「決められた人、と言うのは、つまり許嫁ということですか?」
とある城の一室、国王とその息子の王子が、何やら話をしています。
「うむ、そう……許嫁じゃ」
「なるほど。無論構いません。王の息子として生まれたからには、自由な恋愛ができるなどとは元より期待しておりません。して、相手は誰なのですか?どこぞの王女?それとも有力貴族の娘でしょうか」
王子の問うと、王の眉間にうっすら縦の線が浮かびました。
「それなんじゃが、なあ……」
王は、なんとも言いづらそうに口を開きました。
「その、何と言ったもんか……人魚……うん、そう、人魚なんじゃ」
「人魚!?どういうことです!?」
王子は目を丸くします。
「驚くのも無理はない。お前には話したことがなかったが、我が一族と人魚族との間には、いにしえよりの約定があるのじゃ」
王の話すには、こういうことのようでした。曰く、王の一族がまだ地方の貴族に過ぎなかった頃、一族が滅びかねない危機に見舞われたことがありました。その時の当主は人魚族の力を借りることでその危機を乗り越え、それどころか一国の王にまで成り上がったのでした。そして、その力を借りる時に結ばれたのが、王の言う約定……
「我が一族の当主が、10代毎に人魚族の娘を娶らねばならぬのじゃ」
前回の婚姻からちょうど10代目、それが王子だというのでした。
それから少し経ち、結婚式の当日。城の広間には、王子の結婚式というにはかなり少数の人が、参列のために集まっていました。一段高い所に二つ並んだ玉座には王と王妃、その下には式を司る神父と、新郎たる王子が神妙な面持ちで立っています。新婦の到来を待つのは、このたった四人でした。
しばしの時が流れ、広間の扉が静かに開きました。その向こうから、一つの影が静々とこちらに向かって歩いてきます。華奢な身体に真っ白な花嫁衣装。同じく真っ白なベールに隠され、顔はよく見えません。
花嫁は王子の前まで来ると、行儀良く、丁寧なお辞儀をしました。王子は、そっと彼女の顔にかかるベールを上にあげ、その顔を見ました。
「……!?」
大きく、つぶらで真っ黒な瞳、つるりとしたみずみずしい、というよりどちらかといえばぬらぬ……ら?
「こ、これは……。父上、騙しましたね!?」
「な、な、なんのことかな?」
「世間ではこういうのを『人魚』とは呼びません!これは『半魚人』です!!」
王子は、全身を深緑色の鱗に覆われ、粘液でぬらぬらとした光を放つ花嫁を指差して叫びました。
「ど、どこが違うの……かなぁ?」
王はすっとぼけます。
「いいですか!?人魚というのは一般的に、上半身は人間の女性、下半身は魚のようで、特にこういう物語に出てくる場合、顔はとても美しいものです!こんな風ではなく!!」
王子の指は、花嫁に刺さらんばかりです。
「いやでもほら、よく見たらけっこう可愛らしいじゃないか……目とかも、こんなにまん丸で……」
「そんな雑なフォローで誤魔化せるとでも思ってるんですか!?自分の息子の嫁に、こんな醜い生き物をあてがうなんて、正気を疑います!!こんな酷い話、生まれてこの方聞いたこともないですよ!!」
王子の抗議は、留まるところを知りませんでした。
そして、花嫁のぬらついた頬に流れた一雫の涙に気づく者は、一人としていませんでした。
お題:人魚、フォロー、決められた