Kバレエ/熊川哲也が問う新しい舞台での存在価値「ロミオとジュリエット」 | 編集者福田清峰の八ヶ岳南麓田舎暮らし 天使のように大胆に悪魔のように繊細に 八美里ファームと実践出版塾と

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八ヶ岳南麓で田舎暮らし。「森の中に暮らす生活」を楽しむ「八美里ファーム」におけるDIY、八ヶ岳周辺の大人の散歩道、主宰している八ヶ岳自然教室のことなどもを紹介。「5年愛される本づくり、そして10年愛される本づくりへ」をモットーに書籍を編んでいます。

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5月の風が吹くと、K-BALLET COMPANY Spring Tourがはじまります。
2011年は「ROMEO & JULIET」です。
「ロミオとジュリエット」といえば、K-バレエカンパニーが設立10周年を迎えた2009年に誕生した記念すべきプロダクションです。

福田清峰の演劇と映画と写真が大好きな日々。


福田清峰の演劇と映画と写真が大好きな日々。

K-バレエのSpuring Tourというと、どうしても2007年(平成19年)5月15日に札幌で行われた『海賊 』の公演中、熊川哲也さんがジャンプの着地の際 に右ひざをひねり、公演途中で舞台を降板したことを思い出さずに入られません。

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ロミオとジュリエット 」はそれから2年後の2009年初演、そして今年2011年再演となりました。

初演から2年、前回の成功に留まることなく、芸術監督熊川哲也さんはより優れた高みへ作品をモディファイしていきます。
それも、時代考証を徹底的にやってのうえですから、作品への意気込みは計り知れないものだと思います。

「いかなる作品でも上演のたびごとに熟成の過程を経てきたように、この『ロミオとジュリエット』はこれからまだまだ育ってゆく作品だと考えています。初演の制作時と同様、歴史的名作としての本作の魅力―シェイクスピアの戯曲やプロコフィエフの音楽の素晴らしさといったものに依存するのではなく、そこに寄り添いながら、今回は時代背景をより深く考察するなど、また新たな視点をもって作品に臨みたい。
演出・振付にも大きく手を加えていくことになると思います。初演以上に“生きた”ヴェローナの街を描き出し、『ロミオとジュリエット』の世界をいっそう追求していきたい」

前回を上回るのが必然であり、使命であるかのように感じてしまいますが、それを熊川哲也さんは自然にその見えないプレッシャーに追われるのではなく、自ら臨んでその使命を課したかのようです。

そうなると、公演が楽しみなわけですが、これがすごいです。
これぞバレエという作品を、ここまで演出して、なおクラシックバレエの無類の美しさを追求した見事な作品に仕上がっています。

オープニングから熊川哲也さんが舞台に登場している時間のがこれだけ長い作品も、「若者と死」などを除けば、ないかもしれないと感じました。

そして、小さな小技をしっかり披露し続けてくれます。
とにかく、カンパニー全員のクオリティーの高さは世界屈指です。
これだけそろって、足音もほとんど気にならないバレエは、本当に作品に集中できます。
さらに、熊川哲也さんが女性を回しところ、リフトするところ、どれもが、熊川哲也さんが女性陣のパワーを導きだし、引っ張り上げているのがとても、心地よく、物語を力強いものにしています。
この部分、宮尾俊太郎さん、やはり、もうちょっとリズムがほしいところです。
宮尾さん、熊川哲也さんの流れを継承する存在になりつつあるかと思いますが、王子としての振る舞い、貴族としての振る舞い、まだまだこれからが楽しみといったところでしょうか。

マキューシオの死、ティボルトの死の場面が少し引っ張りすぎている感じが否めません。
ここだけが気になりました。

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ロミオ(熊川哲也)とジュリエット(ロベルタ・マルケス)のパ・ド・ドゥは最強です。

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ロベルタ・マルケスが踊るジュリエットは。こんなにも軽やかで、本当に蝶が舞ってるようで、かわいくもあり、かよわくもあり、なんて素敵なんだろうと、一目惚れしてしまいます。
ちなみに、英国ロイヤルバレエのプリンシパルです。
そして、熊川哲也版の初演のときも彼女がジュリエットを演じています。
おそらく、ジュリエットを踊らせたら、今、彼女を超えるバレリーナはいないかもしれません。

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華奢な感じがとてもステキです。
そして、その華奢な体全体を使った表現力はまさに熊川哲也さんが求めるクラシックバレエを踏襲した「現代を生きるドラマティック・バレエ」にぴったりです。

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ロミオとジュリエットのストーリーに簡単に触れておきます。

舞台はルネサンス時代のイタリアの都市ヴェローナです。
名門モンタギュー家とキャピュレット家は、一触即発の敵対関係にあります。

モンタギュー家の息子ロミオが思いを寄せているのがキャピレット家のロザラインです。
本来端役であるロザライんにもしっかりスポットをあてているのも熊川哲也版の面白いところです。
ちなみにロザラインはジュリエットのいとこです。

ある夜、ロミオはロザラインに会うために、友人のマキューシオとベンヴォーリ オとともに、仮面をつけてキャピュレット家の舞踏会に忍び込みます。
そこで、ロミオはジュリエットと運命的な出会いをしてしまいます。
あっという間に恋に落ちた2人は、修道僧ロレンスのもとでひそかに結婚します。

ところが、市場でキャピュレット夫人の甥ティボルトが仕掛けてきた争いで、親友マキューシオが命を落としてしまいます。
居合わせたロミオは争いを制止しようとしていたにもかかわらず、逆上し、ティボルトを自らの手で刺殺し、ヴェローナの街から追放されてしまいます。

悲しみに打ちひしがれるジュリエットに、父 キャピュレット卿は富裕な青年貴族パリスとの結婚を命じます。
ロミオとの愛を貫くため、修道僧ロレンスに相談をします。
ロレンスは、ジュリエットに仮死する毒を渡します。
しかし、この計画はロミオにうまく伝わらずに、ジュリエットがほんとうに死んでしまったと勘違いし、その場にいたパリスを持っていた短剣で刺殺してしまいます。
そして、ロミオは服毒して、ジュリエットに覆い被さるように死んでしまいます。
仮死から目覚めたジュリエットはロミオが死んでしまったことを知り、ロミオがパリスを刺した短剣で自らの命を絶ちます。
シェイクスピアの原作は、このあと、2人の悲恋を知った両家が和解することになりますが、熊川哲也版では、ジュリエットが命を落としたところで幕が下ります。

今回の「ロミオとジュリエット」、本当によくできています。
演劇の要素を随所に散りばめて、ダンサーの演技力、表現力を問うています。
そして、クラシックバレエ作品として、観ている者を納得させるのに十分すぎる作品に仕上がったもうひとつの要素が、派手な技をこれ見よがしに盛り込むのではなく、熊川哲也さん(他3名がロミオを演じます)が、物語の構成上許されるかぎり舞台に登場して、しっかりバレエを楽しめようにバレエを演じていることだと思います。
この試みは、ロミオではなく熊川哲也さんのための試みであり、ほか3名のダンサーのための試みであるというところが、K-バレエの新しいステージへ繋がる1歩のために考えられた、最高のシナリオなのかもしれません。

とにかくすばらしい作品に仕上がっています。
熊川哲也さん演じるロミオ、そしてロベルタ・マルケス演じるジュリエット、もうこの2人を見ずに「ロミオとジュリエット」は語れません。

2人のバレエが観れるのは初演のDVDだけです。
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