ホタルの恋のうた
 
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gold moon

会社が7時でおわると
夜がはじまるんだ。
金の月が西に見えるよ。
夜が終わると全部
朝の匂いに消えるんだ。

同じように見えて
同じ日はないんだよ。
生ゴミの匂いがする
朝の盛り場。
おじさんが倒れてる。
ホストの帰り道は
スーツがしわだらけ。

私も変わるんだよ。
朝になったら。
境目の色の中で
何故か思い出す。
愛してくれなかった人。
私がにげた人。
つめたい温もりを
そっと教えてくれた人。

愛されたかったのに。
ほめてほしかったのに。
一言そうたった一言。
それでよかったのに。

その傷を舐めてよ。大人なら月の下。

太陽が消えたらまた
夜が始まる。
同じように見えて少しだけ違う夜が
毎日始まるんだ。

朝露の泉

夜の上のほうを飛ぶと
建設機械や
居場所を間違えたかもめの声がする。

暖かい我が家が見える。
灯の消えた過疎の町。
おばあちゃんが7時に眠る
闇の深い深い町。

片隅ではそっと
唇をつなぎ肉をまさぐる。
君の顔は誰?
誰でもいい。
やわらかい布みたいな
闇がくるんでくれるから。

生まれたての犬の子。
死んでゆく痴呆の年寄り。
泣いている気の強い女の子。
狙ってるハイエナ。
雑居ビルの蛍光灯の下で
札を数える詐欺師。
男に生まれた女は
振られてこの世を呪い酔いつぶれてる。
みんな同じ夜の襞に包まれて
朝の光に消える露。
朝露は一体、誰の涙なの。

うそつきの恋

もしも私が鳥になったら
公園であなたをさがすよ。
美人と歩く昼下がり
上からどんぐりを落とすのさ。

そして雨の日には
ベランダのさんに止まり
パソコンに向かうあなたを見ていよう。

裸は見せられても
心は見せられない。
宛先のない手紙を
何枚も書いて破る。
出すわけにはいかないの。
読んだらあなたはかなしむ。

もしも、鳥になったら
日曜日には歌おう。
チョッパーな白い自転車のハンドルに止まって。
ひがな、へんな鳥のうた。
やまいのような恋のうた。
見つかりそうになったら、飛んで逃げよう。

ハルニレの森

町を見下ろすハルニレの木に
小鳥たちのマンションがある。

幸せの小枝を1本ずつあつめて
暖かい巣をかけたのは春の日。

ぬくぬくと暮らして
涙を忘れた鳥はしあわせ。
子供たちが旅立ち、
ある日冷たい雨に打たれて
こごえた夜を思い出す。

めそめそするな、小鳥さん。
だって小鳥に涙はない。
命尽きるまで、生き抜いて
巣が落ちたなら土になれ。

小さな体を、虫が喰い、
骨には苔がむしてゆき、
可愛いお花が咲いたなら、
再び空を舞うだろう。

先に行くもの、
生まれでるもの、
みんな1人で飛んでいる。
だから鳴くなよ、小鳥さん。
この枯れ果てた世界を飛べば
なつかしい春が待っているのよ。

赤い血糊

ノートを開くと血の匂いがした。
痛き事を綴った文字から蘇る傷口。
裂けた皮からたらたらと流れていた私の赤い血。
今は文字からしか場所がわからないほど
すっかりきれいになりました。
でも雨の日には痛むんです。
どこだかわからないのにしくしくと。
幸せという市販の絵の具を何種類も混ぜて
重ね塗りした下から
迷彩の苦しみが透けるのです。
濡れた皮膚の下に女の崩れた化粧のように
人間の、脂と混じって
私の一部になりました。
その赤い色が愛おしく
まだ時々、そのノートを開いてみたりします。

かもめの唄

遠景に霞む
大きなキリンはクレーン。
150メートル下に見えるジャングルは公園。
とぐろを巻いた蛇みたいな高速。
行き交う蟻ん子はかっこいいスーツ姿。
淀んだ水が流れるナイル河。
真ん中に浮かぶ小さな浮き島。
猛獣がいっぱいいるビルの谷。
ほら、見えるよ
901号室の窓際に、
市会議員と若い女。
夕方のこの景色は人生のジオラマ。
公園に咲いた薔薇のフェンスに降りて
鳥の顔して水面を見てたら
植え込みの段ボールで
服が破れたおじさんが寝ていた。

睡蓮の島

ハート形のジェットバスが
ユニットの隅に見える。
バスマット敷いたら、
すぐにお湯を入れなくっちゃ。
そこは私の生温い
底のみえない泥の沼。

お互いのことを何一つ
知らなくたって大丈夫。
愛の言葉を何一つ、
言えなくたって大丈夫。
ここはあなたのお部屋です。
いつでも帰ってきていいの。

おじさんも、おにいちゃんも、
サラリーマンも、議員さんも、
皆、泥にまみれてもがく
淀んだ浅い水面。
どうぞ溺れないで。
汚れたマーメイドがお連れします。
あなたの手を引きまっすぐに。

彼方に浮かぶ睡蓮の咲いた
美しい小島まで。

つぶつぶオレンジ

あの山の上は
もう夏が終わってる。
お土産屋さんの蛍光灯は
海まで届かない。

フェンスに乗っかって
雲間から光の粒をたどるよ。
ここにくれば古い人たちと
いつでも会えるから。
男、女、年寄り、若者、
子供、外人、日本人。

陽気なインテリ、
不幸な元ヤンキー、
繊細で貧乏な恋人、
折れそうな女子高生。
みんな、肉体を置いて、
どこに行ったんだろう。
私はまだここにいて
つぶつぶオレンジなんか
のんきに飲んでるんだよ。

自動販売機の蛍光灯が
切れそうに点滅している。
帰ろう。赤いテールさえ
霧が出て見えなくなる前に。