
死亡魔塔
英題:Enter the game of death
製作:1981年
●幾多の映画で李小龍(ブルース・リー)の名を騙り、世界中からブーイングを浴びても我を貫いた男がいた。しがない脇役俳優から脱皮し、突如としてバッタもんになることを目指した彼は、次々と主演作を連発。いつしか香港のメインストリートから外れ、時代が李小龍からジャッキーに移ろうとも、それでも彼は李小龍になりきることを止めようとはしなかった。アクの強い香港映画界において、最も異彩を放つ異端児…それが呂小龍(ブルース・リ)であった。
そんな経歴が災いしてか、ネガティブなイメージで見られがちな呂小龍だが、本作はそんな彼の素顔が垣間見える作品なのである。
この作品は『新死亡遊戯・七人のカンフー』や『決鬥死亡塔』のような、いわゆる『死亡遊戯』タイプの作品だが、この手のタイトルはそれほど多く作られていない。『武闘拳 猛虎激殺』『七靈寶塔』のように、『死亡遊戯』から影響を受けた作品こそあるのだが、バッタもんスターが演じた『死亡遊戯』風の作品はとても少ないのだ。
当時、李小龍のバッタもん映画にはいくつかの形式が存在していた。ひとつは『ドラゴン怒りの鉄拳』タイプの抗日映画で、バッタもん映画では最も重宝されたパターンである。バッタもん映画を見慣れている人にとっては、主人公が不戦の誓いを立てる『ドラゴン危機一発』タイプなどもお馴染みだろう。だが一方で『死亡遊戯』タイプの作品は、どうして大量に作られなかったのであろうか?
その理由は、それぞれのタイプを読み解くことで自ずと説明できる。まず『怒りの鉄拳』タイプの作品は、日本人の横暴と弾圧される民衆、そして最後に怒り爆発な主人公の描写が欠かせないものとなっている。『危機一発』タイプはちょっと似ているが、こちらは敵と主人公の因縁を前提にして、嫌がらせを行う敵→爆発する主人公という方程式で描かれている。この2タイプの作品に共通するのは、全編に渡って「欠かせない要素」が必須となっている点だ。
だが『死亡遊戯』タイプの作品は、こういった「欠かせない要素」があまり見当たらない。要は最後に塔で闘えばいいだけなのだが、作品のタイプを象徴する独自のアイコンが乏しく、そのために他タイプの作品と差をつけられてしまったのではないかと考えられる。
このように、実は扱いにくい題材であった『死亡遊戯』タイプの作品であるが、呂小龍は(良くも悪くも)自分の作風を貫き通している。ストーリーは抗日的な要素を含みつつ、呂小龍サイドと日本人の対立を主軸としながらダラダラと続いていく。しかし、どうやら呂小龍は「俺は塔に登りたいんだ!登りながら色んな敵と闘いたいんだ!」と思っていたようで、早くも中盤にして塔へチャレンジしてしまうのだ。
恐らく、呂小龍はここに至るまでのストーリー展開に我慢がならなくなったのだろう(本作の監督は呂小龍ではない)。本人としては気合十分に挑んでいたのに、いつまで経っても塔に登らせてくれないので、きっと痺れを切らしてしまったに違いない。その証拠に、ここから彼の大暴走が始まってしまうのである。
塔に向かった呂小龍は全フロアをあっという間に攻略するが、彼は塔を制覇しても戦いを止めようとしない。余程のストレスが溜まっていたのか、呂小龍は「もっと敵をよこせ!ハキムみたいな奴を呼んで来い!ボスにロバート・ベイカーの真似させろ!」と言わんばかりに、テンション全開で戦いを続けていくのだ。そう、まさに「お前は永遠に闘い続けるのだ」と言われた、本家『死亡的遊戯』の李小龍のように…(視聴者そっちのけで)。
果たして、かつてここまで呂小龍が自身の欲求を炸裂させた映画があっただろうか?勿論、ここまでの台詞は私の想像でしかないのだが、実際の呂小龍も大体こんな感じだったはず。「オレ様映画」というものは香港映画界にいくつも存在するが、ここまで個人の思いが叩き込まれた作品はそうそう無いだろう。
こんな映画を世界中に公開し、それでも得意げな顔をしていられる呂小龍という男は本当に凄い。凄いけど、あえて一言だけ言わせて欲しい……………この映画つまんねーよ!(爆

「愛と欲望の街 上海セレナーデ」
原題:亂世兒女
英題:Shanghai Shanghai/Shanghai Encounter/Raiders
製作:1990年
●革命の気運が高まり、人々の心がすさんでいた動乱期の上海…地方から出稼ぎに来た元彪(ユン・ピョウ)は、ひょんな事からマフィアの抗争に首を突っ込んでしまい、黒社会に目を付けられてしまう。そんなこととは露知らず、彼は憲兵をやっている兄・林子祥(ジョージ・ラム)を尋ねるが、マフィアの幹部を殺したことで首領のサモハンと接触。元彪を気に入ったサモハンは、言葉巧みに彼を仲間に引き込んでしまう。
一転して成り上がっていく元彪だったが、その過程で林子祥の恋人である梅艶芳(アニタ・ムイ)と出会い、彼女が革命家だと知る。だが、しばらくして林子祥も元彪や梅艶芳の秘密に気付いてしまい、サモハンもまた梅艶芳の正体を知って激怒していた。イギリス軍の高官と結託していたサモハンは、日本軍が上海を襲う前に全てのカタを付けようと企んでいる。果たして、元彪たちの運命は…?
80年代後半の香港映画黄金期、そして90年代前半の古装片ブームの中間に位置するエアポケット的な作品です。この翌年に『ワンチャイ/天地黎明』が現れてワイヤーアクションの嵐が吹き荒れるのですが、本作の時点ではまだ昔ながらのオーソドックスな作風が貫かれています。
内容は上海を舞台にした黒社会モノではありますが、のちの香港ノワールのように洗練されてはおらず、往年の元彪&サモハン主演作のような鋭さも見られません。功夫アクションも凡庸で、ラストの元彪VSサモハン戦以外はそれほど凄いバトルも無いので、実にアッサリとした印象を受けました。
しかし本作は平均的なクオリティは満たしているし、まるでダメな映画ではありません。問題は本作に個性というものが抜け落ちていた事でしょう。一定の水準はクリアしているけど、それ以外に何も無いというのは少々寂しいものがあります。監督は作曲家の泰迪羅賓(テディ・ロビン)が担当しているんですが、ここは製作側に回っていた元奎(ユン・ケイ)に任せていれば、あるいは違った結果になったかもしれません。
ところで、本作のラストで元彪は「上海に残るよ」と言ってましたが、この後に金城武の『暗黒街 若き英雄伝説』を続けて見ると、なんとなくストーリーが繋がっているように見えます(話や舞台設定がほぼ同じ)。もし本作だけで物足りないと思ったら、『暗黒街』とセットで視聴するのをオススメしたいのですが…きっと鑑賞後は『暗黒街』の事しか記憶に残らないかも(苦笑

「タイガー・オン・ザ・ビート」
原題:老虎出更
英題:Tiger on the Baet
製作:1988年
▼これは、功夫映画界にその人ありと呼ばれた名武術指導家・劉家良(ラウ・カーリョン)が、古巣としていたショウブラから離脱した後、シネマシティに雇われていた時期に製作した作品である。
シネマシティとは、麥嘉(カール・マッカ)ら映画人たちが中心となって設立したプロダクションで、香港映画界に多大な革新をもたらした事で知られている。呉宇森・徐克などの巨匠や、周潤發・張國榮ら名スターたちが活躍し、『悪漢探偵』『男たちの挽歌2』『プリズン・オン・ファイヤー』といった傑作が次々と作られていった。こうして急速に発展した香港映画界だったが、それは同時に功夫片の時代が終わったことを意味していた。
劉家良は生粋の功夫職人であったが、時代の流れに乗ってシネマシティへと辿り着いた。そして、彼は人気絶頂だった周潤發の主演作を撮ることとなり、自らの持ち味を遺憾なく発揮して見せた。だが、その「持ち味」はシネマシティが期待していたものではなかった。…そう、劉家良は周潤發を使って功夫片を撮ってしまったのだ。この作品がクランクアップした際、シネマシティの首脳陣がどんな顔で視聴したのかは、想像に難しくない。
■物語は、周潤發と李元覇の刑事コンビが麻薬組織に立ち向かうというものだが、そのノリはショウブラ時代の功夫片まんま。出演者もショウブラの功夫スターが多く、劉家良はハナから周潤發の主演作を作ろうとしていなかったのでは?と邪推してしまうような出来である。
チャラけた万年巡査長・周潤發は、あるときマッチョ刑事の李元覇とコンビを組まされ、麻薬組織がらみの捜査を命じられてしまう。この事件、徐少強の組織から高飛(コー・フェイ)が麻薬を盗んだことに端を発しており、妹である利智(ニナ・リー)もこれに加担していた。周潤發たちは利智を重要参考人として逮捕するが、頑として口を割ろうとしない。麻薬組織も利智を探していたため、周潤發たちは自宅に彼女を連れて帰ったが、組織によって高飛が殺されてしまう。
その後、なんとか利智から情報を聞き出せたおかげで、警官隊は麻薬取り引きの現場を押さえることに成功。加えて徐少強も逮捕することができた。だが、現場から逃げ延びた劉家輝(リュウ・チャーフィ)が報復に現れ、利智が犠牲になった。周潤發の妹も誘拐され、警察もろくに動けない中、2人の男は敵陣へと乗り込むが…。
▲先述したとおり、本作における周潤發の扱いは極端に悪い。軟派な刑事というキャラには好感が持てるのだが、序盤から強盗に脅されて小便を漏らし、利智の取調べシーンでは浴槽に頭を突っ込ませるなど、あまりにもあんまりな描かれ方をされている。
一方、もう1人の主役である李元覇は逆に恵まれていて、功夫アクションの見せ場はたっぷりと用意されている上に、ラストでは周潤發の妹をゲットしてしまったりと、優遇されている節が目立つのだ。どうして同じ主役でありながら、売れっ子の周潤發をないがしろにするような作りにしてしまったのだろうか?
恐らく、これは監督である劉家良に原因があると思われる。現代アクションの監督経験がほとんど無かった劉家良にとって、この手のジャンルは扱いにくかったに違いない。そこでショウブラOBや功夫アクションの出来る役者を招き、自分が監督しやすい立地条件を整えた上で、本作の製作に着手したのだと考えられる。ゆえに、本来メインとなるべき周潤發が放置されてしまい、本末転倒な結果になってしまったのだが…。
その功夫アクションだが、どちらかというと『ポリス・ストーリー』のバリエーションといった感じで、劉家班らしさは息を潜めている(やたらガラスを破るスタントシーンが多い)。かろうじて李元覇VS狄龍(ティ・ロン)と、ラストのチェーンソーバトルが際立っていたぐらいで、全体的にインパクト不足であることは否めない。「あの劉家良でさえ、功夫だけで食っていくことは出来なくなってしまった」…本作は、そんな時世を象徴するかのような失敗作であると言えよう。
なお、冒頭で周潤發を人質に取る男に唐偉成(ウィルソン・タン)が、利智を乗せるタクシー運転手役で劉家榮(リュー・チャーヨン)がゲスト出演しており、熊欣欣(ション・シンシン)はラストで周潤發と壁をはさんで裏側にいる西洋人の背後にいるのが確認できる。熊欣欣は『タイガー・オン・ザ・ビート2』『悪漢探偵5』にも出ていたが、当時は劉家班に在籍していたのだろうか?

「柔術~JU-JITU」
製作:2010年
●いつまでも倉田保昭のカテゴリのトップが『ブルドッグ』のままじゃ居心地が悪いので(笑)、今回は倉田さんの最新作を紹介してみることにしよう。本作は倉田プロによって制作されたVシネ作品で、日本初の柔術映画とされている。柔術モチーフの映画なんて一杯ありそうな気がするが、意外なことに本格的な柔術映画というものは(私の知る限り)存在していなかったようだ。
ストーリーは、倉田さんが経営している柔術道場に空手家集団が挑戦してくるというもので、主演の坂井良平がこれに立ち向かっていく話となる。空手家集団は倉田さんが持っている「御免状」なるものを欲しているようで、カポエラ使いやスパイを送り込んだりと暗躍を開始する。一方、道場でナンバー1の実力者だった坂井は、自分の力を試したいという衝動に駆られていたが、師匠の倉田さんは「柔術は闘う手段にあらず」とこれを諭した。
その後、坂井の父が「御免状」の争奪戦で死んでいたことや、その父を殺したのが空手家集団のボス・伊吹剛だったことを知るなり、彼は敵討ちをしようと勇む。しかし、坂井の父を見殺しにしてしまい、後悔していた倉田は実力で坂井をねじ伏せた。ところがそんな中、道場に潜入していた空手家集団の卑劣漢が、倉田の娘を誘拐。駆けつけた坂井によって卑劣漢は倒されるも、今度は空手家集団最強の男にして伊吹剛の息子・中村浩二が姿を現した。
全ての決着をつけるべく、倉田に破門を言い渡されながらも中村と対峙する坂井…今、ここに柔術と空手の頂上決戦が始まる!
…という感じの作品だが、取り立てて凄い物ではない。
倉田プロデュースの作品といえば、過去にも『ファイナル・ファイト/最後の一撃』『黄龍 イエロードラゴン』と作られてきたが、どれも微妙な完成度であった。本作もこれまでのケースと同様で、あまり洗練された作品であるとは言いがたい内容となっている。
本作ではたびたび「むやみに闘うな」という、功夫映画などではお馴染みのフレーズが出てくる。功夫映画では、この文句に対して「理不尽な暴力への反発」「仲間の敵討ち」「純粋な勝負としての決着」などといった回答を用意することで、主人公に闘わざるを得ない状況を作り出していた。
だが、本作ではこの回答がうやむやにされており、主人公の葛藤も随分とアッサリとしている。動機付けをじっくり描けとは言わないが、あれだけ強調されていた「むやみに闘うな」という言葉に回答を示さないと、どうもしっくりしないのだが…。
また、政界と関連した悪事を伊吹たちが企んでいる描写があったが、このへんのエピソードは主人公サイドにまったく絡んでこない。明確な悪党キャラも、伊吹を除けば先述の卑劣漢ぐらいしかいなかったので(中村はダーティな闘い方をしていたが、本人は正々堂々としている)、悪役サイドの性格付けをもっとしっかりして欲しかったところである。
さて、注目の柔術アクションなのだが…これが実に評価が難しい。動作自体はかなり激しく、昨今の邦画の中でもトップレベルのアクションだったことだけは間違いない。出演者はみんな動ける面子が揃っているし、倉田さんも立ち関節や寝技などを次々と繰り出し、年齢を感じさせない活躍を見せている。ところが、メインとなるはずの柔術の描写がどうにも地味なのだ。
柔術は関節や極め技・寝技といった技を主体としているため、自然と動作のバリエーションが限られてくる。メイキングでも倉田さんが「柔術のアクションを表現するのに苦労した」と仰っていたが、まさにその弊害が影響を及ぼしているのである。かつて『激突!合気道』では、専守防衛の合気道という格闘技に空手映画の要素を足し、見事なアクションを構築していた。本作の場合も、味付け次第では更に高度なものに昇華できる可能性があったのだが、十分な成果は得られなかったようである。
とはいえ、基本的に格闘アクションのレベルは高いので、稚拙なストーリーに目を瞑りさえすれば大いに楽しめるのではないだろうか。

「ストライキング・レンジ」
原題:STRIKING RANGE
製作:2006年
●これはルー・ダイアモンド・フィリップス主演のアクション映画だが、もちろん当ブログで普通のアクションものを紹介するハズがない。本作には『パーフェクト・ウェポン』『ナイト・ハンター』等で活躍した、ジェフ・スピークマンが出演しているのだ。
剛柔流空手の実力者であるジェフは、その優れた身体能力を数々のマーシャルアーツ映画で発揮。本来なら、マーク・ダカスコスやゲイリー・ダニエルズらと並び称されるべき存在であったのだが、現在では見る影もないほど体形や容姿が変貌してしまっている。とはいえ、アクションセンスは未だに健在であるらしく、本作でジェフは悪の組織の親玉に扮しており、ワンシーンのみだが格闘アクションを披露している。
物語は、ルー率いる傭兵部隊が秘密兵器の争奪戦に巻き込まれ、見えざる敵と闘う姿を描いている。あるときワンマン社長の護衛を依頼されたルーは、そこでかつての恋人と再会した。実はこのワンマン社長、科学者の息子(父に疎んじられ気味)に作らせた原子分解光線をジェフ・スピークマンに狙われていて、その事情を伏せたままルーたちに依頼をしてきたのだ。
とりあえず秘密兵器は隠しておいたのだが、ジェフたちの襲撃を受けて本社ビルから脱出。ルーの相棒が「奥さんに逃げられるので金が欲しい」と不満を爆発させる中、謎の襲撃者がワンマン社長に牙を剥こうとしていた…。
本作がユニークなのは、前半と後半でまるっきり作品のスタイルが違っている点だ。前半はビルを舞台にした『ダイ・ハード』的な限定空間バトルが繰り広げられるのだが、これが割りと面白い。ビル内の照明が落とされたせいで、敵味方全員が暗闇の中で戦う羽目になり、謎の第三者が介入することによって緊迫感を加味させている。
ちなみにジェフの格闘シーンはここで出てくるのだが、まだまだ動けていてひと安心。贅沢を言わせてもらえるなら、もう少し明るい開けた場所でやって欲しかったかも。しかし、後半からはビルから脱出してしまい、アクションも単なる銃撃戦だけになってしまうので、これにはちょっとガッカリしてしまいました。アイディアが尽きたのか、それとも予算が無くなっちゃったのか…(たぶん前者)。
前半がそれなりに面白かっただけに、後半での失速ぶりが残念な作品。しかし、今でもジェフが格闘アクションを演じられると知って、ほんのちょっとだけ嬉しくなりました(笑