
「ザ・スコーピオン キング・オブ・リングス」
原題:SCORPION
製作:2007年
●今回は特集という事で、普段はあまり紹介する機会のない新作もいくつか取り上げてみよう。本作はK1ファイターのジェロム・レ・バンナが出演している事がウリになっている作品だ。しかしこの手の「本物の格闘家が出演!」という売り文句は、マーシャルアーツ映画ではあまり信用できないキャッチコピーの代表格として有名だ。
確かに格闘家は身体能力が高く、またネームバリューも無名のスタントマンよりは遥かに大きい。だが映画の格闘シーンというものは乱暴な言い方をすると「技斗」であり、現実の格闘技とは全く異なることを忘れてはならない。また、「本物」をウリにする場合は格闘家の起用によって生まれるリアリティも狙いなのだろうが、リアリティと素晴らしい格闘アクションの間には、容易にイコールを書けないのが現実である(特にその点が最も顕著なのはドン・"ザ・ドラゴン"・ウィルソンだろう。キックボクシングのチャンプとして毎回「本物」をウリにしているが、ドン作品の出来は皆さんもご存じの通り)。
もし本物の格闘家を起用するのなら、まず必要なのは格闘家を強く見せられる演出力である。いくら生きのいい素材があっても、料理人の腕が未熟ならたちまちクズ料理になってしまうものなのだが、マーシャルアーツ映画では中々これが上手くいっていない。特にプロレス上がりの役者などを使った場合、よくパワー重視の木偶の坊スタイルに陥ってしまう事が多く、これが「本物」の価値観を失墜させる一因になっているのだが…。
そんなわけで、私は本作を見る前はかなり不安だったのだ。フランス映画ということで知っている役者は皆無だし、「本物」の投入と暗い感じのパッケージも不安を煽る材料となった。
ストーリーはよくある裏社会の闘技場モノで、ケンカで人を殺してしまった元格闘家のクロヴィス・コルニアックが、麻薬組織の口利きで非合法の闘いに立ち向かうという話だ。クロヴィスはそこで娼婦のカロル・ロシェーヌと出会って恋に落ちるのだが、本作は格闘シーンよりもこの恋愛模様の方に尺を割いている。こっちとしては思春期の中学生みたいな態度でアプローチするクロヴィスとかどうでもいいのだが(苦笑)、余計なサブプロットが作品の進行具合を阻んでいるのはどうにかして欲しかったところだ(特に潜入捜査官の部分が余計で、あのオチはいくらなんでも酷い)。
肝心の格闘シーンだが、こちらはK1みたいな総合格闘技タッチで綴られており、寝技や組み技が多用されている。これはこれで力強い感じが出ているが、印象としてはちょっと地味。主人公はタイ式キックボクシングの選手だったという設定があるが、蹴り技はあまり使用しないので派手さも控えめだ。さて問題のジェロム・レ・バンナだが、彼は表の世界の格闘家としてクロヴィスに立ちはだかる最後の強敵として登場。ただし彼自身は悪役ではなく、腕を折られても試合を続行したり、カロルの窮地を知って試合を抜けようとするクロヴィスを見送るなど、少ないカットでフェアなファイターぶりを見せている。
格闘アクションはさすがにクライマックスという事で見せてくれるし、クロヴィスとジェロムが見せる一進一退のバトルはそれなりに面白く、本作における「本物」は面目躍如の役割を果たしていたといってもいい筈だ。しかしこのラストバトルはカロルの危機を知ったクロヴィスが途中で試合を放棄してしまい、かなり中途半端な形で中断(!)。カロルがいる売春組織のボスのところへクロヴィスが向かい、グダグダな形で事件は決着してしまう。
この売春組織ボスのところに強敵がいたらまだマシだったかもしれませんが、特に何も起こらないまま終わってしまうのはどうにも…っていうか、最後の対決なんだから、ちゃんと決着つけてから終わってくれよ!(爆