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63点。

 

荒唐無稽(な話)だと笑い飛ばせたならどんなに楽でしょう。これぞ、王道と言える和製ホラー。原作は小説、水と閉鎖空間をテーマにする同タイトルのホラー短編集の一編 "浮遊する水" です。流血沙汰は一切無し、それに全く頼りません。

 

 

~あらすじ~

夫との離婚調停真っ只中の淑美。5歳の娘、郁子の親権を絶対に奪われたくない彼女は自立を主張するため、早々に郁子と共に中古マンションへ引っ越す。しかしそこでは、水を巡る奇怪な現象が次々に起こるのだった。

(※映画ナタリーより抜粋)

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

□「貯水槽内から遺体が発見される」のは度々発生するリアル。

 

 

2022年、大型マンションの高所から落下死、タンクを破損させて中に入り込む。

2008年、同理由でショッピングセンター、等。

どちらも、発見されるまでにはかなりの時間がかかり、その水は当然に供給されています。後者のショッピングセンター及び地元保健所に至っては

「水質に異常はなく健康にも問題はない」で逃げ切り、現在も通常営業しています。

政界にも影響力を持つであろうあの企業ですよ。

 

古くは1977年「秩父貯水槽遺体遺棄事件」です。こちらは防火水槽。遺体が発見された際の埼玉県地方版毎日新聞にて、遡る事1年程前から

「黒いセーターを着た女性の霊」が多数目撃されていた事を報じました。

幽霊を信じるかどうかの議論は扨置き、事件が明るみにならないと犯人は裁かれず、被害者の無念が晴らされなければ、成仏のし様が無いという事は理解するものです。

 

 

□母娘の愛情とシングルマザーの現実。

 

 

どんな事情で離婚となったかを語らない以上、元旦那を責めるのもお門違い。でも、見ていて辛いとこ。私ならこう!とかあっても、そもそも私のお話じゃない。

 

郁子は父親の事も好きだと窺わせる描写や、淑美に

「ママだけでも大丈夫だよ」と気遣うシーンも切なくて、不甲斐無い母親である事を認めた上で、娘を守る為に強くなるって覚悟はするけど、現実は綺麗事を言う様には上手くは行かない(小日向さんだよ)と言った点は、必要充分に描かれます。

 

全ては、淑美がエレベーター内で美津子に呪い殺されかけ、自分は死んでも娘を守る為に、今の今迄 "ちゃん付け" で呼んでいた大事な娘を突き放そうと呼び捨てにする

「来るな!」の名シーンに集約させる為です。

 

 

□と、ここまで完璧に練り上げたのに、期待し過ぎて、残念に思った点。

賛否両論あるかも知れませんが、「あなたのママよ。」の台詞です。

 

 

これでは郁子にトラウマを残しかねない(実際に残した)し、

淑美は自分の幼少期と同じ思いをしていた美津子に同情から、

子供に同じ事を経験させたくないと思う母性から、

弱い母親だけども愛情は深いという淑美の性質が、

母親を必要とする美津子を選んでしまったのか 等の

 

視聴者の様々な見方を後述のラストシーンとエンディングテーマの詞で全てを否定して、一方向へ誘導するんです。そこまでやるなら

「私があなたの永遠のママになるから、私だけを連れて行きなさい!」とでも説明の要素が加わった台詞にでもすれば、一先ずは感想を統一出来ただろうに。言いたい事が「オテサーネク」みたいな狂った母性とするならこれでも良くなるけど、そうじゃないでしょう?

 

 

□折角、10年後のラストシーンを描いたのに…。

態々、大きくなった郁子のラストシーンを加えて

「ママがずっと守ってくれていた」

という万人に解り易い説明を付け加えざるを得なくしたのは、偏に

「あなたのママよ。」の台詞が元凶です。ここが蛇足だと思う人は

「来るな!」までに、充分以上に淑美の気持ちを解していたから思うことなので。

 

 

綺麗なラストですし、雑味が無い状態で味わわせて欲しいわけです。それを感じるといろいろ思いません?無理矢理、氷川あさみを出演させたのかなとかさ。

で、八つ当たりしちゃう。はっきり言って、監督に母性という感情は理解不能と思いますので、中途半端に描くのはやめて欲しいです!みたいな。

 

 

□二番目に残念に思った点。取って付けたような恐怖演出。

チープなびっくり演出(手形バンバン!)と「シャイニング」程のインパクトは残せない、エレベーターからの大量の水が溢れる演出が不要です。無くとも、影響無い。

 

 

今の今まで、緻密に積み上げてきた当映画における〝恐怖のイメージ〟を自ら崩したように思えて残念です。

 

 

~総評~

リング」をゆうに超えるポテンシャルを持つ映画だったのに、Jホラーを応援する者としてはとっても悲しいです。

 

 

親は文字通りに草葉の陰からでも、子供を見守りたいものですよね。

 
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