【地獄変】
芥川龍之介著
任天堂DS文学全集
これも短編だが、奥が深い。
第三者的な視点から描写しているのだが、それぞれの心理を推理させるところが、巧妙である。
何といっても、悪いのは堀川の大殿様。
そんなことは、一言も書いていない。
逆に、褒めちぎって物語を始める。
ところが、どうも絵師の娘を自分の立場を利用して、手篭めにしようという魂胆を持っているらしいのである。
そのことを匂わせるが、はっきり書いていない。
一方、父親の絵師は地獄変という屏風を仕上げようとするのだが、芸術に対する純粋さが、狂気のような次元まで達している。
殿様はそれを利用して、娘に対する想いを遂げられない逆恨みに、娘を父親の目前で焼き殺すことを命ずる。
その地獄の場面を見て、殆どの人が驚く中、人間性を捨て去って、芸術に没頭する父親。
自分のしている非道なことが、自分の歪んだ欲望によることを自覚している殿様。
唯一、人間を超えた道徳を示したのが、なんと猿だったという皮肉。
それらの人々の顔や姿が、炎に照らされている様が、目に見える様で見事である。
道徳家が、あまりにも完成度の高い屏風をまえに、非道な手段を用いて描かれた過程を忘れてしまうところ。
人間の持つ、狂気を短い文章に凝縮させている。