『唐山五虎』 | 続・功夫電影専科

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香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


唐山五虎
英題:Five Superfighters/The Super Fighters
製作:1979年

▼1979年…その年に公開された2本の映画が、香港映画界の流れを大きく変えた。それが『蛇拳』『酔拳』である。この2本は復讐と仇討ちが吹き荒れていた功夫片に一石を投じ、先鋭的だったコメディ功夫片というジャンルを定着させた傑物だった。このムーブメントには多くの映画人が追従し、香港・台湾・韓国・果ては日本にもコメディ功夫片の嵐が巻き起こったのだ。そんな大ブームを、当時ゴールデンハーベストと競り合いを演じていたショウ・ブラザーズが見逃すはずが無く、当然の如くコメディ功夫片の製作に着手していた。
だが、ここで1つの疑問が浮かぶ。かつて李小龍(ブルース・リー)が人気を博し、多くの映画がその模倣に突っ走っていた70年代前半期、ショウブラは『実録ブルース・リーの死』という李小龍に唾吐くような映画を作り、ブームに背を向けていた。これは李小龍を擁していたハーベストがショウブラのライバルであった事が大きく、他社で起こったブームにおいそれと便乗するものかというショウブラの意地が聞こえてきそうな出来事だった。ならば、李小龍の路線には倣わなかったショウブラが、どうしてコメディ功夫片ブームに乗っかったのだろうか?
これは考えれば簡単な話である。今回のブームは李小龍個人が巻き起こしたものではなく、あくまでコメディ功夫片というジャンルそのもののブームだったため、ショウブラは参入を決意したのだろう。先の武侠片ブームで多くのヒット作を連発したショウブラとしても、今回のブームは黙って見ている訳にはいかなかった。「独立プロが売れる作品を作れるなら、大手の我々が作れば更に上を行く作品が作れるはずだ」とショウブラが言ったか知らないが、大手としてのプライドが後押ししたのは確実なはずである。

■流浪の武術家・關鋒は道場破りマニア。今日も道場破りに現れて…って、ここで襲撃を受ける道場の長は劉鶴年じゃないか!劉鶴年といえば長江電影の常連俳優だが、それ以前に道場破られフェチとして有名なお方だ。『湮報復』『截拳鷹爪功』『龍虎門』等々、この人が道場主をやってると必ず良からぬ事が起きるのだが、わざわざショウブラに来てまで道場を破られるなんて本人が好きでやってるとしか思えないぞ(笑
てな訳でアッサリと劉鶴年を征した關鋒、次に侯朝聲が師を務める一団に遭遇した。そこで呉元俊(七小福の1人)・惠天賜(惠英紅の兄貴)・梁小熊(梁小龍の弟…本作では熊光名義)と戦闘になるが、彼ら4人は關鋒にボロ負けしてしまう。おのが技が通じず、嘆き悲しむ侯朝聲。それを見た弟子3人はリベンジを決意し、実力強化のために別の武術の師を探して修行する事を誓った。まず梁小熊は豆腐売りで足技の達人・黄薇薇と出会い、押しかけ弟子となって厳しい修行に徹した。ちなみに黄薇薇とは『マジック・クリスタル』でリチャード・ノートンと剣で闘ったあの叔母さんだ(その『マジック・クリスタル』では梁小熊が武術指導を担当しているのだから奇縁である)。
そのころ呉元俊はギャンブルがらみのトラブルから酔いどれ師匠・林輝煌と出会う。こっちも強引に押しかけ弟子になり、残る惠天賜は棍術使いの漁師・陸劍明の元に身を寄せた。それにしても功夫片の世界には本当にそこら中に達人がウヨウヨしているなぁ。本作は極端な例かもしれないが、これじゃ中国人全員が功夫の使い手だと勘違いされたって仕方ないかも(爆)。一方、3人の弟子に去られた(と思っている)侯朝聲は酔剣の修行に明け暮れ…。
半年後、集中特訓で修行を終えた3人は侯朝聲のもとへ帰ってきた。突然姿を消した弟子たちにブツクサ文句をたれる侯朝聲を尻目に、彼らは再度現れた關鋒との闘いに挑んだ。習い覚えた拳技で立ち向かう3人だったが、關鋒の隠し玉である槍が出たところで、一気に形勢は不利になってしまう。各々の持ち味を存分に生かして闘う3人だが、果たして關鋒を倒せるのだろうか?

▲本作はコメディ功夫片にショウブラが切り込んだ作品の1つだが、ショウブラ自身が他の独立プロとの違いを宣言したかのような作品だった。なにしろ本作の主人公は3人も存在し、それぞれ絶妙な功夫アクションを見せている。頑張ってもダブル主演の作品を作るのが関の山である独立プロに対し、物量の圧倒的な差をショウブラが示して見せたのがこの作品だったのだ(監督が『実録ブルース・リーの死』と同じ羅馬であるのも、何かの当てつけかと思うのは考えすぎか?)。
しかし同時に見失ってしまったものも本作にある。確かに主演3人の見せる功夫アクションは素晴らしかったし、それぞれ功夫・足技・棒術と特色が分けられていたのも良い。だが複数の主役を揃えたための弊害か、彼ら3人にあまり個性が感じられないのだ。同じ複数主役の作品といえば、ショウブラには五毒という優秀なユニットが存在したが、あちらは個々のキャラクターがきちんと差別化が図れていたし、役割分担も徹底されていた。本作ではそのへんが少し曖昧で、他の侯朝聲といったキャラにも影響が及んでいる。
そんな本作で悪役を演じたのは、"ショウブラの便利屋"關鋒だ。功夫片・武侠片などの隔たりに関わらず大量の作品に出演しているが、同じショウブラ作品常連の王龍威とは違って悪役・善役なんでもこなす器用なタイプの役者である。本作でも呉元俊ら4人を相手取っての死闘を演じ、キャストの中でひときわ印象深いキャラクターを演じていた。やはりコメディ功夫片で最も重要なのは、明確な陽性の登場人物と悪役、これに尽きるだろう。
本作はその点においては少々不満を残すが、功夫アクションそのものは本当に素晴らしい。これでキャラ立ちがはっきりしていれば文句なしの傑作だったのに…ショウブラ側もそれは重々承知していたようで、のちに新たなインパクトを持つ作品を打ち出してくることになるのだが、それについてはまた別の機会にて。