続・功夫電影専科 -35ページ目

続・功夫電影専科

香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


醉八仙拳
英題:Kung Fu of Eight Drunkards/Drunken Art's Tricks
製作:1980年

●酔いどれ師匠の雷鳴から修行を受けていた孟飛(メン・フェイ)は、あるときコソドロの午馬(ウー・マ)とトラブった勢いで武術大会に乱入し、そこで大立ち回りを演じるはめになる。習い覚えた酔拳で闘う孟飛だが、彼の使用する形を見た馬場は顔色を変えた。
この馬場という男は悪党グループの一員で、雷鳴とは浅からぬ因縁があったのだ。敵は孟飛が雷鳴の行方を知っていると確信し、様々な方法で揺さぶりをかけていく。
 どうにか孟飛は馬場を倒すものの、叔父の古錚はトラブルメーカーの彼を叱ってばかり。そうこうしているうちに第2の刺客・陸一龍の計略によって、孟飛たちの住んでいた食堂が立ち退かされてしまう。激怒した彼は陸一龍に詰め寄るが、力の差は歴然としていた。
午馬に助けられた孟飛は、追ってきた第3の刺客・龍飛(ロン・フェイ)を雷鳴のバックアップで撃破する。師匠から事情を聞いた彼は修行の練り直しを敢行。メキメキと実力を付けていくが、敵は姑息にも古錚とその娘を誘拐するのだった。
 孟飛は陸一龍にリベンジを果たし、午馬とともに家族の捜索を続けた。2人の知り合いである蛇拳使いの司馬玉嬌は、自分の父親がこの一件を仕組んだのだと知り、すぐに止めさせるよう直談判をする。
実は彼女の父親こそが悪党グループの親玉・陳星(チン・セイ)であった。司馬玉嬌は2人と古錚たちを引き合わせようとするが、それを許さない陳星はなおも襲いかかってくる。果たして戦いの勝敗は…?

 『酔拳』は香港映画界に一大ムーブメントを引き起こし、暗いイメージの強かった功夫片の世界をコメディ一色に変えました。多くの業界人がこの流行に同調しており、既に名声を得ていたベテラン俳優たちもコメディ系の作品に主演しています。
『酔馬拳・クレージーホース』の戚冠軍、『通天小子紅槍客』の汪禹、『小子有種』の傅聲などなど…。あの劉家良も『マッドクンフー・猿拳』で便乗しているのですから、いかにコメディ功夫片が注目されていたかが解ります。
 本作では方世玉俳優として名を馳せ、武侠片スターに大成していた孟飛が主演を飾っています。今にして思うと、明るい笑顔と確かなアクション・センスを持ちあわせた孟飛は、コメディ功夫片と相性のいい俳優だったのかもしれません。
しかし本作は孟飛の魅力をあまり生かせておらず、コメディの度合いが低い作品に仕上がっています。後半に差し掛かるとアクションから完全に笑いが消え、悲劇的な展開の果てに笑いを誘うオチを持ってきたりと、内容に大きなブレが生じていました。
ロミオとジュリエット的なキャラの司馬玉嬌、身なりは汚いが友達思いの午馬(本作の監督も兼任…残念ながら今年の2月に逝去)など、人物描写は悪くなかっただけにストーリーの雑さが惜しまれます。
 アクションは一定の質こそ保っていますが、全体的に作りこみの甘さが目立ちました。中盤でしか披露されないジャッキー風の小道具アクション、単調で似たような形ばかりの酔拳はその最たる例です。
いい素材は揃っているのにパッとしない出来となった本作。孟飛が主演した『酔拳』タイプの作品が、後にも先にもこれ一本しかない(『飛竜カンフー』は助演なので除外)と考えると、なんだか勿体ない気分になってしまいますね。
そんなわけで、長々とお送りしてきた「『酔拳』に挑んだ男たち」も終盤戦に突入。次回はキャスティング面ではなく、取り扱ったテーマについての検証を行います。『酔拳』といえば黄飛鴻、黄飛鴻といえば……??


三十七計/擒龍三十七計
英題:The No. 37 Plot/37 Plots of Kung Fu
製作:1979年

▼『酔拳』のヒットによって作られた無数の便乗作たち。その大半は「安く・早く」作ることを重視していましたが、今回紹介するケースは最も安上がりなパターンといえます。
本家本元に主演した成龍(ジャッキー・チェン)は、幼少から中國戯劇学院で京劇を学び、アクロバティックな動作を身に付けました。映画製作者たちは彼のようなアクションを求め、同じ京劇出身の若手俳優を起用したのです。
 特に人気が高かったのがジャッキーと同じ七小福の面々で、有名無名を問わず大勢のメンバーが投入されています。もともと武術指導家として評価を得ていた洪金寶(ハン・キンポー)を筆頭に、元彪・元・孟元文・果ては元武や元菊などが主演を飾りました。
七小福以外の京劇出身者も担ぎ出され、本来なら大部屋俳優の1人にすぎない彼らの主演作が氾濫しました。『龍の忍者』で神打使いを演じた脇役俳優・金龍が本作の主人公に抜擢されたのも、そうした流れが影響しているものと考えられます。

■金龍と許不了(『ドラゴン特攻隊』のB子)のボンクラ兄弟は、あるとき悪漢たちに襲われていた趙中興(『新桃太郎』の武術指導でお馴染み)を助けた。彼を祖母の陳慧樓(チェン・ウェイロー)に託した2人は、今日も今日とて金儲けに精を出していく。
いつもトラブルと隣り合わせの金龍たちだが、危ない時は普段から持ち歩いている「三十六計」の兵法書で凌いでいた。そんな彼らの前に奇妙な老人(張義鵬?)が現れ、なにかとチョッカイを出してくる。めっぽう腕の立つ老人の正体とは…?
 一方、趙中興を狙っていた嘉凱と孫樹培の魔の手が、とうとう2人の元に及ぼうとしていた。敵は老人と金龍たちがドタバタしている間に事を起こし、抵抗した陳慧樓・金龍らの妹・趙中興が犠牲となってしまう。
実は嘉凱たちは形意拳の流派を根絶やしにしようと企んでおり、形意拳派の趙中興は師匠に助けを求めようとしていたのだ。その師匠というのが例の老人で、彼は仇討ちを誓う金龍たちに修行を施すのだった。
しばらくして、そこそこ腕を上げた2人はリベンジを強行。孫樹培を倒すが嘉凱には敵わず、形意拳に見切りをつけて「三十六計」を元にしたオリジナル拳法へと鞍替えした(おい!)。果たして、彼らは仇討ちを遂げることができるのだろうか!?

▲主役を功夫俳優と喜劇俳優のコンビで固め、コメディ描写を増やすことでアクセントを加えた本作ですが、残念ながら面白い作品ではありません。一番の問題が演出面のクドさで、『魔柳拳』と同じく1つのギャグを延々と見せるシーンが多すぎるのです。
アクションも非常に野暮ったく、あの許不了が功夫アクションを見せる!という点は興味を惹かれますが、クドい演出(わざわざ敵の目前で4分以上も演舞を見せるなど)が災いしてユルい仕上がりとなっていました。
 作品の肝となるトンデモ拳法もパンチに欠けており、タイトルの三十七計が何を指すのかすら解らない始末(作中では使用する拳法を三十六計or三十六功とだけ呼称)。恐らく、最後に決めた技を含めて三十七計という事なのでしょうが…う~ん。
ラストバトルはそこそこ楽しいし、後半では趙中興VS程天賜(本作の武術指導も兼任)という興味深い対決もあったりしますが、個人的にはまずまず。同じ金龍が主演した便乗作なら、『辣手小子』の方が面白かったと思います。
さて、こうした若手俳優たちが台頭していく一方で、既存のベテラン俳優たちも『酔拳』便乗作に挑戦を表明していきました。次回はそんな作品の数々から、笑顔と扇子が似合う貴公子の主演作が登場です!


廣東[見]仔玉/烈火神功
英題:Kid from Kwangtung
製作:1982年

●『酔拳』の大ヒットにより、同作に出演したキャストは数々の作品で引っ張りだことなりました。前回は師匠役を演じた袁小田(ユエン・シャオティオエン)について触れましたが、今回は殺し屋・鉄心に扮した黄正利(ウォン・チェン・リー)の便乗作を取り上げてみましょう。
これまでに彼は『南拳北腿』や『鷹爪鐵布杉』などで素晴らしい仕事を見せており、『蛇拳』『酔拳』への出演によって悪役功夫スターの代表格となります。その実力の高さを見込まれた黄正利は、やがて”『酔拳』に出演した俳優”という冠から解き放たれ、次第に模倣品ではない映画にも出演するようになっていきました。
他の『酔拳』共演者たちが同じような役をやらされていたのに対し、テコンドー仕込みの足技で一歩先を駆け抜けた黄正利。この類稀なる俳優を起用せんとする映画製作者は多く、本作で彼は香港映画界の頂点に立つショウ・ブラザーズ社の作品に参加しています。

 当時、ショウブラは『酔拳』に便乗した作品をいくつも撮っていましたが、アクション的には間違いなく本作がベストの出来だと思われます。粗筋はとてもシンプルで、悪ガキの汪禹(ワン・ユー)と蒋金(ジャン・ジン)が清朝と反政府派の戦いに巻き込まれ、それぞれ家族を殺されて仇討ちを目指す!といった感じのお話です。
ヒロインに楊[目分][目分](シャロン・ヤン)、主役2人の先生にして師匠役を任世官、ヒロインの母親を黄薇薇が演じています。黄正利は清朝が放った刺客として暴れ回り、先述した面々と白熱したバトルを繰り広げました。
 とりわけ興味深いのが任世官VS黄正利で、ともにジャッキー映画で最大の強敵として君臨した2人のバトルは壮絶の一言。相変わらず黄正利の見せる足技は凄まじく、得意の三段蹴りもショウブラのスクリーンで見ると新鮮に感じるから不思議です(笑
もちろん他のキャストも奮闘していて、主演の汪禹や珍しく大役を任された蒋金の立ち回りも見応えバッチリでした。脇役の元や關鋒なども見せ場をもらっており、功夫映画ファンは必見の作品といえますね。

 これらのアクションを振り付けたのは本家本元にも参加した徐蝦(ツィ・ハー)で、本作では監督も兼ねています。彼は駆け出しの頃からショウブラで働いていたため、ショウブラが手掛けた『酔拳』便乗作の武術指導を何度も請け負いました。
本作ではオープニングから将軍令を流し、元祖『黄飛鴻』シリーズにあった鶏とムカデの対決を再現するなど、いつも以上に『酔拳』を意識した作風に徹しています(鶏とムカデは李連杰の『烈火風雲』にも登場)。
 しかしコメディ描写がしつこかったり、終盤に人死にが多くなったりと稚拙な部分も多く、ストーリーの出来は微妙と言わざるを得ません。また、本作が製作された頃はコメディ功夫片ブームも終息に向かっており、製作時期を逸していた感もあります。
とはいえ、黄正利inショウブラという点だけでも大きなインパクトを持つ本作。黄正利は今も映画界に身を置いていますが、いつかまた熱気あふれる彼のアクションが見てみたいものです。次回は、第2のジャッキーを目指した若者たち…京劇出身の若手俳優が出演した作品に迫ります!


「女カンフー 魔柳拳」
「酔鶴拳マスター」
「酔拳マスター」
原題:醉侠蘇乞兒
英題:The Story of Drunken Master/Drunken Fist Boxing
製作:1979年

▼前回は『酔拳』公開後に現れたジャッキーのバッタもんと、バッタもんを作り出すことの難しさについて触れました。ジャッキーの偽物を用意するのは手間が掛かりすぎる…そう判断した映画制作者たちは、『酔拳』に出演した俳優たちを続々と起用していきます。
中でも便乗作への出演が目立ったのは、酔いどれ師匠の蘇乞兒に扮した袁小田(ユエン・シャオティオエン)です。彼の元には多くのプロダクションから出演依頼が殺到し、似たような師匠役をひたすら演じることになりました。
特に1979年は袁小田にとって忙しさのピークにあたり、わずか1年の間に12本もの作品に出演しています。本作もそうした中の1本で、他にも山怪(サン・カイ)や石天(ディーン・セキ)といった『酔拳』出演組も参加しているのですが…。

■蘇乞兒こと袁小田は3人の弟子たちと平穏な生活を送っていた。1人は踊り子の楊[目分][目分](パメラ・ヤン)、もう1人は血気盛んな[上下]薩伐(カサノヴァ・ウォン)、あとの1人は飯屋の袁龍駒だ。
あるとき袁小田たちはチンピラの山怪と遭遇するのだが、そのボスである任世官(ヤム・サイクン)は袁小田に並々ならぬ恨みを抱いていた。憎むべき相手の居場所を知った任世官は、張華と手を組んで復讐を開始していく。
やがて両者は対決の時を迎え、ここに最終決戦の幕が切って落とされた。山怪と張華は早々に倒れたが、ラスボスである任世官はさすがに手強い。酒が切れて袁小田が闘えなくなる中、最後に立っていたのは…!?

▲本作には袁小田を始めとした『酔拳』出演組に加え、[上下]薩伐や任世官といった実力派も揃っています。しかし作品自体のテンポが非常に悪たいめ、まったくと言っていいほど盛り上がりに欠けていました。
原因はメリハリのない演出にあり、物語の進行に必要のない無駄なシーンが大量に見受けられます。冒頭で山怪が博打に興じるシーン、楊[目分][目分]と石天のやり取りなどは、もっと短くても差し支えなかったはずです。
 蘇乞兒というキャラクターの扱いも雑で、彼の代名詞であるはずの酔拳はオープニングと終盤にしか出てこないという有様。ラストバトルでやっと袁龍駒が酔拳を見せるものの、任世官を少し翻弄しただけで決定打にすらなっていませんでした。
袁小田の演じる人物像も他の便乗作と代わり映えせず、「とりあえず袁小田に蘇乞兒をやらせておけば売れるだろう」という製作側の考えが透けて見えます。その他の登場人物も魅力的とは言いがたく、全体的なクオリティは低いと言えるでしょう。
 功夫アクションはそれなりに頑張っており、袁小田も吹き替えスタントを極力使わないで奮闘しています。[上下]薩伐も鋭いキックを時折見せているし、楊[目分][目分]の柔軟性に富んだ動きも見事でした。
ただ、この面子なら”それなり”以上の凄いアクションが撮れていたのも確か。ラストバトルにおいてもメリハリのない演出が炸裂し、無駄に長いアクションの果てに面白味のないオチを迎えてしまいます。
 まさに便乗作の悪い面を体言したかのような本作。この手の作品に晩年まで振り回された袁小田ですが、彼にとって『酔拳』のフォロワー作品とは如何なる存在だったのでしょうか…?
さて次回は、袁小田たちと同じ『酔拳』の出演者であり、悪役功夫スターとして名を馳せた”あの男”をフィーチャーしてみたいと思います。


太極陰陽拳
英題:Tai Chi Shadow Boxing/Tai Chi Devil Dragons
製作:1980年

●1978年…呉思遠(ウン・シーユエン)が率いる思遠影業公司は、『ドランクモンキー・酔拳』と『スネーキーモンキー・蛇拳』の2本を発表。皆さんもご存知の通り、これらの作品は香港で年間興行収入のベスト10に入る大ヒットを記録し、功夫映画のあり方を大きく変えました。
多くの映画人たちはこの結果に触発され、続々と便乗作を作り始めます。そのアプローチは実に多種多様で、これまで当ブログでも幾つか作品を紹介してきました。そこで今月はキャスティングの視点から、便乗作を手掛けた人々がいかにして『酔拳』に挑戦したかを検証したいと思います。
 さて、香港映画で便乗作といえばバッタもん俳優の出番です。パクリ天国の香港映画界では、有名人の偽者が横行することなど日常茶飯事。過去には李小龍(ブルース・リー)や座頭市のバッタもんも存在しました。
ところがジャッキーの偽者は非常に少なく、バッタもん李小龍のように名を馳せた者もいません。なぜバッタもんジャッキーは普及しなかったのか?それには2つの大きな理由があったのです(理由は後述)。

 この作品は数少ない偽ジャッキーの1人にして、『必殺鉄指拳』でジャッキーの影武者を演じたとされる陳少龍の主演作です。彼は武術指導家としての顔も持ち、コメディ功夫片ブームのおりに偽ジャッキーとして開眼。本作と『奇門怪拳』の2本でバッタもんを演じています。
ストーリーは恐ろしく単純で、たまたま知り合ったスリの陳少龍と石頭の向雲鵬が、たまたま知り合った余松照に弟子入りし、余松照の宿敵である易原&金剛と闘う!というもの。普通ならここに色恋沙汰やギャグ描写を挿んだりしますが、本作にはそういった要素が一切ありません(苦笑
 大抵の功夫映画は簡単な筋書きで構成されているのですが、本作のやっつけ仕事っぷりは度を越しています。ヒロインである周瑞舫の存在、奪われた虎の像やヒスイの秘密など、話を膨らませられそうな素材は沢山あったのになぁ…(最後のどんでん返しも唐突すぎ)。
その一方で陳少龍は意外と健闘しており、ジャッキーの演技やアクションスタイルを何とか模倣しようとしていました。しかし本作はあらゆる面でレベルが低く、肝心の功夫アクションもモッサリとしているため、陳少龍の頑張りも空回りしています。
後半はそれなりにスピーディーなファイトが展開されるものの、全体的に芳しくない出来の本作。金剛と龍飛(ロン・フェイ)のほかに有名な功夫スターは出ていないので、無理に見る必要はないでしょうね。

 本作を見ても解るように、ジャッキーの柔軟なアクションとコメディ・センスは再現が難しく、簡単に真似できるような代物ではありません。それこそがジャッキーの偽者が流行らなかった理由の1つなのです(反対に李小龍は特徴的な動作が真似しやすく、偽者が大量に出回りました)。
「再現の難しさ」とともに挙げられるもう1つの理由は、「国外に於ける収益の低さ」です。バッタもん李小龍の場合、たとえ香港で失敗しても李小龍の人気が根強かった欧米マーケットに売ってしまえば、それなりに稼ぐことはできました。
 しかし当時のジャッキーは欧米での知名度が低く、バッタもん李小龍のような収益は見込めなかったと考えられます。こうした理由により、映画製作者たちは手間のかかるバッタもんの擁立を避け、別の方法で便乗作の撮影に着手していきました。
その方法とは、便乗作の常套手段――本家本元である『酔拳』に出演した役者たちの起用です。次回はそんな『酔拳』出演者たちの中で、最も人気の高かった赤鼻爺さんの出演作を紹介いたします!