電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱…… -2ページ目

電気羊の夢を見たアンドロイドの憂鬱……

おもにさんだいばなしをのうとれのためにかいている

嘘つきの男がいました。男にとって、嘘は日課でした。毎日のように、他愛のない嘘をつきました。周りの人達は彼の嘘を全く信じませんでしたが、彼はまったく気にしませんでした。来る日も来る日も、嘘をつき続けたのです。

しかし、ある日を境に彼の生活に変化が訪れました。嘘が、本当になり始めたのです。
「駅前のホームレスの半生が映画化されるらしいぞ」
彼がそんな嘘をついた翌日から、テレビのCMやYouTubeの広告で、順調にキャリアを積んでいた一人の男が、難病の恋人を救うために莫大な借金をした結果、ホームレスに転落していくまでの半生をドラマチックに描いた映画の宣伝が流れ始めました。
「隣の奥さんは、実は某国のスパイで、諜報機関の監視対象らしいぞ」
という嘘をついた翌日には、隣の奥さんが全身黒いスーツを着た男たちに黒塗りの車に乗せられて連れて行かれました。
「明日の最低気温は、世界記録を下回るらしいぞ」
そんな嘘をついた翌日には突然の大寒波が襲来し、冬の南極のような気温が街を襲い、たくさんの死者が出ました。

さすがに男は恐ろしくなり、数日の間一言も発することができなくなりました。しかし、来る日も来る日も無言で過ごすことに耐えきれなくなった男は、ある日、こう叫びました。

「僕の言ったことは、決して現実化しない!!」

次の瞬間、世界がしばしカクついたかと思うと、そのままフリーズしてしまいました。



お題:嘘つき、ホームレス、世界記録
私は伊沢十右衛門。所謂忍者である。

寛永十四年から同十五年に起きた島原での大規模な一揆以来、私の所属する里もやにわに忙しくなった。公儀の要請を受けた我が主、鍋島藩の命により、隠れ切支丹の調査に駆り出されることになったからである。
そんなわけで、以来数年に渡り、私は九州各地で切支丹を見つけ出しては公儀の役人に引き渡す仕事に従事した。後味の悪い仕事である。切支丹に個人的な恨みや悪感情は少しもないのだから。それでも、忍びとしてなすべきことはきっちりこなした。仕事に個人の感情を差し挟む事はしない。それが、私の忍びとしての矜持だったからだ。
そうして私は、幾人もの隠れ切支丹を見つけ出しては、役人に引き渡した。その内のかなりの者が、教えを棄てず、磔になって死んでいった。私は、可能な限りその処刑に立ち会った。いらぬ感傷かも知れないが、彼らの死を見届ける責任が、自分にはあるような気がしたのだ。
その日も、私は自分が捕まえた切支丹の処刑を見届けるため、刑場を訪れていた。幾本もの十字に組まれた木の柱が並び、そこに棄教を拒んだ数人の男女が縛り付けられていた。どれも、よく知った顔だった。故郷のを追われて行き場をなくした無宿人を装って入り込んだ私を、村ぐるみで世話してくれた人達だったから。私は、そんな親切な人達を、あの柱の上に送り込んだのだ。
刑が執行され、柱の人々の右脇腹の辺りに、槍が突き刺された。叫び声を上げる者は一人もなく、ただ小さな呻き声だけが聞こえただけだった。中の一人男が、呻きながら目を上げた。丁度、私と目が合う。男は、すぐに私を思い出したようだった。最後の力を振り絞るように、私に叫んだ。
「貴様、デウスの名の下に貴様を呪ってやる!十字架の呪いを受けるがいい!!」
叫び終えるとともに、男は事切れた。
それが、私にとっては最後の切支丹狩りの仕事になった。

自分がどんな呪いを受けたのかを知ったのは、それからすぐ後の事だった。
それは、里長宛に切支丹狩りの報告書を書き、末尾に署名しようとした時の事だった。『十』の文字を書き終えた瞬間、右の脇腹に尋常でない激痛が走ったのだ。それはまるで、槍か何かを突き刺されたような。
その日以来、私は何かが十字に交差したものを見たり、それに触れたりすると、右脇腹に激痛を覚えるようになった。お陰で自分の名を書くことができなくなってしまったため、『十』の字を『拾』に変えることになったし、数字が書かれていそうなものを出来るだけ見ないように生活する羽目になった。それでも、十字型の物など世間にはありふれているので、不意に目にしては激痛にのたうつ事は、数えきれないほどあった。
これが、私の受けた報いだった。

ある日の事、私は里長から新たな任務を与えられた。島津の密貿易について調べろ、という物だった。なんでも、公儀からの直接の依頼らしい。私はすぐに、薩摩の山川港に向かった。
数日、山川港で情報を集めたが、決定的な証拠を掴むことはできなかった。これは空振りかと諦めかけたある日、薩摩藩の家老が山川に訪れ、地元の豪商と会談の場を持つとの情報を得た。密貿易の打ち合わせの類いかもしれない。会談の場である豪商の屋敷に潜入することにした。
会談の行われる夜、私は難なく屋敷に潜入した。天井裏に忍び込み、会談の場である広間に向かう。
広間の真上に到着したのは、ちょうど会談が始まった頃だった。聞き耳を立てるが、かなり小さな声で話しているようで、内容まではよく聞こえない。少し危険ではあるが、天井板の一部を外すことにした。
空いた穴からそっと下を覗き込む。二人の男がかなり近い距離で何か話していた。上座に座っているのは恐らく島津弾正久慶で間違いないであろう。山川地頭職にある男だ。羽織にはそれを示すように島津の家紋、丸に十文字が染め抜かれていた。
不意に、右脇腹に激痛が走る。不覚にも呻き声が漏れた。島津の家紋に呪いが反応したようだ。こんな時に……。警護の者を呼ぶ声が響く中、痛みを堪えながら私は逃げ出した。
あまりの痛みに脚が鈍る。中庭に降り立ったところで警護の者に追い付かれてしまった。
「止まれ!」
ここまで距離を詰められては逃げ切れる物ではない。腹を括り、刀を抜いて追手に向き合う。
「武器を捨て、投降しろ」
追手は、槍の穂先をこちらに向け、そう宣う。そんな事が出来るわけなかろう。刀を振りかぶり、頸動脈を狙って袈裟懸けに切り掛かる。
ガキっ、という鈍い金属音。追手の男が私の斬撃を槍の穂先で受けた。その時私の目が捉えた男の得物は、あろう事か十文字槍。
次の瞬間、激痛に膝をつく私の右脇腹には、深々と男の槍が刺さっていた。
こうして、私の呪われ日々は終わりを迎えたのだった。


お題:呪われし、十字架、忍者
イヤホンを耳に突っ込み、スマホの画面に視線を固定。これでここは僕の世界だ。誰にも邪魔されることはない。目的地に歩き着くまでは。
歩きスマホが危険だなんてよくわかっている。だがこの忙しない日々の中、自分だけの時間なんて移動中くらいしか確保できない。これは、この世知辛い世の中で自我を保つための処世術のような物なのだ。

違和感に目を上げる。どこだ?ここは。両脇に樹が生い茂った、森の中の未舗装の道の上に、僕はいた。いつの間に迷い込んだんだろう。道の上にまで覆い被さるように茂った枝のせいで、昼間だというのに周囲は薄暗かった。
こんな森、近所にあっただろうか。思い出せないが、とりあえず引き返すことにする。まったく、ずいぶん長い間、道を間違えたことに気づかなかったようだ。振り返ってみると、先が見えないほど延々と道が続いていた。少しうんざりしつつ、歩き出す。

歩けども歩けども、一向に森を抜ける気配はなかった。おかしい。家を出てから森にいることに気づくまでの時間より長く歩いている気がするのだが。ここまで別れ道などは一切なかった。道に迷ったとは考え難い。不可解を抑え込み、耳慣れない鳥の声を聞きながら歩き続けた。
しばらく歩くと、複数の人の話し声が聞こえてきた。先に進むと、丸く木の生えていない広場のようになっている場所があって、そこに10人弱くらいの人だかりができていた。人々は皆、見慣れない不思議な格好をしていた。強いていうなら、世界史の教科書に載っていた、中世の人の格好に似ていた。
とにかく森を抜ける道を教えてもらおうと、中の一人に声をかけてみる。
「あの、すみません」
「ん?なんだ兄ちゃん、変わった服を着てるなあ。お前も挑戦者か?ならこっちへ来い!さあ!!」
僕が何かを言う前に、人だかりの中心、広場の真ん中に引っ張られてしまう。
そこには。膝くらいまでの高さの岩と、そこに刺さった一本の剣があった。その剣は、うっすらと白い光を放っているように見える。
「おいみんな!新しい挑戦者だ!!」
僕を引っ張ってきた男が、群衆にそう告げた。群衆は、妙な格好をしてるなとか、あんなヒョロガリに抜けるのか?などと、口々に勝手な事を言う。そもそも挑戦ってなんだ。
「あ、あの、僕は道を聞きたいだけで……ていうか挑戦ってなんのことです?」
男はポカンと口を開き、呆気に取られたような顔で「なんだ兄ちゃん、挑戦者じゃないのか。挑戦ってのはあれだよ、あの岩に刺さった剣を抜くのさ。あれを抜けたやつは選ばれし勇者だっつー言い伝えがあってな」
どこかで聞いたような話しだ。
「まああれだ。こんなところに迷い込んだのもなんかの縁だ。兄ちゃんも一応引っ張ってみたらどうだい?」そう言って男は、剣を指差した。
そうだそうだやってみろ、減るもんじゃなし!だのなんだの言う外野の声に押されるようにして、僕は剣のところに歩み寄った。なんなんだこの展開。それになんだよ勇者って。
なんだか揶揄われているような気もしたが、やればこいつらの気も済むんだろう。僕は剣の柄に手を掛け……
「ふんぬっ!!」
我ながら間抜けな声と共に、剣はすんなりと岩から抜けた。なんてことだ。
「おおおおおお!勇者だ!勇者様だ!!!珍妙な恰好の勇者様だ!!!!」
群衆は口々に僕を称えた。なんだかとてもむず痒い。
ひとしきり僕を讃え終わると、最初の男が僕に歩み寄り、こう言った。
「では勇者様、早速魔王をやっつけてきてくだせぇ」
……魔王?
「えっと、なんの話です?」
「嫌だなあ勇者様。勇者が聖剣を引き抜いたら、あとは魔王退治と相場が決まってるじゃないですか」
言いながら男はがははと笑う。こうして、僕の魔王討伐の旅が始まったのだった。

それから一年くらいの時間をかけて、僕は国中を周り、魔王の手下と戦った。森に潜んで旅人を襲う魔族を倒し、村を襲っては娘を拐かす魔王の幹部の首を刎ね、四天王と呼ばれる魔王の側近(5人いた)を切り殺した。どの戦いも、剣が勝手に動いてやっつけてくれたので、大した苦労はなかった。
そしていよいよ、魔王との直接対決の日がやってきた。魔王の城に向かうと、巨大な扉はひとりでに開き、僕を迎え入れた。城に入ってからも、誰にも邪魔される事なく、奥に進むことができた。最後の扉を開き、魔王の玉座の間に入る。

「よく来たな勇者よ」
低く、よく通る声が、薄暗い部屋に響く。広い部屋の奥に据えられた大きな玉座に、その声の主はいた。長い銀髪に整った白皙の顔立ち。想像していた姿とはだいぶ違う。
「もっと近くに来たまえ。話がしたい」
誘われるままに、僕は歩みを進める。
「話とは?命乞いか何かですか?」
声が震えそうになるのを上手く隠せているといいが。
「ははは、なかなか威勢がいいじゃないか。我が眷属を多数屠ってきただけのことはある。だが、命乞いとはまた別の話しだ。君の悩みについてのね」
「僕の、悩み?」
「そうだ。君は別の世界から来たのだろう?帰りたいとは思わないかね?」
魔王は、その端正な口の片端を少しばかり上げた。
「なぜそれを……」
僕は言葉を失う。
「そんなことはどうでも良いじゃないか。帰りたいのだろう?私はその方法を知っている」
動揺を隠しきれていたか自信がない。それほど、それは僕にとって衝撃的な言葉だった。この約一年、押し殺してきた願い、元の世界に帰る方法を目の前にいる男が知っていると言うのだ。
「簡単な話だよ。この世界を消してしまえばいいのさ。そうすれば、元々この世界の構成要素ではない君は世界の消滅と共に弾き飛ばされ、君の存在が最も安定する世界、君が元いた世界に戻されるというわけさ。君は帰れるし、私の目的である世界の終焉も達せられる。お互いWin-Winだ。良い話だと思わないか?」
魔王の目的が世界の征服ではなく終焉であったのは少し意外だった。
「なるほど……で、その方法とは?」
「乗ってきたか、いいね。方法はとても簡単だ。君の持ってている、その聖剣を使えばいい」
「聖剣を?」
「そうだ。その聖剣には魔族を屠る能力の他に、この世界を終わらせる力もあるのだ。その剣を高く掲げて、ある言葉を唱える。滅びの呪文さ」
「……その呪文とは?」
「とても短く、簡単な言葉だ。『バ◯ス』こう唱えるだけでいい」
どこかで聞いたような呪文だった。
「とはいえ君には少し難しいかもな。この世界に来て一年近く、色々な人と出会い、人間関係もできただろう。自分の生まれた世界ではないとはいえ、これほど長く過ごせばこの世界にも愛着が」
「バ◯ス」
聖剣を抜き放ち高く掲げると、僕は1ミリの躊躇いもなくそう唱えた。視界が真っ白な光に包まれていく。眩しさに何も見えなくなる少し前、魔王の端正な顔が驚きに歪むのが見えた気がした。

そして

耳を聾する大音量に顔を上げると、自分が赤信号の横断歩道に立っているのを発見した。右を見ると、大型トラックが野太いクラクションを鳴らしている。慌ててトラックに向かい頭を下げると、僕は歩道にかけ戻った。
危なかった。トラックに轢かれて異世界に飛ばされるなんていうベタな展開になるところだった。歩きスマホはほどほどにしないとな。




お題:イヤホン、滅びの、聖剣