
「女カンフー 魔柳拳」
「酔鶴拳マスター」
「酔拳マスター」
原題:醉侠蘇乞兒
英題:The Story of Drunken Master/Drunken Fist Boxing
製作:1979年
▼前回は『酔拳』公開後に現れたジャッキーのバッタもんと、バッタもんを作り出すことの難しさについて触れました。ジャッキーの偽物を用意するのは手間が掛かりすぎる…そう判断した映画制作者たちは、『酔拳』に出演した俳優たちを続々と起用していきます。
中でも便乗作への出演が目立ったのは、酔いどれ師匠の蘇乞兒に扮した袁小田(ユエン・シャオティオエン)です。彼の元には多くのプロダクションから出演依頼が殺到し、似たような師匠役をひたすら演じることになりました。
特に1979年は袁小田にとって忙しさのピークにあたり、わずか1年の間に12本もの作品に出演しています。本作もそうした中の1本で、他にも山怪(サン・カイ)や石天(ディーン・セキ)といった『酔拳』出演組も参加しているのですが…。
■蘇乞兒こと袁小田は3人の弟子たちと平穏な生活を送っていた。1人は踊り子の楊[目分][目分](パメラ・ヤン)、もう1人は血気盛んな[上下]薩伐(カサノヴァ・ウォン)、あとの1人は飯屋の袁龍駒だ。
あるとき袁小田たちはチンピラの山怪と遭遇するのだが、そのボスである任世官(ヤム・サイクン)は袁小田に並々ならぬ恨みを抱いていた。憎むべき相手の居場所を知った任世官は、張華と手を組んで復讐を開始していく。
やがて両者は対決の時を迎え、ここに最終決戦の幕が切って落とされた。山怪と張華は早々に倒れたが、ラスボスである任世官はさすがに手強い。酒が切れて袁小田が闘えなくなる中、最後に立っていたのは…!?
▲本作には袁小田を始めとした『酔拳』出演組に加え、[上下]薩伐や任世官といった実力派も揃っています。しかし作品自体のテンポが非常に悪たいめ、まったくと言っていいほど盛り上がりに欠けていました。
原因はメリハリのない演出にあり、物語の進行に必要のない無駄なシーンが大量に見受けられます。冒頭で山怪が博打に興じるシーン、楊[目分][目分]と石天のやり取りなどは、もっと短くても差し支えなかったはずです。
蘇乞兒というキャラクターの扱いも雑で、彼の代名詞であるはずの酔拳はオープニングと終盤にしか出てこないという有様。ラストバトルでやっと袁龍駒が酔拳を見せるものの、任世官を少し翻弄しただけで決定打にすらなっていませんでした。
袁小田の演じる人物像も他の便乗作と代わり映えせず、「とりあえず袁小田に蘇乞兒をやらせておけば売れるだろう」という製作側の考えが透けて見えます。その他の登場人物も魅力的とは言いがたく、全体的なクオリティは低いと言えるでしょう。
功夫アクションはそれなりに頑張っており、袁小田も吹き替えスタントを極力使わないで奮闘しています。[上下]薩伐も鋭いキックを時折見せているし、楊[目分][目分]の柔軟性に富んだ動きも見事でした。
ただ、この面子なら”それなり”以上の凄いアクションが撮れていたのも確か。ラストバトルにおいてもメリハリのない演出が炸裂し、無駄に長いアクションの果てに面白味のないオチを迎えてしまいます。
まさに便乗作の悪い面を体言したかのような本作。この手の作品に晩年まで振り回された袁小田ですが、彼にとって『酔拳』のフォロワー作品とは如何なる存在だったのでしょうか…?
さて次回は、袁小田たちと同じ『酔拳』の出演者であり、悪役功夫スターとして名を馳せた”あの男”をフィーチャーしてみたいと思います。