電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱…… -4ページ目

電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱……

おもにさんだいばなしをのうとれのためにかいている


「お客さん、いいところに来たね!」

行きつけの鍛冶屋の扉をくぐると、店主が嫌に明るい声と顔で俺を迎える。

「今この店では『飛び道具祭り』を開催中なんだ!期間中は、弓矢とか投擲系の武器のクジが半額で引けるんだ!かなりレアな物も入ってるから引いていくといいよ!!」

飛び道具祭り、か。現状俺の手持ちの武器の中では、遠距離系のラインナップが少し弱いのは確かだ。いい機会なのでクジを引いてみることにしよう。店主に金を渡す。

「とりあえず10回頼む」

「おう!さあ引きな!!」

上部に丸い穴の開いた木製の箱の中から、札を10枚引き、そこに書かれた武器の名前を確認する。……あまりいいのがない。

「もう一回引いてみるかい?」

店主の問いに小さく頷き、金を渡す。

「もう10回だ」

札を引き、確認する。

「お!なかなかいいのが出たじゃないか!だがもっとレアなやつも入ってるぜ!もう少しやっていかないか!?」

「ううん、そうだな。せっかくだからもう10回引いてみるか……」

そうして、もう10回、もう10回、あと10回、最後にもう10回とクジを引き続けた結果、俺の遠距離系装備は、かなりの充実を見ることになった。


新しい武器の試し撃ちをしようと、鍛冶屋を出たその足で、俺は冒険者ギルドに向かい、クエストを受注した。なかなかランクの高いクエストだが、手に入れた新装備の性能を持ってすれば難なくこなせるはずだ。意気揚々と現場に向かう。


やはり思ったとおりだ。かなり手強いはずのモンスターも、俺に近づくことすらできずに、放った矢に射抜かれていく。さすがは最高ランクの弓だ。精度も威力も申し分なかった。クエストは簡単にクリアだ。


ギルドに戻って報酬を受け取ったところで、少し眠くなってきた。明日も早くから仕事だ、そろそろ寝ることにしよう。スマホの画面を閉じると、俺は布団を被り、目を閉じる。安らかな眠りが訪れるまで、そう長くはかからなかった。


翌月のクレジットの請求額が、どんなSSR弓よりも大きなダメージを俺のメンタルと生活に与えることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。




お題:飛び道具、祭り、スマホ


「うーん、流石にそれは難しいお願いっていうか……まあ、無理とは言わないけど」

妖精は困り顔です。確かにどんな願いも叶えるとは言いましたが……。

「そ、そこをなんとか頼む!これはおらにとって生まれて初めての恋なんじゃ!この恋が実らなかったらおらは一生独身、孤独死まっしぐらじゃ!夏場に隣の部屋から異臭がするとの通報で腐敗したわしが発見されるんじゃ!おらがそのささやかな人生でこの世界に残したものは、おらの形をした床のシミだけになってしまう!」

対するのは、中年のカウボーイでした。無精髭を生やし、いつ洗ったか定かではない、何のものなのか分からないシミのついた服を着て、心なしか……いや、はっきりとした鼻をつく臭いを、その体から発していました。

「いやほら、気持ちはね?わかるし、さっきも言ったように不可能ではないんだけどね?ただやっぱり、そういう気持ちを曲げる系のやつはさ、最終的にどっちも幸せになれないことの方が多いし、それにそもそも……」

「お願いだ!おら、あの子のことを考えただけで胸が締め付けられる思いなんだ!あのつぶらな瞳、何を考えてるのか一見わからない謎めいた表情、そして何より、あの……あのたわわに実った大きなおっぱ」

「あーもうわかったわかった!!叶えてあげるからみなまで言うな恥ずかしい!!あなたをあのアイドルちゃんと恋仲にしてあげればいいのね!いいわ、やってやるわよもう!!」

妖精はついに根負けしたようです。それにしても、果たして上手くいくんでしょうか?

翌日も、いつものようにたくさんの人がアイドルちゃんを一目見ようと集まっています。すごい人気です。100人くらいいるんじゃないでしょうか。群衆のそこかしこから、きゃーだのかわいいだの、黄色い歓声が飛び交っています。

そこに、緊張した面持ちの、昨日のカウボーイが現れました。胸に手を当て、ふぅっと息を吐くと、何かを決意したような顔で、ゆっくり歩き始めました。

悪態をつかれるのも気にせず、群衆を押しのけ掻き分け、アイドルちゃん目掛けて脇目も振らず歩いて行きます。

ついに、最前の柵の前まで来ました。アイドルちゃんと目が合います。するとどうでしょう、アイドルちゃんのめにハートが浮かびます。興奮するアイドルちゃん。前脚の蹄で2、3度地面を蹴ると、一目散にカウボーイの方に駆け出しました。柵を飛び越え、アイドルちゃんはカウボーイに突進しました。

牧場のアイドル、牛のベルちゃんの体当たりを受けたカウボーイの体は、哀れにも宙を舞い、何処へともなく飛んでいってしまいましたとさ。



お題:アイドル、妖精、カウボーイ

この世界は黒過ぎる。超大国の横暴、政治の腐敗、苦しくなる一方の生活、心無い言葉、そしてその言葉を糾弾する自称正義の人々。もう見ていられない。この世界の全てを、真っ白に染めてもらいたい。

2回鳴らした手のひらを合わせながら頭に浮かんでいたのは、大体こんな感じのことだった。目を開き辺りを見回すと、もう三ヶ日の最終日だと言うのに、地元の神社の境内はたくさんの初詣客でごった返していた。少し時間を掛けすぎたかも知れない。僕は神前に一礼し、くるりと踵を返すと、そそくさと家路についた。


帰宅してコートを脱ぎ、テレビをつけると、何やらひどく騒がしい。極渦が分裂して日本上空に来るとか、シベリア高気圧が怪物級にとか、偏西風が日本の真上を大きく南に迂回とか、何を言っているのか全くわからないが、結論としては、明日、日本列島に記録的……いや、破滅的な寒波が訪れる、ということだった。

テレビの向こう側では、食料、水、カイロ等の備蓄を確認しろ、不要不急の外出は避けろと、アナウンサーが騒いでいたが、僕の耳にはどうも、非現実的な物に聞こえた。破滅的な大寒波?自分の人生にそんなことが起こるなんて信じられない。当たるがどうかもわからない予報を、大袈裟に騒いでいるだけだろう。ぼくは大きなあくびをするとテレビを消し、もぞもぞと布団に潜り込んだ。


しかし、それは本当にやってきたのだ。


目覚めた時、部屋は真っ暗だった。ほんの仮眠のつもりだったのだが、スマホの時計を見ると、時刻は午前2時を示していた。

窓の外から、強い風の音が聞こえる。外を見ると、見たこともないような猛烈な吹雪だった。1メートル先も見えない。急に感じた寒さに身を震わせ、エアコンの温度を上げ、また布団に戻った。


寒い。凍えて目を覚ます。エアコンの電源が切れているようだ。時刻は午前7時。もう日は出ているはずだが、外は相変わらず暗い。SNSを見てみると、僕が住んでいる地域の電力需要が爆増しているため、電気の供給を一時的にストップしているらしい。押入れからあるだけの布団と毛布を引っ張り出して、それにくるまる。この寒波は、いったいいつまで続くのだろうか。


2日目。断続的に使えていた電気が、全くつかなくなった。雪の重みで送電線が切れたらしい。復旧の目処は立っていないそうだ。忌々し気に外を見たが、吹雪は収まる気配がない。


3日目。ネットで情報を集めていると、かなりの数、死者の情報が目につくようになった。雪の重みで家屋が倒壊したり、それを防ぐために雪下ろしをしようと屋根に登り、そこから転落したり、低体温症になったり、原因は様々だったが、死は死だ。

スマホの充電は残り24%。有益な情報はないし、目に入るニュースは気が滅入るものばかりだ。しばらく見るのはやめよう。


4日目。壁にかけた温度計を見ると、室温は3℃を指している。寒い。

缶詰を食べながら、地震に備えて水と食料を備蓄しておいて良かったと思う。しかし、それも残り僅かだ。雪に埋もれて窓の外はもう見えなくなっていたが、低く唸るような風の音はまだ続いていた。


5日目。常に眠い。真っ暗な中、かじかむ手でインスタントラーメンの袋を破り、中身をそのまま齧り、冷たい缶詰を食べる。

トイレの水が流れなくなって久しい。悪臭がひどい。


6日目。ついに食料が底をついた。室温も既に氷点下を下回っている。

眠気は常にあるが寝付けない。というか、寝てはいけない気がする。手足からは痛覚以外の感覚が消え、意識は朦朧としている。僕も、このまま死ぬのだろうか。


7日目。絶望の中で目を覚ます。ずっとウトウトしているような感覚だったが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。空腹感が酷い。

……なんだろう。違和感を感じる。辺りを見まわす。周囲は相変わらずの暗闇で何も見えない。スマホの充電はとうに切れており、灯りもない。耳を澄ましてみても、何も聞こえなかった。

……何も、聞こえない?

違和感の正体はこれだった。この1週間、ずっと聞こえていた風の音がしないのだ。怖いほどの静寂が、真っ暗な部屋を満たしていた。

布団から抜け出し、ゆっくり立ち上がる。部屋の扉を開け、ふらつきながら廊下を歩き、階段を登る。1週間ぶりの運動で息が切れる。

震える手で屋上の扉を開ける。雪に阻まれ動かない扉を、半ば体当たりのようにしてこじ開けた次の瞬間、目に飛び込んできたのは眩いばかりの光。

久し振りの光に目が慣れると、そこに広がっていたのは深く澄んだどこまでも青い空と、純白の平原。

世界の全てが、真っ白に染まっていた。




お題:地元、絶望の、純白の