電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱…… -5ページ目

電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱……

おもにさんだいばなしをのうとれのためにかいている


「経営はマラソンです!現在目に見える成長を感じられなくとも、長期的な視野を持ち、希望を捨てず、諦めることなく粘り強く頑張れば、必ずや素晴らしい未来が待っていることでしょう!!」

ああ、こんな会社に入るんじゃなかった。毎度の朝礼で、社長は冒頭のようなセリフを何度も繰り返すが、今時桶なんて誰も使わないのだ。希望を捨てず、粘り強く桶を作り続けたところで、そんな物、誰も必要としていない。誰にも売れやしないのだ。

そろそろ別の仕事を探そうかと考え始めたある日、街に風が吹いた。尋常な風ではない。記録的な大風だ。季節は冬。折からの晴天続きで地面は乾燥し切っており、そこに吹いてきた大風で、街中が物凄い砂埃に覆われた。

すると、その砂埃がたくさんの人の目に入り、眼病から失明に至る人が数多く出た。失明した人たちは職を失い、琵琶法師になるより他なかった。

突然の琵琶法師の増加により、三味線の需要が急激に高まる。三味線の増産のため、楽器業界はこぞって街中の猫を狩り始めた。街から猫が姿を消すのに、そう時間は掛からなかった。

猫のいなくなった街では、天敵が消えた結果ネズミが増えることになった。大量のネズミが街を闊歩し、そこら中の桶を……

齧ったりすることはなかった。そもそも街には、もう桶なんてなかったのだ。もうだいぶ昔にプラスチック製の洗面器やらに代替され、桶は姿を消していたのだ。

故に、風が吹いても桶屋が儲かることはなかった。





お題:マラソン、結果、風

わたしのお兄ちゃんは大変な皮肉屋です。

彼の世界の見方には大抵物凄い角度が付いていたし、口を開けばブラックなジョークばかり連発します。肺にイカスミでも詰まってるんでしょうか。


思春期を迎えた頃、わたしはコンプレックス……と言うほどではないのですが、ある悩みを抱えていました。なんというか、こう、少し太っていたのです。特に脚が。そんなわけで、10代前半のわたしは、ネットや雑誌などから情報を集め、ダイエットに勤しんでいたのです。モデルのように……とまではいかなくても、せめて人並みの細さの脚を手に入れたかったので。

その頃のお兄ちゃんは、そんなわたしをいつも冷笑的な目で眺めていました。


そんなある年のクリスマスのことです。わたしは毎年、12月の半ば頃になるとベッドの枕元にくつしたを置くのが習慣になっていました。流石にその頃にはもうサンタクロースを信じていたりはしなかったのですが、恒例の行事のようになっていたので、その年もやはり、くつしたを置いていました。

25日の朝、カーテン越しの陽の光に目覚めると、枕元に違和感を感じました。くつしたに何か入っているのです。

ぼやけた目を擦りよく見てみると、それは大根でした。立派に育った大きな、太い大根でした。

お兄ちゃんの仕業に違いありません。


そんなことばかりしているから、お兄ちゃんにはいまだに彼女ができないのだと思います。


しねばいいのに




お題:大根、お兄ちゃん、くつした

「決められた人、と言うのは、つまり許嫁ということですか?」

とある城の一室、国王とその息子の王子が、何やら話をしています。

「うむ、そう……許嫁じゃ」

「なるほど。無論構いません。王の息子として生まれたからには、自由な恋愛ができるなどとは元より期待しておりません。して、相手は誰なのですか?どこぞの王女?それとも有力貴族の娘でしょうか」

王子の問うと、王の眉間にうっすら縦の線が浮かびました。

「それなんじゃが、なあ……」

王は、なんとも言いづらそうに口を開きました。

「その、何と言ったもんか……人魚……うん、そう、人魚なんじゃ」

「人魚!?どういうことです!?」

王子は目を丸くします。

「驚くのも無理はない。お前には話したことがなかったが、我が一族と人魚族との間には、いにしえよりの約定があるのじゃ」

王の話すには、こういうことのようでした。曰く、王の一族がまだ地方の貴族に過ぎなかった頃、一族が滅びかねない危機に見舞われたことがありました。その時の当主は人魚族の力を借りることでその危機を乗り越え、それどころか一国の王にまで成り上がったのでした。そして、その力を借りる時に結ばれたのが、王の言う約定……

「我が一族の当主が、10代毎に人魚族の娘を娶らねばならぬのじゃ」

前回の婚姻からちょうど10代目、それが王子だというのでした。


それから少し経ち、結婚式の当日。城の広間には、王子の結婚式というにはかなり少数の人が、参列のために集まっていました。一段高い所に二つ並んだ玉座には王と王妃、その下には式を司る神父と、新郎たる王子が神妙な面持ちで立っています。新婦の到来を待つのは、このたった四人でした。

しばしの時が流れ、広間の扉が静かに開きました。その向こうから、一つの影が静々とこちらに向かって歩いてきます。華奢な身体に真っ白な花嫁衣装。同じく真っ白なベールに隠され、顔はよく見えません。

花嫁は王子の前まで来ると、行儀良く、丁寧なお辞儀をしました。王子は、そっと彼女の顔にかかるベールを上にあげ、その顔を見ました。

「……!?」

大きく、つぶらで真っ黒な瞳、つるりとしたみずみずしい、というよりどちらかといえばぬらぬ……ら?

「こ、これは……。父上、騙しましたね!?」

「な、な、なんのことかな?」

「世間ではこういうのを『人魚』とは呼びません!これは『半魚人』です!!」

王子は、全身を深緑色の鱗に覆われ、粘液でぬらぬらとした光を放つ花嫁を指差して叫びました。

「ど、どこが違うの……かなぁ?」

王はすっとぼけます。

「いいですか!?人魚というのは一般的に、上半身は人間の女性、下半身は魚のようで、特にこういう物語に出てくる場合、顔はとても美しいものです!こんな風ではなく!!」

王子の指は、花嫁に刺さらんばかりです。

「いやでもほら、よく見たらけっこう可愛らしいじゃないか……目とかも、こんなにまん丸で……」

「そんな雑なフォローで誤魔化せるとでも思ってるんですか!?自分の息子の嫁に、こんな醜い生き物をあてがうなんて、正気を疑います!!こんな酷い話、生まれてこの方聞いたこともないですよ!!」

王子の抗議は、留まるところを知りませんでした。

そして、花嫁のぬらついた頬に流れた一雫の涙に気づく者は、一人としていませんでした。






お題:人魚、フォロー、決められた