
「スカイホーク鷹拳」
原題:黄飛鴻少林拳
英題:The Skyhawk
製作:1974年
▼1970年代初頭、香港映画最大の牙城・ショウブラザーズ(以下ショウブラ)から離脱した面々により、ゴールデンハーベスト(以下GH)というプロダクションが設立されました。この当時の香港映画界は、対抗馬のいなかったショウブラによる1人舞台となっていたのですが、同社の独裁体制に反感を抱く者たちが現れたことにより、GHは誕生したのです。
とはいえ、設立間もないGHの規模はそれほど大きくなかったため、即戦力となるスターが必要となってきました。そこでGHは3人の俳優を代表格として推し、俳優の層が厚いショウブラになんとか追いつこうとします。その3人が田俊(ジェームス・ティエン)、劉永(トニー・リュウ)、そして黄家達(カーター・ウォン)だったのです。
…というわけで今月は、我らが無敵の銀魔王こと黄家達のキャリアを、出演作と一緒に振り返っていきたいと思います!
■かつての旧友・司馬華龍を訪ねて、黄飛鴻こと關興(クワン・タクヒン)は弟子のサモハンと共にタイへ来ていた。道中、黄仁植(ウォン・インシック)一味に襲われた青年・黄家達を伴い、關興御一行は司馬華龍と娘の苗可秀(ノラ・ミャオ)の元を訪れる。だが、現地では司馬華龍の会社と趙雄(手下に金珠・唐偉成)の率いるライバル会社との間で、深刻な対立が起きていた。
趙雄は会社経営の傍ら、殺人や人身売買を平気でするという正真正銘の悪党だった。連中は司馬華龍サイドの社員を脅迫し、食堂の女主人にまで乱暴を働こうとした。傍若無人の限りを尽くす趙雄たちに対し、サモハンや黄家達は何度となく屈辱を味わったが、關興は「むやみに争うのはイカン」の一点張りだ。
そして調子に乗った趙雄らは、ギャンブル狂の李昆(リー・クン)から食堂の権利書を強奪。司馬華龍とサモハンが返還交渉に出向くが、帰り際に襲撃を受けて死んでしまう。ずっとガンジー路線を貫いてきた關興も、ここに至って遂に行動を開始する。復讐しようと先走った李昆が第3の犠牲者となる中、趙雄と手を組んだ黄仁植との最終決戦が始まるが…。
▲ショウブラとの圧倒的な物量差に対応するために、GHはできるだけ多くのヒット作を求めていました。李小龍(ブルース・リー)や許冠文(マイケル・ホイ)の参入で状況はそれなりに好転しましたが、彼らに依存し続けるわけにもいきません。十分な興行収入と、ニューフェイスのスターを観客に印象付ける事…。この2つの課題をクリアする事が、当時のGH作品における共通の優先事項だったと思われます。
本作はその点において明確な回答を示しました。監督の鄭昌和は、まず長年続いた關徳興版『黄飛鴻』を復活させることで幅広い層にアピールします。黄仁植ら韓国人俳優を起用して韓国マーケットを射程圏内へ収め、黄家達に対しても冒頭と最後のバトルに参加させてしっかり目立たせています。2つの課題をあっさりと解決してしまうとは、さすがは『キングボクサー大逆転』の鄭昌和。まったくもって抜け目がありません。
ただ、そういった各々の要素を充実させる一方で、ストーリーやアクションは盛り上がりに欠ける出来となっています。特にアクション面については、黄仁植が『ヤングマスター』を髣髴とさせる激しい蹴りを見せていますが、正直言って凄いのはそこぐらい。武術指導はサモハン自らが行っていますが、当時の彼の殺陣はまだまだ洗練されてない部分が多く、『少林門』では動作のテンポが不均等でした。
本作では老齢の關徳興を黄仁植に勝たせるべく、その勝利に説得力を持たせるだけのバトルが求められましたが、成功したとは言い切れない結果になっています。のちにサモハンは『燃えよデブゴン7』で再び關徳興の殺陣を振付けていますが(武術指導は袁和平と共同)、こちらでは李海生(リー・ハイサン)を相手に見事なファイトを作り上げています。もしかすると『~7』における關徳興のアクションパートは、本作で苦汁を飲んだサモハンによる雪辱戦…だったのかもしれません。
さて話は黄家達に戻りますが、彼は同期の田俊・劉永と比べてブレイクはしませんでした。映画経験の豊富な田俊、ハンサムで立ち回りもこなせる劉永に対し、黄家達はGHで自らの個性を完全に発揮することが出来なかったのです。まだまだ発展途上にあった黄家達…しかし彼は新しい活躍の場を得て、一気にトップスターへの階段を駆け上がることになります。そう、台湾の巨匠として名高い"ある大導演"との出会いによって……(次回へ続く!)