言えなかったが、けして不快そうでもなかった。

しかし、相手から話してこない状況だったせいもあり、

まもなく真希は別のグループと行動するようになってしまった。

以降も気にはかけていたが、接触する機会はぐっと減り、

学年が上がってクラスが変わると、ほぼ断絶状態になってしまった。



だからこそ、今日は久々に弥生と食事を取ろうと決めていたのだ。

自分から絡まなくなったくせに今更近づくなんて、偽善にもほどがあるのはわかっていた。

それでも、気にせずにいられなかったのだ。



なのに……。



てっきり屋上にも人がたくさんいるのかと思っていたのだが、意外なことに誰もいなかった。

まだこちらには手が回らないらしい。当然と言えば当然だ。



金網の近くに、何かが靡いているのが目に入った。

駆け寄ってみると、石を錘に止められた紙だった。何か書かれている。

迷う暇もなく、真希はその紙を手に取った。



『生きることは最大の無駄 死ねないでいただけだ

いっそ存在しなかったことにして欲しかった 後処理に手間をかけることを許して欲しい』



これで、確信した。下に倒れているのは、紛れもなく弥生だ。

1年の時、何度か見せてもらったノートの文字が、そのまま書かれていた。



金網を持ち、そっと下を見下ろした。

流石に、最初見た時のような格好のまま放置されているわけがなく、

どこか脇に寝かされているのか、弥生の姿はなかった。

だが、鮮やかな血の色はまだそのままだった。まだ広がっているようにすら、真希には感じた。



手に持った紙が握りつぶされて、くしゃりと音を立てた。

この音で、自分が泣いているのだと、真希はようやく気がついた。



そこまで悩んでいたなら、どうして相談を―



そう思いかけて、首を振った。自分がそんなことを言える立場ではないのは、よくわかっている。

ならば、他の人には誰にも相談できなかったのか。



こんなことを思うのは厚かましい。

わかってるけど、でも。



(私がもう少し、そばにいてあげれば―)



救急車の音が近づいてきた。下にいた生徒が、さっと道を作った。

わんわんとけたたましく鳴り続けた音が、真下にきた時にようやく鳴り止んだ。



―――結局、私は。



担架に乗せられ、運ばれていく弥生を見ながら、真希は思った。



―――彼女に何もしてあげられなかったんだ。

     何も、知らなかったんだ……



担架に乗せられた彼女の目は閉ざされていた。

その顔から、表情を読み取ることは不可能に等しかった。



厚い雲に覆われた空から、ぽつりぽつりと雨が降り出していた。

まるで、広がっている血の痕をかき消そうとするように―――。






.

注意:この話は自分のオリキャラに「陽気なギャングが地球を回す」に出てくるメンバーを当てはめて書いている部分があります。

キャラを当てはめてるだけなのでネタバレとかはないですが、読む際はご留意ください。

読んでない人でも読めると思います。多分。

それではどうぞ。



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「やめておけ。断言するが、お前には無理だ」


「何でだよ!?俺にならできる!絶対に!!」


「その根拠のない自信が怖いんだよ青也はー!!」



啓がいつものように尚也の家に入ると、先に来ていた2人とこの家の主がなにやら揉めていた。



「あれー?みんなどうしたのー?」


「あ、啓!!聞いてくれよ!!青也がまた変なことを…」


「何だよっ!?なぁ啓、俺にだって喫茶店くらい運営できると思うよな!?」



カチャーン。

絶妙のタイミングで、啓のズボンのポケットから携帯電話が滑り落ちた。



「…青也ぁ~、今何て言った~?」


「だからっ!俺にだって喫茶店くらい運営できるよなって聞いてるんだよっ!!」



携帯を拾い上げると、啓はすぐさま青也の前に行き、その場にひれ伏した。

…正確には土下座、と言うべきだろう。



「…お願い、青也。大量殺人はやめて」


「はぁ!?お前までそんなこと言うのかよっ!?」


「青也ぁ~、前作った鍋料理のことを忘れたわけじゃないよねぇ~?」


「う゛っ……」



前作った鍋料理、というのは、年末にやはり尚也の家で開かれた年越しパーティーの時、

青也が腕によりをかけて作った(自称)もののことを指す。

…が、これが酷かった。まず、内容物が食べ物の色をしていなかったのだ。

当然のことながら、匂いは危険物そのもの。

食べ物の形はぐずぐずに崩れ、もはや液体に近かった。



そんな明らかな有害物質が、おいしいわけもなく。

それを最初に毒見…もとい、味見した尚也は血を吐いて倒れ、

その次に食べた啓(寝起きで事態を把握していなかった)も卒倒し、

作った本人も食べた瞬間魂をどこかに飛ばしてしまった。



…が、3人が元旦の朝目覚めると、その鍋は見事なまでに空になっていた。ついでに酒瓶も。

なぜなら……



「あれは青也が作ったにしては傑作だったがな。なかなかうまかったぞ。

酒とも良くあったしな。思わず、1人で全部食べてしまった」


「「「……」」」



そう、残りの1人、潤也がぺろりと平らげてしまったのだ。

本人はドッキリでもやったのかと思ったらしいが、

尚也はその一言に対し「血を吐いてまでドッキリやるわけねーだろ!!」と反論している。

この件以来、いったいこの男の胃袋と舌はどうなっているのかと、3人の間でもっぱら恐怖の対象となっている。



「だが、喫茶店は無理だ。喫茶店であの鍋でも出すつもりか?」


「あ、あれは…二度と作れないと思う」



青也に先程までの覇気がなくなっている。年末のことを思い出してしまったのだろう。

…しかし、それは一瞬のうちに消し飛んでしまうこととなる。



「そうだろうな。あんなおいしいものは、お前には二度と作れまい。

…そもそも、お前にコーヒーなど入れられないだろう?」


「な、何言ってんだよ!!俺の入れるコーヒーはマジでうまいんだぜ!?」


「ほう、じゃあ作ってみるがいい。そのうまいコーヒーとやらをな」


「おう、望むところよ!!尚、ちょっと台所借りるぜ」


「お、おいちょっと待てよ青也!!」



潤也に触発された青也は、まっすぐに台所へ向かっていく。

それを必死に押しとどめようと、尚也が後を追っていった。



「ふん、どれだけのものができるのか楽しみだな」


「…潤、なんか楽しそうだね……

そもそもなんで、喫茶店やろうとか言い出したわけ?」


「ああ、『陽気なギャング』シリーズに出てくる響野とか言うやつがいるだろ?

あいつが自分に似てるとかで、じゃあ俺も喫茶店できるんじゃないかと思ったらしい」


「あー、あのシリーズかぁ~」



「陽気なギャング」シリーズは、潤也達も一通り目を通している。

もともとは「お前達に似たやつらが小説に出てるぜ」と、他の友人に勧められたのだが、

実際読んでみるとそのまま当てはまる点があまりにも多くて驚いた。



「…で、青也は響野さんが当てはまった、と。

青也はどっちかって言うと説教するよりされる側だけどね~」



啓が苦笑混じりに言った。



「お前はどう考えても久遠だよな。あの餓鬼っぽさといったら他にない」


「餓鬼とは失礼なっ!潤だって年代は同じくらいのはずだよっ!?

…じゃあ、尚也は雪子さん?」


「それでも間違いないと思うが、あいつはどっちかって言うと響野の嫁じゃないか?ツッコミ役だし。

それにあいつは、高速道路でも制限速度は遵守するチキンだからな」


「あんな運転は僕達の中の誰にもできないでしょ~。

と言う事は、潤は成瀬さんだよね~」


「消去法じゃなくてもそうなるがな。

…ただ、その影響が作者の俺達の書き方にまで影響してて困る。

俺はいつもこんなに堅苦しいしゃべり方じゃないんだが」


「…潤はいつもそんな感じじゃない?」



そんなことを話していると、尚也がしょんぼりしながら戻ってきた。



「…青也はコーヒー作ってるの?」


「ああ…『集中できないからでてってくれ』って、強制的につまみ出された」


「…ここ尚の家なのにね……」


「まぁ、心配は要らないだろう。一応喫茶店のマスターのポジションなんだからな」


「そ、そうだな……」



潤也の一言で、とりあえず安堵した尚也。

しかしその安堵も一瞬で消え去った。



「…潤、ちょっと待って。

確かに響野さんは喫茶店のマスターって設定だけどさ、

響野さんの作るコーヒーって、『何でここまでまずくできるのか』ってくらいまずいんじゃなかったっけ…?」



「「…………」」



…ますます、不安は募っていった。





…2時間後。

青也が4人分のカップを盆に乗せ、戻ってきた。



「お前、コーヒー作るのにどんだけ時間かかってるんだよ……」


「ほんとにうまいコーヒーってのは、じっくり時間をかけるもんなんだよっ!

…さぁ、できたぜ。飲んでびびるんじゃねーぞ!!」



タンタンタン、とリズムよく3人の目の前に置かれたコーヒーカップ。

が、すぐには誰も飲もうとしない。

まるで毒物処理班のような慎重さで、カップの中身をのぞいている。



「…色は一応黒いねー」


「匂いもコーヒーだな」


「ちゃんと液体だしね」


「おい、なんだよその感想はっ!まじめに飲んでくれよ!!


…あ、砂糖は先に入れたからな。ミルクはお好みでどうぞ」



…砂糖を先に入れた?



尚也は何となく嫌な予感がした。

他の2人が飲む前に、毒見…いや味見をしてみなくては。



が、そう思った時には既に遅かった。



「にがじょっぱいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」



次の瞬間、壁を破るんじゃないかという勢いで啓の絶叫が響き渡った。

四肢をばたつかせて悶絶している。

ソーサーの上にカップを落とし、横になったカップから黒い液体がこぼれていた。

いつもならすぐにそれを拭くところだが、それ以上にコーヒーの味が気になった。



恐る恐る、カップに口を近づけて、一口。



…殺人級のしょっぱさと苦さが、口の中に広がった。

噴出して卒倒しそうになるのを、必死でこらえる。



「青也……これ、何入れた……?」


「は?そりゃ、コーヒーの素に決まってるだろ。

ナスカフェを5杯と、それから蓋の赤い瓶に入ってたちょっとピンクがかった砂糖を適量と……」



…適量って、絶対大量の意味だよな……

しばし青也を見つめた後、尚也はすさまじい勢いで青也に詰め寄った。



「あのなぁっ!インスタントコーヒー5杯も入れるバカがどこにいるんだよっ!

それからっ!そのピンクの奴は砂糖じゃなくて岩塩だー!!」


「な゛っ!?何だよそれ!?

…いや、俺の作ったコーヒーがまずいなんてはずは……」



尚也の言葉が信じられないとばかりに、青也は急いでカップの中のものをがぶりと飲んだ。

…瞬間、即噴出した。当然のことながら、尚也の顔に直撃。



「げほっげほっ!おい、何だよこれ!!どこの誰がこんなまずいもん作ったんだよ!?」


「「お前だーーーーーー!!!!!!」」



啓と尚也が同時に切れた。大乱闘開始。

…するかに、見えたのだが。



「…何をギャーギャー騒いでるんだ。うまいじゃねえか、これ」



3人はその場で文字通り固まった。

声の主は……潤也。



「…え?潤、エイプリルフールはもう少し先だよ?」


「俺が嘘を言う男に見えるか?」


「…青也の話、聞いてたよな?ナスカフェ5杯だよ?」


「いい感じの苦味が出てるじゃないか」


「……間違えて塩入れちまったんだぞ?」


「コーヒーに塩も悪くないな。苦味とぴったりだし、極上のスパイスじゃないか」



青也、これなら喫茶店開けるぞ――一言そう言って、潤也は涼しい顔でコーヒーを飲んだ。

ズズズッ…と、この場にそぐわない優雅なティータイムに流れるような音が聞こえる。



3人は呆然と、潤也を見つめていた。

潤也が彼らの様子を気にする風はない。



「…青也ー…潤専用の喫茶店でも開いたらー?」


「……やめておくぜ」


「………そうだね」



またひとつ、潤也への恐怖心が増えてしまった3人であった。



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以下オリキャラ話全開のあとがき



お題から話を考えたのではなく、話から合うお題を考えたので

どれにしようか大分悩みました…これでもなんかおかしい気がする(汗

陽気なギャング読んでる時からずっと書きたかったんですよね、この4人でこういう話。

響野さんのコーヒーはまずいってのを読んでたら、どうしても昔のネタが出てきてしまって。

(正確にはネタ発案→それを某高校文芸部の友人に書いてもらった と言う流れだったんですが



しかし、潤也=味覚音痴が確立されかかってますね(汗

味覚音痴なわけではないんです。どんなものでもおいしいといって食べられるだけなんです。

…それを味覚音痴って言うのかorz



ちなみにこの4人の中で一番料理がうまいのは尚也です。ステーキ用の塩とか持ってるくらいだしね。

その気になれば料理研究家になれるんじゃなかろうか。

他の家事もうまいと思うので、将来はきっといい主夫になれるはず。

他のメンバーは、青也は見てのとおり、啓はコンビニ頼り、潤也は尚也にたかってる…だと思います(ぇ