サン・ラ - ヒドゥン・ファイア (El Saturn, 1988)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ヒドゥン・ファイア1 Hidden Fire 1 (El Saturn, 1988) :
Recorded live at Knitting Factory, New York, January 29 and 31, 1988
Released by El Saturn Records Sun Ra 13188III/ 12988II, 1988
All compositions and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Untitled (Retrospect/This World Is Not My Home) - 14:58
(Side B)
B1. Untitled Improvisation - 9:29
B2. Untitled blues - 7:45
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - synthesizer, organ, vocal
Michael Ray - trumpet
Ahmed Abdullah (pos.) - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone
Kenny Williams (prob.) - baritone saxophone
Eloe Omoe - alto saxophone, bass clarinet, contra-alto clarinet
James Jacson - basoon, Ancient Egyptian Infinity Drum
Billy Bang - violin
Owen Brown, Jr. - violin
June Tyson - violin, voc
Art Jenkins - vocal including space voice
John Ore - bass
Luqman Ali (pos.) - drums
Buster Smith - drums
Pharaoh Abdullah (pos.) - percussion
*
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ヒドゥン・ファイア2 Hidden Fire 2 (Saturn, 1988)
Recorded location & Personnel same as "Hidden Fire 1"
Released by El Saturn Records 13088A/12988B, 1988
All compositions and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Untitled (My Brothers The Wind And Sun #9) - 18:10
(Side B)
B1. Untitled - 9:42
B2. Untitled - 14:01
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Recorded location and Personnel same as "Hidden Fire 1, 2"
Released by El Saturn Records (non number), 1988
All compositions and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Untitled (Hidden Fire 2/A1) - 18:10
(Side B)
B1. Untitled (Hidden Fire 1/B1) - 9:29
B2. Untitled (Hidden Fire 1/B2) - 7:45
*
Recorded location and Personnel same as "Hidden Fire 1, 2"
Released by El Saturn Records (non number), 1988
All compositions and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Untitled
(Side B)
B1. Untitled
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(Original El Saturn "Hidden Fire 1" & "Hidden Fire 2" LP Side A Label)
そこで今回は、アーケストラ公式サイトでも自主レーベル・サターンからのリリースを公認している『Hidden Fire 1』と『Hidden Fire 2』のみを対象にします。『Hidden Fire (1 & 2)』と『Hidden Fire (3 & 4)』はデータの掲載だけしかできません。またサターン・レコーズのリリース元であるアーケストラ側自身が『Hidden Fire (1 & 2)』と『Hidden Fire (3 & 4)』の存在を認めておらず、3と4はマスターテープまで完成されたがリリースされなかったとしていることから、ともにレコード番号すらない『Hidden Fire (1 & 2)』と『Hidden Fire (3 & 4)』は海賊盤ではないかという疑問が上がります。『Hidden Fire (1 & 2)』が2のA面・1のB面をカップリングした(海賊盤の)編集盤だとすると、と『Hidden Fire (3 & 4)』は一応最初から3と4のカップリングとされていますが、3と4は未発表というアーケストラ公式サイトの記述を信用すれば、実態はやはり海賊盤の、1のA面・2のB面のカップリング編集盤ではないかと推察されます。無記名ジャケットをそのまま複製流用できることから海賊盤業者(またはプライヴェート・プレス盤)が容易にアルバムをでっち上げたとしたら、無記名ジャケットが招いた事態とも言えますが、この『Hidden Fire』2作はアーケストラの自主レーベル、サターン・レコーズからの最後の新作アルバムになり、シングルとしては1955年の「Saturn」、アルバムとしては1957年の『Super-Sonic Jazz』以来30年あまり運営されてきたサターン・レコーズは、以降旧作の再プレスのみのリリースになります。おそらくサターン・レコーズの懐事情から連作ライヴなら同じジャケットを2枚合計のプレス枚数分製作して(異なるジャケットを2作分作る手間を省いて)、中身のレコードだけ別という販売方法をとったために海賊盤まで出回ることになったので、1と2を購入しようとして2枚とも同じアルバムを買ってしまったり、バンド側でも会場での手売り販売・委託先への出荷が混乱したりと被害が続出した(サターン盤はプレスミス盤、販売ミスまですべて返品不可の方針でした)と言われます。
さてようやく内容にたどり着きましたが、1988年の2枚の『Hidden Fire』は、当時もっとも最先端のニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンの音楽スポットとして注目されていたニッティング・ファクトリー公演から、無題のインプロヴィゼーションを集めたアルバムになりました。演奏は、1、2ともどちらかというというとA面が楽曲性が高くまとまりのある内容なのに較べ(曲目特定はマニアの研究サイトでの調査によるものです)、B面では実にやりたい放題の奔放なフリー・ジャズが聴けます。マニアの特定による1のA面曲「Retrospect/This World Is Not My Home」のうち「Retrospect」は1982年録音のアルバム『Nuclear War』収録曲であり、2のA面曲「My Brothers The Wind」は1969年録音・1970年発表のアルバムのタイトル・ナンバーです。それぞれの後半はライヴ用インプロヴィゼーション曲に仮題をつけたものでしょう。オルガンの強力さは言うまでもなく、久々のジューン・タイソンとアート・ジェンキンスの男女ヴォーカル、公式アルバムでは初登場となるビリー・バングのヴァイオリン(なんとタイソンまでヴァイオリンを弾いています)の導入と2ドラムス+パーカッションも効果的で、トランペットのマイケル・レイやバス・クラリネットのエルモ・オーモエの復帰も嬉しく、しかも1950年代前半からジョージ・ウォーリントン、レスター・ヤング、ベン・ウェブスター、コールマン・ホーキンスとの共演で鳴らし、セロニアス・モンクやエルモ・ホープ、バド・パウエル、フレディ・レッドのレギュラー・ベーシストを勤めてきた('60年代にはダブル・シックス・オブ・パリ、'70年代にはテディ・ウィルソンやアール・ハインズのベーシストも勤めていた)陰の名手ジョン・オール(1933-2014)参加とはよくぞ来てくれたと感涙にむせびます。1984年のヨーロッパ・ツアー帰国後からリリースもめっきり減り、発掘ライヴを聴いてもややマンネリ感のあったサン・ラ・アーケストラにとって、1986年12月のブラック・セイントへのスタジオ録音に続いて本作『Hidden Fire』の2枚は、この年74歳のサン・ラの創作力がまだまだ健在なのを証明する鮮やかな内容になりました。アーケストラの私家録音で元々あまり良い音質・ミックスではなく、またカッティングも安普請な上に基本的にはライヴでのインプロヴィゼーションを編集した作品のため、本作はファースト・チョイスには向かず、'50年代から'80年代までの代表作をひと通り聴いたリスナーでないとやや(かなり)敷居が高いアルバムですが、サン・ラのディスコグラフィーを追ってきたリスナーにはサターン盤の最終リリースということもあり、よくぞここまでやってくれたと胸に迫るアルバムです。また本作以降のサン・ラのアルバムはすべてインディー、メジャー取り混ぜた他社からのリリースになりますが、サン・ラの余命はあと5年に迫っていました。以降のアルバムはよりメインストリーム・ジャズに寄っていくので、サターン盤最終作が痛快爆裂フリー・ジャズ路線のライヴ盤になったのはキャリアのひと区切りを感じさせもします。残念ながら本作『Hidden Fire』1・2は正規盤未CD化で、CDでは海賊盤しか出回っていないのが痛いところです。3と4の未発表マスターどころか、1と2のマスターテープまで紛失状態で、公式再発売ができない状態なのかもしれません。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)